第37話「フィリスとの街歩きデート」
今日はフィリスと街歩き。
マーカスに知られたら大問題になるので、こっそりと屋敷を出た。
今日は万が一にもフィリスが王子だとバレないために、二人で念入りに変装をして街へ出た。
私はいつもと同じ膝下のワンピース。
フィリスは、顔が半分隠れるくらいにハンチング帽を目深にかぶり、薄汚れた麻のシャツに深緑の穴のあいた大きめのズボンを履いていたのだが、それすらもオシャレ着のように着こなしてしまい、目立ってしまってしょうがなかった…
僅かに見える肌は美しくキメが整っており、髪はきれいな金髪、人よりも高い身長は人々の目を惹く。
通り行く女性がみんなフィリスを振り返る…
…もう!なんなの、この怪物アイドルは!?
顔も半分隠れてるし、服も庶民が着る服のなかでもボロボロのやつを選んだはずなのに、溢れ出るただならぬ美しさが凄まじい…
一言で言うと、只々カッコいい…
私がまじまじとフィリスの顔を見る。
前の世界だったら、間違いなく即スカウトされていただろう、この美貌…
果てはモデルかアイドルか…
友達にいたら絶対自慢したい相手だ…
まあ、まず近くにはいないようなハイスペック男子だ…
…もっとも、こっちの世界でも王子というハイスペック身分で凄い存在なのだが…
「…どうしたの?」
フィリスが笑いながら私の顔を覗き込む。
「あ、いや…」
「僕に見惚れちゃった?」
「うん…」
「やっぱりフィリスはカッコいいなーと思って…」
私は素直な感想を伝える。
「…!」
「……もう…」
「…本当困る…そういうの…」
フィリスが帽子で片目を隠しながら顔を赤くした。
「…ふふふ…!」
そんなフィリスを見たら可笑しくなって、つい笑ってしまった。
「フィリス可愛い…!」
「……むっ……後で覚えといてよね…」
フィリスは尚も顔を赤らめたまま私を睨む。
「うん、ふふ…うわっ!」
突然強引に手を引かれて、腰を抱き寄せられる。
「…!!!//////」
何この密着した体勢は!?
「罰として今日はずっとこの体勢で移動ね…」
システィーナの耳元で囁く。
「へぇぇっ!?」
動揺する私を見て、ニヤリと口角を上げるフィリス。
「…街の皆んなは思ったより落ち着いてるみたいだね…」
フィリスが周りを見回す。
「そうだね…もっと慌ただしいかと思ったよ。」
「まあ、ここはヨアルドとの国境からも離れてるし、みんなもまだ他人事なのかもしれないね…」
「うん…」
…ここも戦場になるのだろうか…
そう思うだけで、胸の辺りが苦しくなる…
「…でもよかったよ、おかげで今日はいつもの街を満喫できそうだ…」
フィリスが安心したように笑う。
「今日の君との時間は一瞬たりとも無駄にしないよ」
「…すべて、僕の記憶の中にとどめておくから…」
フィリスが意味ありげにシスティーナを見つめて言った。
でも私はそれが何を意味しているのか、その時は分からなかった…
そうして徐にシスティーナの手を握り、指を絡めた。
「!!///////」
こ、これは…っ!!
いわゆる“恋人つなぎ”というやつでは…!?
固まる私をフィリスがクスクスと笑う。
「やっぱりデートはこうでなくっちゃね…?」
行き交う人達の視線がフィリスの顔から繋いでいる手に注がれる。
私はそれに気付いた途端に身体がガチガチに固まった…
「朝食は僕の行きつけのパン屋でもいいかな?」
「うん!もちろん!もちろんだっ!?」
…動揺のあまり、おかしな言葉遣いになってしまった…
またフィリスがクスクスと笑う。
そんなこと言われても、こんなに人に注目されるのって舞踏会のファーストダンス以来だったから、地味系鈍臭女代表の私はどうしてもテンパってしまう…
ーーー
そうこうしながら辿り着いたのは、街のパン屋さんではなく…
王都の中でも貴族向けの店が並ぶエリアに建っている高級ブティックのような建物だった…
「……!?」
ここパン屋じゃないよね…!?
フィリス、店間違えた!?
フィリスの顔を見上げるが、フィリスはまっすぐその店に入っていく。
ガチャッ
「!」
ドアを開けた瞬間に美味しいパンのにおいがして、安堵する。
店内は想像以上に多くの人で賑わっていた。
人が多くて中がよく見えないが、ハード系のパンが多く並んでいて、見ただけで美味しいと分かるほどだった。
お店の雰囲気も洗練されていておしゃれで、女性ウケ間違いなしだ。
私も他のお客さんに倣って列に並ぼうとすると、そこへお店の店員というよりはホテルの総支配人といった風貌の清潔感のあるイケオジが現れて、フィリスに丁寧にお辞儀をした。
「フィリス様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
「ありがとう。」
フィリスも慣れた様子でそのイケオジの後をついて行った。
店内の通路を通って案内された部屋は6人掛けのテーブルが置かれている広々とした部屋で、その上には焼きたてのパンが多数並べられていた。
「わぁ…っ!!すごい!!」
先ほど店内で見た美味しそうなパンが目の前に並んでおり、あまりのVIP待遇に感動してしまう。
「好きな物を選んでね。この他にもスープやサラダも頼んであるから。」
なんという…!!
前の世界で言う、パン食べ放題のステキなお店だわっ!!
私は欲望のままに食べたいパンを選びまくった。
パンを選んだ後は、フィリスのエスコートで席についた。
フィリスは私の向かいに座った。
「?」
「いつも屋敷の朝食では、君の近くで食べたくて隣に座ってたけど、今日はどんな君も記憶に留めていたいから、向かいの席で食べさせてもらうね。」
そう言って青い瞳をキラキラさせながら微笑んだ。
…そんな言い方されたら、どんな顔していいか分からなくなる…
急に呼吸の仕方を忘れて固まると、フィリスがそんな私を見てクスクスと笑う。
「!!」
「もう、笑わないでよーっ!!」
向かいで食事をとるフィリスは、どんな顔も綺麗でカッコよかった…
さすが、超絶美形王子…!!
そんな超絶美形王子は、宣言通り食事中ずっと私のことを見つめながら食事を摂っていたので、私は緊張のあまり生きた心地がしなかった…
でもフィリスは、そんな私のことすらクスクスと笑いながら、幸せそうな笑みを浮かべるのだった…
「…っ!!////////」
これなんて罰ゲームですか…!?
ーーー
「美味しかったかな?」
店を出た後、エスコートで腰に触れていた手を恋人繋ぎに握り直してフィリスは尋ねた。
「う、うん!緊張したけど、全部美味しかった!こんな美味しいパンは久々に食べたよ!」
私は歩きながら、美味しかったパンの感想を興奮気味に伝えた。
「…よかった、喜んでもらえたみたいだね。」
フィリスが私に微笑みかける。
「…あそこの店で僕の母の故郷で作られたカンパーニュを毎年取り寄せてもらっているんだよ。」
「!!」
私は目を見開いてフィリスを見上げる。
「…いつぞやの、君が食べたカンパーニュがそうだよ…」
「!!」
「あ、あの時は…っ!!」
当時のことを思い出して、おもわず赤面する。
「あの時のこと、覚えてる…?」
赤面する私を楽しそうに見つめながら、フィリスがこちらを見る。
忘れるわけがない…
あの日は初めて両手に手錠をかけられるという変態プレイをさせられた衝撃の日だったのだから…
そして…
「…フィリスに…パンを口に詰め込まれた…」
「あはは、そう!」
「あの時の僕はそれがすべてだったからね…」
「僕にとってはあのカンパーニュが、顔も見たことのない母の思い出の代わりだったから…ついムキになっちゃったんだよね…」
「……っ!」
生まれた時から母親がおらず、育ての親である乳母にも愛情を与えられずに育ったフィリスのことを思うと、胸が痛んだ…
ぎゅっとフィリスの腕を両手で握りしめる。
フィリスはそんな私を見て優しく笑う。
「…でも今は君がいてくれるから…僕はもう寂しくないよ…」
「フィリス…」
「ありがとう、システィーナ…」
フィリスは私の頭を大事そうに撫でながら、優しげな顔で見つめた。
「………」
でもその瞳はどこか寂しげに見えた…
ーーー
「着いたよ。」
次にやってきたのは、これまた素敵なお店だった。
「いま貴族の間で人気の仕立て屋なんだよ。」
「へぇ〜!」
「ここで君に、僕の色のドレスを作ってもいいかな?」
「!!」
私は以前マイラが着ていた水色のドレスを思い出した。
「…僕は君に着てほしいんだ。」
「プレゼントさせてもらえる…?」
「……っ」
推し色カラーのドレスは二度とゴメンだと思っていたけど、私は前回の舞踏会を思い返した…
あの時はフィリスと心がすれ違ったまま、水色のドレスを着たマイラとフィリスが踊っているのを遠くで見ていた。
自分で招いたこととはいえ、思い出すとまだ胸がチクリと痛んだ…
前にリードベルと街へ行った時に何が欲しいか尋ねられて、水色のドレスと答えたこともあったっけ…
それは、自分がどれだけフィリスのことを好きだったのか思い知らされた瞬間でもあった…
「…嫌かな…?」
私の様子を見て、フィリスが優しく尋ねる。
私の気持ちを尊重してくれてる様子がうかがえる。
「ううん!!全然…っ!!」
「…むしろ…嬉しい…」
「フィリスとお揃いのドレス…」
私は恥ずかしい気持ちを抑えて、言葉を絞り出す。
フィリスは、自分が初めて人を好きになって、初めて失恋を経験した相手だ。
そんな相手から、お揃いのドレスを作りたいと言われて嬉しくないわけがない…
「………」
急に静かになったフィリスを見上げると、フィリスは顔を背けていた。手で隠しているが、顔が赤くなってるのが分かる。
「…?」
「…ったく、ほんと君ってそういう不意打ちずるいよね…」
「…もう、全て奪いたくなっちゃうよ…」
不意に顔を近付けて、耳元で吐息混じりに囁く声が熱い…
「!!」
フィリスに手を引かれてお店に入ると、また先ほどのようなVIP待遇を受け、フィリスとサンプル品を見ながら、ああでもないこうでもないと楽しく言い合いながら、納得のいく一点物のドレスを2人でデザインした。
そして…
「このドレスに合うチョーカーも作りたいんだけど…」
そう言ってフィリスがポケットから、見慣れたチョーカーを取り出した。
「…それは…っ!」
私が倒れてあちらの世界へ行くまで、毎日肌身離さず持ち歩いていたチョーカーだった。
こっちの世界に戻ってきて、どこにも見当たらなかったけど、フィリスが持ってたんだ…!!
「前に君にあげたこのチョーカーは僕が作ったものだから、今度は君の好みに合ったものを一緒に作りたいんだけど、どうかな…?」
私を見つめるフィリスの顔がとても優しい…
「……っ」
「…ありがとうフィリス…」
フィリスの気持ちが嬉しくて、おもわず涙ぐむ。
「…でも私はこのデザインがすごく気に入ってるから、これと同じ物がいいな…」
そう言うと、フィリスは驚いた表情を見せる。
「……」
「…ははっ…本当君には敵わないよ…」
フィリスがあどけない表情で笑った。
私はそんなフィリスの顔が好きだった。
ーーー
その後、無事にドレスとチョーカーの注文を終え、再び街を歩いてお世話になったみんなへの贈り物を選んで買って帰り、その日の街歩きは終了となった。
…それから数日経って、隣国のヨアルドから宣戦布告があり、私とフィリスはまた離れ離れになってしまうのだった…




