皇帝陛下の愛娘は泣く
「…つまり、あの平民上がりがリリアージュに魔法を使って、リリアージュを苦しめたんだな?」
「はい。お守り出来ず申し訳ありませんでした」
「なんのためにお前達を側に控えさせているか理解出来ているのか?」
「言い訳のしようもありません」
ラウルはナタナエルに感じたもの全てを報告した。叱責されるのを覚悟の上で。あるいは、厳しい処分も覚悟して。
「…わかった。魔法を弾き返すためには、相手より質が良い魔力が必要になる。仮にも皇族の血を引いている以上、お前に何も出来なかったのは仕方ない。リリアージュに俺の魔法で結界を張っておく。悪かったな。報告ご苦労」
しかしお咎め無しどころか謝られ、労いの言葉を貰った。リリアージュを何より大切にする、日頃の行いが功を奏した。
「ああ、いや、待て。リリアージュの友人は全員リリアージュの部屋だな?」
「はい、皇帝陛下」
「お前も来い、リリアージュの部屋に行くぞ」
「え」
ラウルはナタナエルに促され、リリアージュの部屋へ戻る。
「リリアージュはどうした」
「まだ具合が悪そうで…」
「リリアージュ様…」
「リリアージュ」
「パパ…」
ナタナエルはリリアージュに治癒魔法を掛ける。精神面には作用しないが、気持ち悪さは無くなった。
ナタナエルはそのまま、ナタナエル自身やルイスも含めてその場にいる全員に魔法の結界を張った。敵意や害のある魔法や物理攻撃を跳ね返すものだ。かなりの魔力を注ぎ込み、ナタナエルは疲労困憊だが平気な顔をしてみせる。ナタナエルの疲労に気付いたのはラウルだけだった。これによって、リリアージュに掛かっていた魔法も解けた。リリアージュは嫌な気持ちが和らぎ楽になった。
「リリアージュ。大丈夫、お前は何も悪くない。良く頑張ったな」
「パパぁっ!」
嫌なことばかり考えてしまって精神的に辛かったリリアージュは、やっと解放された。ぼろぼろと泣くリリアージュに、ナタナエルはリュシエンヌの真実を伝える。
「あれは、俺の子供じゃない。俺を嫌っていじめていた上の兄の私生子だ」
「…そうなの?」
「ああ。平民の女との火遊びで生まれたらしい。その平民の女は、黙って姿を消して平民としてリュシエンヌを育てた。髪に変色の魔法を使ってな。だが、女が死んだところでリュシエンヌの存在を何処からか嗅ぎつけたパピヨン公爵が余計なことをしてくれた。引き取って、変色の魔法を解除したんだ。俺は俺の子供じゃないと常々言ってるし、この国の次期女帝はリリアージュだと宣言してある。リリアージュ、お前は俺が守る。大人しくしているならともかく、リリアージュを脅かすならリュシエンヌも排除する。心配するな」
「うんっ!」
「それと、嫌な気持ちになる魔法をリュシエンヌは…無意識、らしいがお前に使っていたらしい。お前は何も悪くないからな」
「…本当に?私、嫌な子じゃない?」
「ああ。お前は世界一の良い子だよ」
リリアージュはまたナタナエルの胸でグズグズと泣く。ナタナエルは優しくリリアージュを抱きしめた。
「お前達、そういうことだからリュシエンヌには注意しておけ。結界が発動した時には静電気のようなピリッとした痛みが走る。目印にしろ」
リリアージュの友人達は皆頷く。ルイスは頷きつつもリュシエンヌへの怒りに今にも狂いそうだった。
「ところで、お前。魔道具開発もしていたな」
「はい、皇帝陛下」
ラウルがナタナエルに話を振られ、答える。
「もし魅了…のような魔法?が使われたら、いつ誰が誰にどう使ったか記録できる魔道具とか作れないのか?それがあれば、それを証拠に堂々とリュシエンヌを魔封じの首輪付きで牢獄に押し込められるんだが」
「開発を急ぎます。それまでは、我々は宮廷に籠る方がいいでしょう。リリアージュ様のお祖父様も、事情を説明すれば納得してくださるでしょう」
「まあ、あのリュシエンヌを何故かリリアージュに引き合わせたいみたいだったから魅了紛いに掛かっている可能性もある。本当の事情は説明せず、茶会で倒れたため俺の過保護が発動したことにする」
「わかりました。ではそれで」
リリアージュは、今日は無邪気に笑う気分にはなれなかった。リリアージュの無邪気な笑顔を奪われた面々は、怒りに燃えた。こうして魔道具開発はスタートした。専門外のニコラ達も積極的にアイデアを出して協力した。




