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第7話「大後悔の朝」

昨日の夜にも更新しています。

ーー翌朝。


何やら人の気配を感じて目を開ける…


朧げな視界がはっきりしてくると、目の前に誰かがいるのが見えた…


フィリスだ…


フィリスは隣で横になったまま目を開けて、こちらをじっと見つめていた。


なんだフィリスか…


………


…………!?



「うわっ!うわーーーっ!!」

慌てて飛び起きた。


ズキッ!

「あっあったま痛ぁ〜っ!!」

ズキズキする頭を手で抑える。


「い、いつからそこに…!?」


「え、昨日の夜から?」

フィリスは楽しげに答える。


「いつからこっち見てたんですか!?」


「えー、一晩中?」


「!!!」


えっ!?

いびきとか、かいてなかったよね!?

ヨダレとか垂らしてないよね!?


一人で慌てふためいていると、

「うっそー!」

とフィリスがベーと舌を出してみせた。


「というか、なんでフィリス様が私の部屋に!?」

「ここ、俺の部屋だけど?」

「えっ!!?」


「……昨日のこと全然覚えてないの?」


えーと、えーと、混乱した記憶をかき集める…


マーカスとワインセラーでワインを飲んでいたのは覚えてるんだけど…


「……あまり、よく……」


なんたる失態…っ!!


「そう、よかった。」

「何がですか?」

「ううん、何でもない。」


フィリスは肩肘をついて、深い笑みをにっこりと向ける。


気付けば二人とも昨日の服のままだ。


「えっ…今更ですけど……何もなかったですよね…!?」


「そこ普通最初に聞くとこだよね?」 

「何もなかったですよね!!?」


「さあね〜?何かはあったかもね〜?」


「何かって何ですか!!?嘘ですよね!?」

途端に不安になり、顔が青ざめる…


「……何もしてないよ。安心した?」


「……っ!!はぁ…!よかったぁ〜〜!!」

脱力して、心の底からの安堵と喜びを表現する。


「……なにそれ、ちょっと傷付くんだけど?」

フィリスがちょっとムスッとした顔をする。


「何もないに越したことないじゃないですかっ!!」

力を込めて力説する。


恋のワンステップどころか、いきなり最上段までワープするところだったわ!!危ない危ない!!

いやでも、どうしてこんなことに…!?


「…ああでも、さすがにドレスのままで寝るのは苦しそうだったから、コルセットの紐は僕が緩めてあげたけどね♪」


「!!!!」


じっじょーー!!私のじっじょーーー!!

私が部屋に戻らなかったのに、何故呼びに来なかったのだー!?

てか、フィリスもフィリスで、何もする気がないなら、部屋まで送り届けてくれればいいのに…!!


そうは思うが、それもこれもすべて、記憶を無くすまで酔っ払って男の部屋で泥酔する私が悪いのだ…


「あぁ……」

どっと疲れて、再びドスンと布団に倒れ込む。

肩肘を付いたフィリスが隣でシスティーナの顔を覗き込む。


「なに?目覚めのキスでもしてほしいの?してあげてもいいけど。」

「結構です!!」


勢いよくフィリスに背を向けると、目の前のテーブルに置いてある紙袋が目に入った。


あ…思い出した。


またガバリと起き上がる。

「わたし、自分で作ったカンパーニュを探しにきたんでした!!」


「へぇ…それがそうなの?」


「はい、そうです!フィリス様がお持ちだったのですね、よかった〜!」

渡す手間が省けたとばかりに笑った。


「…そのパンはね〜昨夜マイラが持ってきたんだよ。自分で作ったって言って。」


「えっ!?」

急いでベッドから降りて紙袋の中を確認するが…


中身はやっぱりくるみとチーズの入ったカンパーニュ。

私が作った物と同じだ…


どういうこと…?


「それを渡す代わりに、ご褒美に僕と1回させてほしいっておねだりされてたんだよね〜。」

「えっ!?そんなことがあったんですか!?」

…そういえば、そんな場面を見たような、見てないような…


パンの代わりにとか、なんて破廉恥な女なんだ…

ヒロインにあるまじき行動力…!

これだからリア充は…(私怨)


ーそういえば、最初にフィリスにカンパーニュを持って行った時にフィリスも同じようなことを言っていた気がするが、これもそういうイベントだったのかな…!?


それとも、二人が似た者同士ってことかな?


「なに?そんなにじーっと僕のこと見つめて…」


「…フィリス様とマイラ様って、ちょっと考えが似てるところがありますよね?」


「は?あの女と?冗談はやめてよね。」

あの女って…


似た者同士で相性がいいのかと思ったけど、逆に同族嫌悪で相容れないのか…?


「ちなみに、どんな所が似てると思ったの…?」

「えっ…?」ギクッ

マズい!うっかり口を滑らせてしまった…!


「どう考えてもいい意味ではない気がするんだけど…?」


フィリスはにっこりと微笑むが、その目は獲物を狙う蛇のようで、じりじりと距離を詰めてくる。

「あ、じゃあ私はこれでそろそろ…!」

「じゃなくて!!」


「パン!!パンがないっ!!」

私は飛び起きて、慌てて部屋中を見回す。


「? パンならそこに…」


「違いますよ!!エリオット様に作ったパンです!!あーもう自信作だったのに〜〜!!」

この部屋にないというのなら、どこにあるというのだ…

作るのに2日かかったのに…

ガックリ……



…まあいいか…


また作ればいいし…

時間はたっぷりあるんだから…


落ち込んだ自分の気持ちを心の中で慰める。




「へぇ…」


「僕だけじゃなくて、エリオットにも渡していたんだね〜。」


気付いたら真後ろから地を這うような低い声が聞こえてきて、ビクリと身体を震わせる。

首に腕を巻き付けられ、身体を引きずられるように瞬く間にベッドに引きずり込まれる。

その青い瞳には暗い影が差していた。


「イケナイ子だな〜、僕とエリオットで二股かけるつもりだったの…?」

そう言ってゆっくり頬から首筋までを撫でる。

ゾクッと身体が震える。



…あれぇ?おかしいな〜!

なんかヤンデレ発動してないか、これー!?


どうしていきなり怒り出したの〜!?


この不可解な状況を必死に理解しようとするが、恋愛経験が浅すぎて全然理解できない…



「やっぱりちゃんと身体に教え込まないとダメなのかなぁ?」


どこか目がいっちゃってるフィリスが怖い…!とてつもなく怖い!!今までの数倍の危険を感じる。


ここで言葉選びを間違えたら、本当に大変なことになりそうだ…


後悔のない選択をするために、私は心を決めて、正直にフィリスと向き合うことにした。


「…正直に申し上げますと、私は3人の王子と誰とも恋愛する気はありません。」


「は?そんなこと許されると思ってるの?君たちは跡継ぎを生むためにここに呼ばれてきたんだよ?それともそんな行為に恋愛感情はいらないって主義?」


「その辺のことはよく分からないのですが、その件に関してはそれが得意分野のマイラ様にすべてお任せしようと思ってます。」

と堂々と職務放棄を宣言した。


「…でも君はエリオットが好きなんでしょ?」


「はい、好きです…推しメンなんで。」ボソリ。


「ほら。やっぱり俺のことはどうでもいいって言うんでしょ。」


「いえ、好きですよ、フィリス様のこと。」


「!」

フィリスは驚いた顔で真下のシスティーナを見つめる。


私は努めて真面目な顔で冷静に伝える。


「最初の頃は、正直ちょっとイカれた性的逸脱者だなと思っていましたけど、フィリス様は私のことをからかいはするけど、一度も手をお出しになることはなかった。それは私のことをちゃんと一人の人間としてお認めくださっていたからではないですか?」


「それはだって…そんな恋愛初心者みたいな女、相手にしてられなかっただけで…」

不貞腐れたように頬を染めて子どものように口を尖らせる。

いつもの仮面のように笑っていた顔が崩れ、素の顔が少し顔を出す。


「でもそんなフィリス様だからこそ、私もこうして信用してお部屋まで一人で遊びにくることができたのですよ。」

にこっと笑いかける。


本当は結構…というか、かなり警戒していたのは内緒だ。


「本当は女性がお嫌いなのに誰かを求めずにいられないのは、きっと何か深い理由がおありなのですよね…?」


あると信じたい…何もないただの変質者だったら、ここで私のピュア恋愛人生は詰むことになる…



「………」


長い沈黙の後、フィリスが話し出した。


「僕のお母様はね…異国の踊り子だったんだけど、僕が生まれてすぐに亡くなったんだ。だから母の記憶がない。」


「……っ!!」

予想外にヘビーな回答が返ってきて内心動揺する。


「だからすぐに国王であるお父様が乳母を手配して王宮で育てられることになったんだけど、その乳母もお父様のお手つきとなってね、そこから僕に嫉妬の念を向けるようになったそうだよ…」


うわぁ…なんてドロドロな女の世界…!


「…要するに僕は彼女にとって邪魔な存在でしかなかったんだ…衣食住の世話は侍女達がやってくれたし、乳母も必要な勉強やマナーは教えてくれたけど、僕を抱きしめてくれたことは一度もなかったから、僕はずっとずっと愛情に飢えていたんだ。」


「……!」

王子様として華やかで幸せな人生を送ってきたのかと思っていたが、まさかそんな過去を抱えていたなんて…


「乳母はいつも“お前は誰かより劣っている子だ”、“何の価値もない人間だ”、“私の思うように動けないお前はダメな人間だ”と、罵りの言葉をぶつけてきた。僕もそう信じて生きてきた。」


「僕はずっと乳母の愛情が欲しくて、必死に乳母の言いつけを守っていい子として生きてきたつもりだったけど、いつまで頑張っても抱き締めてくれるどころか、優しい言葉すらかけてくれることもなかった…」

「僕はずっと寂しかった…だから、今も母のように僕を愛してくれる人を探してるのかもしれない…」


フィリスはどこか悲しい目をしながら言った。


「そう…だったんですね…」

痛ましい気持ちになって、真上のフィリスを見上げる…



「……なんてね!」


「…へ?」


「嘘だよ!そういう話をすると、女の子が同情してくれるから、たまに使ってるだけ!」


そう言ってベーっと舌を出す。


「……!!」


「…もう!嘘つかないでくださいよ!!信じちゃったじゃないですか!!」

ドンッと彼の胸を叩いて怒る。


ハハっと笑って、フィリスは突然私に覆いかぶさった。


「………」


フィリスはああ言ったが、システィーナにはその話が嘘のようには思えなかった…


そっとフィリスの背中に手を回す。


「…今はあなたのことを愛してくれている方がたくさんいらっしゃいますよ。だからもう幸せになることをご自分に許してあげてください…」


「…どういうこと…?」


「それはご自分が一番お分かりなのでは…?」


「………」


辛い幼少期を過ごしてきて、育ての親からたくさん呪いの言葉を吐き続けられた。

いつしか身体中にその呪いの言葉が染み渡って、彼の心を蝕んでいたのだろう…


でもどんなに辛い過去でも、自分次第で価値のあるものに変えることができる。

辛い過去も失敗もすべては心を成熟させるために必要な栄養源だ。

この世のすべてに意味はあるのだ。

…たとえこの世界がゲームの中だとしても、現にこうして私達は生きている…



私はかつて自分の母がしてくれたように、フィリスの頭をしばらく優しく撫でてあげた。

フィリスも身体の緊張を緩めて、くったりとシスティーナに身体を預けている。



しばらく二人の間に穏やかな時間が流れた…


「………」


「……んぐっ!?」


そしてそんな時間が、突然襲ってきた吐き気と共に終わりを告げる…



「うっぷ…やばい!!吐く吐く吐く!!」


フィリスが上に乗ったことで胃を圧迫され、急に吐き気を催したらしい。


「うっ…洗面器!洗面器!!」


慌ててフィリスを跳ね除けベッドを降り、ドアまで駆け出すと、バタンッ!とタイミングよくドアが開く。


「システィーナ様、こちらへ!」

開いたドアの先で執事のマーカスが洗面器を差し出してくれた。なぜか隣に睨みをきかせたマイラまでいる。


二人ともいつからそこに!!!?


そう思ったのも束の間、私はすぐに限界に達して、三人の前で盛大に嘔吐したのだった…


ああもう最悪…!

これなんて公開処刑ですか…!?




最悪な気分のまま部屋へ戻ると


「お勤めご苦労様です!!」

と侍女達が待ち構えていた。


いや、お勤めって…!


もう何からツッコんだらいいのか分からない…

朝帰りして労われる公爵令嬢なんて、この世界くらいだわっ!!

はぁーもう恥ずかしくて消えたいーーっ!!



すぐに湯を浴びて着替えて朝食へと廊下へ出されると、またばったりとリードベルと出くわす。

隣にはちゃっかりマイラ。


リードベルの蔑むような表情を見るに、マイラから今朝のことは伝達済みのようだ…


「来て早々男の部屋に泊まるなんて…なんて破廉恥な女なんだ…」


お前またそんなことをーー!!

この前やったクッキー返せよー!!!


おもわずイラッとして言ってしまう。

「おほほ…リードベル様って案外お堅いのね〜!そんなんじゃ女性にモテませんわよ!?」


「なんだと…?」

ジロリと睨まれる。


うわー!すごみ方がチンピラ!!

お前絶対王子様じゃないだろ!!


「リードベル様がその気なら、私いつでもお相手して差し上げますわよ!」

…本当に来られたら困るけど。

むしろお前なんかお断りだけど。


「…結構だ。俺はそういうアバズレ女は嫌いなんだ。」

吐き捨てるように去っていく。

隣に本物のアバズレ女を引き連れて。


……うん、決めた!


あいつにだけは、このまま悪役令嬢全開の私で接してやるわ!!

死亡フラグ!?

そんなもの一緒に叩き割ってやるわよ!!


私は怒りのままに決意した。









今日もお読みいただきありがとうございます!

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