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皇帝陛下の愛娘は、聖女様と出会う

「隣国の聖女様、ですか?」


「ああ、なんでもリリアージュと話がしたいらしい。お前が嫌がるなら断るが、どうする?」


リュシエンヌの事件が片付いて数日後。リリアージュはナタナエルから隣国の聖女と会うかどうか聞かれた。リリアージュの答えはもちろんイエスである。


「聖女様と会えるなんて、初めて!パパ!ありがとう!」


「お前が喜ぶならそれでいい」


相変わらずリリアージュには甘い父親である。


そして数日後。隣国の聖女が現れた。


「リリアージュ・プロスペールと申します。聖女様にお会い出来て光栄です!どうぞ、リリアージュとお呼びください」


「聖女、レティシアと申します。元は平民ですので、お気遣いなく。リリアージュ様とお会い出来てとても嬉しいです。レティシアとお呼びくださいませ」


二人の間の空気は清廉である。これなら間違ってもリュシエンヌの時のようにはならないと、ラウル達は胸を撫で下ろした。だが、一応きちんと気を張ってリリアージュの側に控える。


「リリアージュ様、私はリリアージュ様と秘密のお話をしたいのです。どうか、人払いを」


「それは出来かねます」


ニコラが素早く反応したが、リリアージュは言った。


「パパの結界がまだ残ってるもの。大丈夫。それに、聖女様は素敵な方だもの。少しだけ、離れててくれたらいいから。ね?」


リリアージュの一欠片も相手を疑っていない純粋な笑顔に、ニコラは目眩がした。何かあってからでは遅いが、しかし…この笑顔を曇らせるわけにもいかない。


「…わかった、俺たちは少しだけ離れるけど、同じ部屋にいる。ひそひそ話なら聞こえない距離で控えてるから、それでいいか?」


「シモン!」


シモンが勝手に決定し、ラウルとニコラは咎めるように名前を呼ぶ。エミリアとレオノールは、ただオロオロするばかりだ。


「ありがとう、シモン!」


結局、リリアージュの笑顔に押し切られて全員ギリギリの距離まで離れた。


「それで、秘密のお話ってなんですか?」


嬉しそうに話しかけるリリアージュに、レティシアは優しく笑った。


「ふふ、リリアージュ様と皇帝陛下がどれだけ愛されているか、お伝えしておこうと思いまして」


「…?」


「リリアージュ様のお母様は皇帝陛下が心配で、天上の国には登らずずっと皇帝陛下に寄り添っていらっしゃるのですよ」


レティシアは優しく微笑む。リリアージュはびっくりするよりも先にママらしいなと思った。


「母は父が大好きですから。私も負けませんけれども」


そう言うリリアージュに、レティシアは笑う。


「ええ、そうですね。リリアージュ様も、お母様と同じくらい皇帝陛下を愛していらっしゃるのでしょう。でも、愛にも種類がありますから」


「んー。確かに母の父への愛と、私の父への愛は別物ですよね」


「ふふ。リリアージュ様は、お母様が不治の病を患われていたことはご存知ですか?」


「えっと、はい。父から聞いております。一年も保たない進行性の病気ですよね」


「でも、お母様は亡くなる六年前…リリアージュ様を身籠もる少し前からご病気を患われていたのです」


「え…?」


「リリアージュ様のお母様は誰にも病気のことを伝えなかったそうですが、皇帝陛下は割と早い段階でそれに気付いていたようです。治癒魔法をこっそりと定期的に掛けて、寿命を引き延ばしていたようですよ。ただ、皇帝陛下ですら治せないから〝不治の病〟なのですが。リリアージュ様が生まれた後も、それとなく理由をつけてはリリアージュ様のお母様にお会いして、治癒魔法をこっそりと定期的に掛けていたようですね。それがなければリリアージュ様は五歳になるまでお母様と暮らせなかったでしょう」


「…パパ」


「そして、リリアージュ様のお母様もいつからかそれを理解されていました。お互い、言葉にはしなかったようですが」


「…それが、二人の愛なんですね」


「ええ。そしてその結晶がリリアージュ様なのですよ」


まるで慈しむような、レティシアの微笑み。自分を通して、他の誰かを見ているような…。


「…私は平民時代、リリアージュ様のお母様に命を救われたことがあります」


「え?」


「孤児の私はお腹を空かせて、そこにリリアージュ様のお母様が偶然通りかかってパンとお水を恵んでくださったのです。そして、一番近くの孤児院へ馬車で連れて行ってくださって。…お陰で生き延びられました」


懐かしむような、レティシアの瞳。リリアージュは、レティシアが自分をリリアに重ねているのを感じた。


「だから、皇帝陛下のお側にリリアージュ様のお母様の魂が寄り添っているのを見て、ああ、こんなにもリリア様は幸せな恋をしたのだと。リリアージュ様がスラム街の子供を侍従にしたと聞いて、リリア様はこんなにも素敵な愛を育んだのだと。私、嬉しくて」


「レティシア様…」


「余計なお節介でごめんなさい。でも、リリアージュ様と皇帝陛下は、ご自身で思われている以上に、リリア様から愛されています。どうか、これからもお二人とも幸せでいてください。リリア様が見守っていらっしゃいますから」


「ありがとうございます、レティシア様。最近ちょっと嫌なことがあって正直まだ落ち込んでいたのですが、なんだか吹っ切れました!」


「それは良かったです。今度お会いした時には、ぜひリリア様との思い出話をお聞かせくださいね」


リリアージュとレティシアはすっかり仲良くなった。リリアージュはレティシアと共に無邪気に笑う。それを魔水晶でこっそりと覗いていたナタナエルは…ふと宙を見た。聖女の言葉が本当ならば、リリアがどこかにいるのかと。自分では何も感じ取ることが出来なくても、なんだかとても温かな気持ちになった。

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