皇帝陛下の愛娘は伯爵令嬢にお菓子をねだる
「パパ」
「ああ」
「またレオノールちゃんのお菓子が食べたい」
「なら、お前専属のパティシエールとして雇うか」
ということで、リリアージュの一言でレオノール・イヴォンの運命は決定した。
時は遡り二時間前。
「リリアージュの入学祝い?」
「はい、リリアージュ第一皇女殿下が貴族学園の初等部に飛び級で入学なさると持ちきりですよ」
「おめでとうございます、リリアージュ第一皇女殿下!」
「?リリーは貴族学園には入らないよ?」
爆弾発言に、集まった貴族が凍りつく。リリアージュを膝に乗せ玉座に座るナタナエルを見ると、不機嫌さが伺えた。
「リリアージュは既に、貴族学園の高等部卒業生レベルの教養を習得している。これは貴族学園の教授どものお墨付きだ」
なんととか、希代の天才だとか、色々な言葉が驚きと共に辺りを飛び交う。そしてこれは、紛れも無い事実だった。足りないものは、唯一魔法学だけ。その魔法学も、座学や錬金術については習得している。あとは魔法を行使できるようになればいい。魔法も、正直に言うと転移魔法など皇族として身につけておきたいものだけはなんとか習得している。
「魔法はさすがにまだまだだが、身につけるべきはもうそれだけだ。よって貴族学園に通うメリットがない。リリアージュは学園には行かせない」
なるほどとか、しかしそれではコミュニケーション能力がとか、人脈の形成がなど様々な言葉が飛び交う。ナタナエルが不機嫌そうに睨めば黙ったが。
「…ある程度の年齢になれば、茶会やパーティーくらいは開く。それまでは黙っていろ」
貴族達は頭を下げた。…が、ひとりの勇者が現れた。
「あの、リリアージュ様!私、リリアージュ様に喜んで欲しくてお菓子を焼いたんです!お祝いは無くなっちゃったけど、食べてください!」
「レオノール!黙っていろ!」
レオノール・イヴォン。リリアージュと同じ歳の伯爵令嬢。ナタナエルは解析魔法で素早く毒の有無を確認すると、リリアージュに言った。
「食べたければ食べろ」
「パパ、ありがとう!えっと、レオノールちゃん?ありがとう!嬉しいよ!食べていい?」
「もちろんです!」
綺麗にラッピングされたお菓子を、大切そうに取り出して食べるリリアージュ。
「わあ…!すごく美味しい!レオノールちゃんは天才だね!ねえ、またお菓子を作ってくれる?また食べたいなぁ」
「もちろんです!また作って持ってきますね!」
「ありがとう!」
ナタナエルは、喜ぶリリアージュを見て機嫌が直る。その場にいた貴族全員がレオノールに感謝した。
ということがあったのだが、リリアージュはまた持ってくるの〝また〟が待てなかった。
後日レオノールは勅命を受け、宮廷に出仕することになる。しかし、レオノールはお菓子作りが好きで、それを喜んでくれる人を見るのがなによりもの喜びなのでむしろ幸せだった。
「レオノールちゃん、今日もすっごく美味しいよー」
「えへへ。ありがとう、リリアージュ様。おかわりいる?」
「食べるー!」
体重管理は、侍従であるニコラの仕事。ニコラは心を鬼にして、二人を叱りつけおかわりを没収する。
しかし、レオノールとリリアージュは無邪気に笑う。その様子を、ナタナエルは魔水晶でそっと見守り微笑んだ。
ついでに、リリアージュが貴族学園に入学すると嘯いた学園長はいつのまにか学園を去っていた。