第6話「フィリスの悪戯」
ーー翌朝。
昨日は憧れの推しメン、エリオット王子との初会話☆という私的・大イベントがあったこともあり、朝もウッキウキで目覚めることができた。
そしていつものように、身支度と着替えを侍女に手伝ってもらう。
今さらだが、このシスティーナは、髪はキレイなブロンズヘアで、毛先が内側にクルンと可愛くカールしている。目は吊り目で瞳は明るい檸檬色。肌も白いことから、遠くから見ると全体的に白っぽい印象だ。
吊り目でキツめな印象の顔なので、ドレスは赤とか紺とか濃いめの色が良く映える。そのためか、ゲームでもシスティーナはずっと赤色のドレスを着ていた。
パステルカラーとか淡いピンク色のドレスとかは、マイラの方が似合うだろう…
今日もシスティーナのトレードマークである赤いドレスに着替えると、朝食を摂るために元気いっぱいにドアを開けた。
ガチャリッ!
……開けた先にリードベルがいた…
……ちっ、もうちょっと遅く出ればよかった…
「おぅ…」
リードベルもいささか気まずそうに挨拶する。
…何が「おぅ…」よ!!
急に距離近い感じの挨拶キモっ!!
お前わたしの彼氏かよ!!(自意識過剰)
お前じゃなかったらときめいてたわ!!
「…おはようございます。」
素知らぬ風に挨拶すると
「…昨日のクッキー…美味かった。」
と気まずそうに目をそらせて、足早に階段を降りていった。
「!!」
何その乙女ゲームの主人公みたいなセリフは…!!
(※主人公です)
そんなことくらいで、今までのことが帳消しにはならないからなーー!!
下の階へ消えていったリードベルをしばらく険しい顔で睨みつけていると、後ろから
「おーはよ!」
と言って馴れ馴れしく肩に触れる者がいた。
「…おはようございます…フィリス様。」
もしかしなくともフィリス様だった。
間違ってもエリオット様ではない…
いや、エリオット様ならいいのだけど。
むしろエリオット様であってほしい!
「今日は珍しく早起きなんだね。」
クス…と笑われる。
「!!」
…そういうフィリス様こそ、朝からよそ行きのテンションじゃないですか…!!
さり気なく肩に手を回され、手まで握られてゾワゾワッとする。
「昨日のクッキーだけどね、一応全部食べたよ。」
「一応って…!」
無理矢理食べた感がすごい伝わってくるー!
「僕あういうパサパサしたクッキーみたいな焼き菓子は、あんまり好きじゃないんだよね〜!」
「えっ!じゃあわざわざ食べなくてもよかったのに…」
「まあ、普段は捨てちゃうんだけど、一応ね…」
何の一応なんだ、それは…
「…そんな本当のこと言ったら、女性に嫌われますよ…?」
「もちろん、他の女性にはそんなこと言わないから大丈夫♪」
「君には気を遣ったってしょうがないでしょ?」
…それもそうだなと、自分でも納得してしまった。
「…パンはあんなに好きなくせに…変ですね。」
「クッキーなんかより、パンの方が美味しいからね。」
そ、そうか…!?
どちらかと言えば、クッキーのが美味しいと思うんだけど…
…そういえば昨日もちょっとパンがパサパサしてるとかなんとか言ってたような気が…
もしかして、パサパサ系の食べ物はあまり好きじゃないのかな…?
…よし!
それなら今日はもっとしっとりとした美味しいカンパーニュを作ってやろうじゃないの!!
そしてそれをエリオット様にも差し入れしよう!!
うん、いいね!それ採用!!
そうと決まれば、今日もまた調理場を借りなくちゃ!!
私は内心で気合いを入れた!!
ーーー
朝食の後…
子猫のルルへ食べさせる食べ物をコックからお裾分けしてもらい、ルンルンで中庭へ向かう。
エリオット様来てるかな〜♪
いやいや、そんな下心なんてあるわけ…!そりゃあ、ちょっとはあるけどねっ!
昨日は、エリオット様のことは眺めてるだけで幸せって言ってたけど、やっぱり関われる機会があるなら、それにこしたことはないからね☆(華麗に前言撤回)
もちろん、当初の予定通り、誰かを攻略なんてことはしないけど!!
というか、悪役令嬢の立場では、多分誰かを攻略なんてできないだろうし…
よく分からないけど。
まだいろいろと分からないことばかりで、手探り状態だ。
ーーー
中庭で、昨日ルルを見つけた辺りで、再びルルを探す。
「ルルー!ルルー?」
背丈を超える迷路のような生垣を曲がると、そこにルルがいた。
…そしてエリオット王子も。
「…!!」
「あ…エリオット様…おはようございます…っ!」
「……またあんたか…」
寝ぼけ眼で少し掠れた声のエリオット様に内心悶える。
「…私もルルに餌を上げてもいいですか?」
「……好きにすれば?別に俺が飼ってるわけじゃないし…」
そう言ってまたすっくと立ち上がって行ってしまう。
ああ…行ってしまわれた…切ない…
しゃがみ込んでルルに、持ってきた餌を上げる。
「お前のご主人様は、どうしてあんなに私に冷たいんだろうね…」
しょんぼりしながら、ルルのほわほわな毛を撫でた。
そんな様子をまたしても陰からマイラが見ていた。
「いいこと思いついちゃった〜♪」
ーーー
昼食の後はまた調理場を借りてカンパーニュを作った。
しっとりでかつ、程よく気泡が入るために、ライ麦の配分を変えて発酵時間を一日とることにした。今度はクルミやチーズを入れてみた。
明日には出来上がるはず!楽しみだ♪
調理場から戻ってくる所をマイラがじっと見ているのを見つけた。
「………」
…なんだろう…なんか嫌な感じだな…
警戒しつつも、特に何も言ってくる様子もないので、そのまま自室へ戻る。
ーーー
翌朝、またしても餌を持ってルルに会いに行く。
そしてまた先に来ていたエリオットに出くわす。
あからさまに眉を寄せて嫌な顔をするエリオット。
うぅ…そんなに嫌な顔しなくても…
「あの…私お邪魔ですか…?」
「うん。」
グサリ!!
……即答ですか……!!
「そうですか…すみません…」
そう俯いて、餌を持って帰ろうとすると
「…あんた、何を企んでるの?」
「…へ?」
企むって、何を…?
呆けた顔で首を傾げると
「…もう、いい。」
と言って立ち上がる。
「あ、私がすぐ帰るので、エリオット様はどうぞ気にせずこちらにいらしてください。」
「いや、いい。今から執務もあるし。ルルのそばにいてやって。なんか今日少し元気がないみたいだから…」
「!」
ということは、このままルルを見ていてもいいってことなのね!
よかったぁ〜〜っ!!
何を考えてるかはいまいちよく分からないけど、ひとまずルルの世話をする許しはもらえたようだ…!
ルルのそばにしゃがみ込んで、一生懸命ご飯を食べる様子をしばらく見守っていた。
ーーー
そして午後。
「…遂に完成したわ…!!」
前回よりも、外はパリパリ、中はしっとりなカンパーニュ!!
これならもうフィリス様にもパサパサだなんて言われないはずよ!!
得意げな気持ちで部屋へ出来立てのカンパーニュを持って帰る。
一つはフィリス用、もう一つはエリオット用だ。
部屋に帰ってエリオット用のパンを可愛い包装紙に包んでいると、不意にノックの音が聞こえた。
「はい…」
「どうも〜♪」
そこにはマイラが立っていた。
「………」
「執事のマーカスがあなたのことを呼んでいたわよ〜!」
「え、マーカスが?」
なんだろう…?
この時間はワインセラーの所にいるというので、向かってみた。
地下の使用人用の階段を降りていく。
「ここ…かな?」
恐る恐るドアを開けて中へ入ってみる。
薄暗い部屋の中、奥の方へ歩いていくと、そこには執事のマーカスがいた。
手にはワインの入ったグラスを持っていた。
「え…」
「おや、バレてしまいましたね。」
…どうやらマーカスは、お酒の管理と称して、どさくさに紛れてここのワインをちょろまかして飲んでいたようである。
見てはいけないものを見てしまった…!
急いで踵を返す。
「し、失礼致しま…」
「まあ、まあ、まだ来たばかりじゃないですか。」ガシッ
首に手を巻き付けられて、奥へ引きずり込まれる…
マーカスからは、微かにお酒の匂いがした。
「見てしまったのなら、あなたも共犯ですよ。」
奥の席に座らされて、ワイングラスにワインを注がれる。
…なんで見ただけで共犯になるんだ…!?
「さあ…」
「!!」
怪しい笑みを浮かべたマーカスが、向かいに座ってグラスを傾けてくる。
「……!」
喉をゴクリと鳴らす。
有無を言わさぬマーカスの態度からして、どのみち断るという選択肢はなさそうだ…
意を決して、手渡されたワインを一気にあおる。
その様子を満足げに見て、ゆっくりと口の端を上げる。
「ふふ…いい飲みっぷりですねぇ。美味しいですか?」
艶っぽい笑みを浮かべるマーカス。
間近で見つめられて、気恥ずかしくなって笑う。
「あはは…味はよく分からないですが、美味しいですね…!」
「そうでしょう?これはご主人様がお気に入りの最高級ワインですからねぇ。市場には出回っていないのですが、時価1億ゴールドはくだらないと言われている幻の一品なんですよ。」
「いっ!いちおっ…!!」
「マーカスさん…!そんな凄いものを飲んでたんですか…っ!?」
声を殺して叫ぶ。
「いえ、私が飲んでいたのは、こちらの安いワインでございますよ。」
そう言って別のワインの瓶を見せる。
「………っ!!!」
やられたーーっ!!
「ふふふ…心配しなくても誰にも言いませんから…」
マーカスはにっこりと微笑んだ。
悪魔……っ!
やっぱりこの人は悪魔だーーっ!!
「ささっ、もう一杯どうぞ。」
今度は安いと言っていた方のワインをトクトクと注ぎ出した。
うぅ…!こうなったらもうヤケだーっ!!
ーー
ーー30分後。
私はマーカスと共に安いワイン瓶を二人で飲み干して、少しフラフラになりながら一人で部屋へ戻った。
「あれぇ…?そういえば結局、私への用事ってなんだったんだろ…?ま、いっか!あはははは…!」
部屋に戻ると、机の上に置いてあったはずのカンパーニュがない。
「あれぇ〜?どうしてないんだろ…?」
部屋を出る前にマイラと会ったから、マイラに聞いてみよう…
トントンッ!
マイラの部屋へ行ったが、ドアを開けても誰もいなかった。
うーん、どこ行ったんだろう〜
「もしかしたら、勝手にフィリス様が持っていったのかも…?」
今度はフィリスの部屋へ行くことにした。
トントン
「失礼します〜!」
ノックと共にドアを開ける。
そこにはなんと、壁際でフィリスに抱きついているマイラの姿があった…
「…えっ!?」
「ええぇぇーーーっ!!!?」
「しししし失礼しましたー!!」
一気に酔いが覚めて、慌ててドアを閉めようとすると、すかさず近づいてきたフィリスに
ガッ!とドアを足で押さえられる。
「やあ、システィーナ!君のことを待ってたんだ!」
爽やかな笑顔でフィリスが腕を掴んで微笑みかけてくる。
その力は存外強い…
「…え…あ……!?」
何のことだか分からなくて、目を白黒させていると、
「…じゃ、そういうことで、この後はシスティーナとの約束があるから、ごめんね!」
と言って、入れ違いにマイラが廊下に出され、システィーナが引き込まれた。
どういうことなのか尋ねる間も無くバタンとドアが閉められ、鍵が掛けられた。
ガチャリッ!
え……っ!?
なぜ鍵を…!!?
あれれー?どうしてこんなことになったんだろう…!?
ドアの外ではまだマイラが「ちょっと!フィリス様ー!!」と叫んでいる。
状況がよく読めずに、頭が混乱する…
やがて、徐々に頭が冷静になってきて、顔が青くなる…
フィリスの顔は見ずに、距離を取るように少しずつ後ずさる。
「ふふ…そんなに怖がらなくても、何もしないよ。」
フィリスはベッドに腰掛け、あぐらに肩肘をついて笑いかける。
「ちょっと面倒ごとに巻き込まれそうだったから、利用させてもらっただけ。」
ああ、なんだ…っ!
安全を約束され、ホッと気が抜ける…
「それで、何の用事だったの?またクッキーでも作ってきてくれたってわけ?」
「あー…えーと……なんだっけかなぁ…?あははは…」
今のショックですべて忘れてしまったようだ。
フィリスが眉を顰める。
「…なんか君ちょっとお酒臭いんだけど…今まで何してたの…?」
「へ…?何をって…」
その瞬間、悪魔のようなマーカスの顔が思い浮かぶ。
「なっ!何もしてませんっ!!断じて私は何も知りませんっ!!!」
私は再び顔を青くしながら、必死にシラを切った。
「……へぇ……」
それを見たフィリスが、妖しげな笑みを浮かべながら、ゆっくりとベッドから立ち上がり、近づいて来る…
ドサッ!!
フィリスが笑ったかと思えば、またあっという間にベッドに押し倒されていた…
あれえぇぇ…??
「いま何もしないって言ってませんでしたっけ??」
「言ったよ。でも君が嘘をついてるから、僕も嘘をつくことにしたんだ。」
んー?よく理屈が分からないな〜
「それに…酔ってる君は、また反応が違って楽しそうだし?」
そう言って獲物を狩るように目を光らせた。
それを見て、背筋がゾクっとした…
「それで…もう一回聞くけど、今まで何をしてたの…?」
「えええーと、えーと、私は何も…!」
ペロッ
フィリスに首筋を舐められる。
「ひやあぁぁっ!!」
「ふうん…やっぱり少し反応が違うんだね、これは面白い…」
まるで玩具で遊ぶかのように楽しげに笑う。
「も、もう、勘弁してくださいよぉ〜!!」
システィーナが泣き付く。
「マーカスさんに絶対に言っちゃダメって言われたんですー!!言ったら殺されちゃうから絶対に絶対に言えないんですー!!」
「ふうぅぅん…」
フィリスが益々興味深しげに笑みを深める。
「なるほどね。」
そう言うなり、押さえていた両手首を離してくれた。
はぁ…よかった…!!
そう安堵したのも束の間、今度はぐるっと体勢が入れ替わって、今度はフィリスの上にシスティーナが跨る形になった。
「!?!?!?」
逃げようにも、再び両手首を掴まれて動けない…
「あははは…フィリス様、これは一体…!?」
意味がわからない展開で、もはや笑うしかなくなってしまう…
「こんな面白い機会、そうそうないからさ。最後に何か僕を楽しませてくれるようなことをしてくれたら解放してあげるよ。」
「えぇっ楽しませるって…??」
「……まさか、そういう経験が今までなかったわけじゃないよね?」
「も、もちろん!!」
なんて、咄嗟に見栄を張ってしまった。
「楽しみだなぁ、一体君は僕にどんなことをしてくれるんだろう?」
超絶美形の王子様の周りにキラキラとしたエフェクトが見えた…
「うぅぅ…」
私だって伊達に27年生きてきたわけじゃない!!
私のプライドにかけても、絶対にフィリスをギャフンと言わせてみせる!!
思い出せ…思い出すんだ…!!
昔読んだ少女漫画とかで何かあったはずだ、ほら…っ!!
……よし!あれだ…!
システィーナはフィリスの首に両腕を回してぎゅっと抱きしめた。
「すき!」
「……え…?」
フィリスの驚いた声が耳元で聞こえた。
…ふふん、どうだ、私の完コピ告白は…!?
これは私の1番お気に入りの少女漫画の告白シーンである。
あそこに出てきた男の子もフィリスみたいな金髪美形男子だった…
私もいつかあの漫画のヒロインのように、素敵な男性に思いを伝えてみたいと思って何度も読み返していたのだ…
…そんな相手はまだ見つからないけど…
「……それ…だけ………?」
しばらくの沈黙の後に、フィリスが言葉を発した。
「……?」
不思議に思って顔を上げると、フィリスが動揺した表情で顔を赤くしているのが見えた。
「??」
そしてすぐさま起き上がって、私を乱暴に脇に押しのけた。
「……なにそれ?予想外すぎて笑えるんだけど…」
私に背を向けたまま吐き捨てる。
「ふふん!私だってやる時はやるんです!!」
私は誇らしげに胸を張る。
「……ったく、どこまで初心なんだよ、調子狂うな…」
不貞腐れたように喋るその様子がおかしくて、私はしきりにあははは!と笑っていた…ような気がする…
フィリスが振り返りながら、横目でこちらを睨んでいたのが朧げの記憶の中にあった…
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