第4話「システィーナの目標!」
夢を見ていた…
前の世界での夢だ…
システィーナはいつものように会社から帰り、一人アパートでカップラーメンを食べながら乙女ゲームを地道に攻略していた。
そのゲームをやりながら、いつの間にか寝落ちしてしまい、気付いたらこの世界にいた。
…つまり、この異世界に転移したわけであって、転生したわけではない…のだと思う。
…つまり、元の私の肉体はどこかに存在していて、いつか元通りに戻れるんじゃないかっていう希望をもっていたりする…
…でもヒロインのマイラは、今回ループ4回目だって言ってたっけ…
私もループしちゃうのかな…?
…でもマイラとずっと一緒のループは、正直お断りだな。
自作自演でリードベルの敵意を私に向けてくるわ、フィリスの大事なパンを騙して食べさせてくるわ…初っ端からだいぶ飛ばしてるご様子だ。
これから先が思いやられるわ…はぁ…
王子達も…というか、今のところフィリスだけだけど…一歩選択肢を間違えたら危ない人もいるしね。
ゲームの中とはいえ、ここでクソ王子達と跡継ぎを作るなんて以ての外!
そういうのは男性経験豊富なリア充のマイラ先輩にお願いしましょ!(年下だけど)
私は、ちょっと吊り目だけど美人なシスティーナに転移している間に、素敵なお相手を見つけてピュアピュアな恋愛をワンステップから始めるのよ!!
システィーナは鼻息荒く両手の握り拳を握りしめた。
ーー
ーーー
「……ティーナ様…」
「システィーナ様…」
「はっ!!」
誰かの声で、ガバリと起き上がる。
「おはようございます。」
気付けば隣でにっこりと柔らかく微笑む執事のマーカスの姿があった。
「あ…おはようございますっ!」
「…朝から鼻息荒くされて、一体どんな夢をご覧になっていたんですか…?」
「ふぇっ!?」
やだ!そんなとこ見られてたなんてっ!!
恥ずかしくなって顔を赤くすると、マーカスは目を細めて恍惚の表情を浮かべて微笑んだ。
「朝食の時間ですよ。皆様もうお集まりです。」
「…そう…ですか…」
正直、皆様とはあまりお集まりたくないから、寝坊して時間ズレるくらいでちょうどいいんだけどなぁ…
でも目の前の執事の笑顔が、それを許さないと言っているように見える…
私は渋々ベッドから出て着替え始めることにした。
パーラーへ行くと、既に皆着席してそれぞれに朝食を食べ始まっていた。
時間を合わせて食べる夕食と違って、朝は来た順に食べ始める。
…ほら、別に早く起きる必要ないじゃん〜!
今日もマイラが、
「システィーナ様、おはようございます!」
と健気な小動物系女子を装って挨拶してくる。
「お、おはよう…」
そんなマイラに私はいつも引き攣ったような顔で挨拶する。
あんな腹黒い一面を隠して、よくそんな可憐なキャラを演じられるわよね〜!
その表情管理の素晴らしさだけは、公爵令嬢級だわ!!
第一王子のリードベルと第二王子のフィリスは相変わらずこちらを見向きもせずに黙々と朝食をとっている。
でも一応「おはようございます。」と念のために挨拶はしておく。
そして空いている席がもう一つ…
第三王子のエリオット・モウブレーの席だ…
彼は朝が弱いらしく、朝はいつもいない。
昼食と夕飯は同席しているが、無口でほとんど口も聞かない。
……もう、本当ね……
タイプなんですよぉ!!エリオット王子がぁっ!!!
他のクズ王子達とは違って大人しく控えめで、あの乙女ゲームの中で唯一の癒しキャラっていうね!!
色白の肌に、くせっ毛で少し跳ねてるやや短めの金髪の髪が可愛くて、ルビーのように綺麗な赤い瞳!(←ひいき目)
まさに年下癒し系弟キャラよ!!
もう可愛いったらありゃしない!!
…実は私がこのゲームでプレイしたことがあるのは、このエリオットだけなのだ。しかも途中まで…
途中でこちらの世界に転移してしまったから。
あの時、夢中で攻略していた美形男子がリアルに目の前にいるとあって、毎日密かにウハウハなのだ…
…でも、当のエリオット王子には、何やら嫌われているようで、時々汚いものを見るような目で見られることがある…
切ない…
できることなら、私のピュアラブのお相手はエリオット王子がいいんだけど、仮に…仮にだよ、
仮にもエリオット王子とめでたく結ばれるようなことになったら、一生他の二人のクズ王子達とも縁が切れないわけでしょ?
それはさすがに避けたいからね。
エリオット王子は、眼福用に眺めるだけで、実際に恋愛するのは王子以外の誰かを探さねばなるまい…
そんなことを真剣に考えている間に、リードベルとそれを追いかけるようにマイラが退出し、気付いたらフィリスと私だけになった。
途端に緊張が走る…
…大丈夫、大丈夫よ……
部屋の中には使用人達が控えてるんだから、ここで変なことにはならないわ…
そう自分に言い聞かせるも、警戒心はMAXだ。
フィリスが変な動きをしないか、さり気なくジロジロと観察していたら、
「あら…?」
何気なくフィリスが食べているのは、昨日私が作ったカンパーニュだった。
もしかしたら丸ごと捨てられるかとも思ったけど、ちゃんと食べてくれたんだ…
しかもわざわざ朝食に…
ちょっぴり嬉しくなった。
「そのパン、お気に召しましたか?」
嬉しさついでにフィリスに聞いてみた。
「別にふつー。ちょっとパサついてるかな?」
ぶっきらぼうに返すフィリス。
「えっ!?本当ですか??」
「粉の配分を間違えたかしら…?それとも焼く時の水分が…」
「嘘だよ。」
「!?」
朝だからか、昨日のような柔らかい微笑みも一切なく、淡々と食事を口に運びながら目を伏せて喋る。
…恐らくこれが素のフィリスなのだろう…
とりあえず、次から次へと口へカンパーニュを運んでいる様子を見るに、気に入ってはもらえたようだ。
「…また今度作ってみますね。」
とフィリスに笑いかけると。
一瞬だけチラッとこっちを見て
「…変な女…」
と呟いた。
し、失礼な…!!
変態ヤンデレ王子に言われたくないわ!!