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皇帝陛下の愛娘は健気に手紙を書く

「パパー、パパはリリーのどこが好き?」


「どこがと聞かれると難しい。髪の色以外は母親そっくりのその見た目も悪くない。声も嫌いじゃない。お転婆なのも悪くない。…つまりはまあ、どこが好きというよりリリアージュだから側に置いている」


悪くないだの嫌いじゃないだの側に置いているだのと散々な言いようだが、素直じゃないナタナエルの精一杯の愛情表現。賢いリリアージュは、父の想いをしっかりと理解したようでご満悦だ。


「リリーはねー、パパの緑の髪が好き!お揃いで嬉しいの!あとね、パパの赤い目も好きよ!宝石みたいで綺麗ね!あとはね、背が高いところも好き!高い高いしてもらうと楽しいの!それからねぇ、優しいところも好き!」


優しいのはお前にだけだと言いそうになって止める。余計なことを言って嫌われたくない。


「…で?」


「え?」


「誰に何を言われた?」


ナタナエルは気付いていた。意外にも聡くて、それでいて誰よりも自分からの愛情を信じているリリアージュが「どこが好き?」なんて聞いてくるのは余計なことを吹き込んだ連中がいるということだと。


リリアージュはぼろぼろと涙を流す。


「知らない、綺麗なお姉さん…リリアージュのことを見て、これからパパの愛を一身に受けるのはリリアージュじゃなくてお姉さんだって。お姉さんとパパに子供が生まれたら、リリアージュは要らないって…」


ナタナエルは舌打ちしそうになり必死に堪える。リリアージュが不安になることはしない。絶対に。


「リリアージュ。その女と俺、どちらを信じる?」


「…パパ!」


「なら、もう泣くな。お前を脅かすものは全て、俺が排除する」


リリアージュはハンカチをポケットから取り出して、涙と鼻水を拭うといつものように無邪気に笑う。


「パパ、大好き!」


「愛している、リリアージュ。俺の、唯一の家族…」


リリアージュを撫でる手つきは優しい。リリアージュはすっかりと元気を取り戻し、庭へ遊びに出かけた。


「ルイス。聞いていたな」


「はい、皇帝陛下」


ルイスという、隠密の者がどこからともなく現れた。皇国騎士団特殊部隊の隠密で、ナタナエルの乳兄弟である彼は、人を信じないナタナエルから唯一信頼を勝ち取っていた。ちなみにリリアージュのファンでもある。なんせ可愛い乳兄弟を良い方向へと変えてくれた大切な愛娘様だからだ。


「俺の後妻…皇后になろうとしていたあの侯爵家の女で間違いないだろう。消せ。手段は任せる」


「任されましたが…自ら処断しなくてよろしいのですか?」


「リリアージュを抱き上げるための腕が汚れる」


「…本当に、良い方向へと変わりましたね」


「ん?」


「リリアージュ様を傷つけた罪、しっかりと償わせましょう」


「頼んだ」


その日、とある侯爵家の姫君が馬車で屋敷へ帰る途中、強盗に遭い命を落としたという。その現場は凄惨で、侯爵達はあまりのことに気が触れて檻付きの病院に送られたという。侯爵家は侯爵の弟が継ぐこととなった。


「パパ!」


「リリアージュ、どうした?」


「…今日もあのお姉さん、来る?」


「もう二度と来ないぞ。それがどうした?」


「そっかぁ。あのね、リリーもパパが好きであのお姉さんもパパが好きでしょ?だから、仲直りしようと思って、お手紙書いたの。でも来ないんだね…」


「…俺が預かる。必ず渡しておく」


「ありがとう、パパ!」


渡すといっても、葬儀の際棺に入れるように頼むだけだが。まあ、渡すことに違いない。リリアージュは何も知らずに無邪気に笑う。リリアージュの笑顔を守るために、ナタナエルは今日も良き皇帝でいる。

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