皇帝陛下の愛娘は皇帝陛下とお昼寝する
「パパ!」
「どうした?リリアージュ」
走って抱きついてくるリリアージュを軽々受け止めるナタナエル。リリアージュはナタナエルの頬にキスをした。
「実はね、今日良い事があったの!」
「良い事?」
思い当たる節がない。なんの話だろうか。
「私ね、結婚することにしたの!」
そこで、目が覚めた。ナタナエルは胸を押さえて苦しげな息を吐く。心臓が止まるかと思った。
もう眠る気にならない。執務を済ませてしまおう。ナタナエルは、夢を思い出したくなくて凄まじい集中力で執務を行う。気がついた時には朝だった。
もはや隠密というより世話係のようになっているルイスは、今日もナタナエルを起こしに来た。信頼できる者以外には寝姿を見せたくないというナタナエルの性格故だ。
しかしナタナエルは珍しく起きていた。そして、ナタナエルのいる机の上には今日片付けるべき書類が全て完璧な状態で置かれていた。一目で徹夜したのがわかる。
「皇帝陛下。徹夜で仕事なんて、久しぶりですね。リリアージュ様をこちらの宮に引き取られたからは一度もこんな無茶しなかったじゃないですか」
「リリアージュが婚約する夢を見た」
なるほど。納得だ。
「なら、今日はリリアージュ様にとことん癒されてください。もう執務は終わったのでしょう?今日は誰かと会う予定もありませんし、一日中リリアージュ様と過ごせますよ」
一日中リリアージュと過ごせる。ナタナエルは眠気が吹き飛んだ。
朝食をリリアージュと共に済ませ、リリアージュに今日は一日オフだから一緒に過ごせると伝える。
「本当!?パパとずっと一緒にいられるの!?」
「そうだと言っている」
「嬉しい!パパ大好き!」
「愛している、リリアージュ」
抱きついてくるリリアージュを軽々抱き抱えて頬にキスを落とすナタナエル。他国の王族が見たら泡を吹くのではないだろうか。
「じゃあ、あのね、私、パパとお昼寝してみたい!」
ルイスは心の中でガッツポーズをした。ナタナエルを休ませられる。
「なら、俺の部屋に来い」
「うん!」
ナタナエルは、リリアージュと共にベッドに横になる。リリアージュはナタナエルに引っ付いてぎゅーぎゅーとナタナエルに抱きついて寝る体勢に入る。
「…」
ナタナエルはそんなリリアージュの背中をとんとんと叩き、眠りを促す。リリアージュが眠ったのを確認して、おでこにキスをした。そして自分もさっさと寝る。
夢をみる。ナタナエルとリリアージュ、そしてリリアが三人でお昼寝している。リリアージュは恋の相談をリリアに持ちかけ、ナタナエルがお前にはまだ早いと止める。リリアがナタナエルに、リリアージュはもう恋をする年齢だと窘めて、リリアージュの悩みに真摯に向き合った。
「…」
目を覚ました。幸せな夢を見た。だがやはり、リリアージュが恋などまだ早いと思う。リリアージュの恋の相談を受けたリリアがちょっとだけ恨めしい。まあ、夢の中の話だが。
「…いや、どうだかな」
いつだか隣国の聖女が言っていた。リリアはナタナエルの側に寄り添っていると。ならば、ただの夢ではないかも知れない。
「…もう恋をする年齢か」
ナタナエルは眠るリリアージュの瞼にそっとキスを落とした。リリアージュは、眠ったままにんまり笑う。それがなんだかおかしくて、可愛くて。ナタナエルはリリアージュが起きるまで、そっと見守ることにした。