第36話「ゲームの筋書き」
「ふぅ…今日はまた一段と陽射しが強いわね…」
そう言って、マイラはシスティーナの斜め向かいのベンチに座る。
太陽は夏に向かって本格的に暑さを増していた。
「…それで、ゲームのこの先の話って…!?」
「やっぱりゲームの中でも戦争は起こったの…!?」
私が焦って続きを急かす。
「…とりあえず座んなさいよ。」
マイラが無愛想に促す。
「………っ」
システィーナがもどかしそうに再びベンチに座る。
「…まあ、私がプレイして分かってる範囲のことだけど…」
「フィリス様ルートとエリオット様ルートでは、戦争の話は一切出てこなかったわ。」
「……」
「…でも」
「リードベル様ルートでは、確かに戦争は起こった…」
「!」
私は息を呑んだ…
「そ、それで…どうなるの…?」
「……」
「最終的には隣国の仲裁によって戦争は収束して、戦争を仕掛けたヨアルド側には八方から然るべき報復措置が下されて、急速に国力が弱まったという話だったわ。」
「隣国の仲裁には、フィリス様やエリオット様のお力添えがあったって。」
…それは事実だろう…
現にフィリスはこのところ、方々に忙しく手紙を出しているようだった…
「…そして、リードベル様は…国境の激戦区に数名の騎士を連れて乗り込んでしまうの…」
マイラがやや青ざめた顔で言う。
「……っ!」
この前のフィリスと言い争っていたリードベルを思い出す。
…もしかして今回も一人で前線に乗り込むつもりなのだろうか…
「…ゲームの中では、ヒロインである私がリードベル様を追いかけて、洞窟で一夜を過ごすっていうイベントがあるんだけど…正直私にはそんなこと無理…」
「私が行くことで、リードベル様は他の兵士とはぐれて危険な目に遭ってしまうことになるし…それに…」
マイラが苦しげに顔を歪ませた。
「?」
「…リードベル様が好きなのは、あなただから…」
「……」
「……は?」
「いや、何か誤解してるみたいだけど、あいつは…」
「同じことを何度も言わせないでよね!!」
「!?」
「…きっと、洞窟で一夜を過ごすのはあなただと思うわ…」
マイラが切ない表情を浮かべる…
……
………ん?
「…いやいや、ちょっと待って!」
「まあ、リードベルの気持ちは置いとくにしても、私も別にリードベルを追いかけるつもりはさらさらないし、リードベルと二人で洞窟で野宿するつもりもないよ…」
「……野宿…?」
マイラが困惑して聞き返した。
「…?」
「…だって一夜って…」
「…あ、ああ……」
マイラが驚いたような顔をする。
…何か変なことを言ったのだろうか…?
「…私キャンプも漫画の知識しかないし、言っても足手まといだと思うんだよね…」
「………」
「……あんたがバカでよかったわ…」
「なっ!!?」
こいつまでリードベルみたいなことを…!!
「…それよりも…問題は決断の日よ。」
マイラが唐突に話題を変える。
「!!」
「リードベル様ルートの時は戦争と国王の病気とで決断の日が早まるみたいだけど、今回もそうなんでしょ…?」
「あんたはなんて答えるつもりなの…?」
「…誰を伴侶に選ぶの…?」
マイラが真剣な表情で私を見つめる。
「……」
「………私は…」
「…誰と一緒になりたいの?」
「えっ!?」
立ち上がったマイラが、私に答える間を与えること無く詰め寄る。
「…リードベル様ルートでは、当然悪役令嬢であるあなたはリードベル様を選んだわ…」
「…今回はどうなの…!?」
「え、いや、今回はって…!前回は私じゃなくてゲームの中のシスティーナの話でしょ!?この世界はゲームの世界とは無関係だってマーカスが…」
「いいから、早く選んで!!」
「!!」
声を荒げたマイラは、自分でもハッと我に帰った。
少し間をおいて「はぁ…」と大きなため息を吐くと、再びベンチに腰を下ろした。
「……たく…あんたを見てると、じれったいわ…!」
「…は、はは…」
システィーナは、マイラの謎の勢いにたじろぐ…
「……で?」
「…あんたは結局誰が好きなのよ…?」
「え!?」
「……エ、エリオット様かなぁ…?」
「……は?」
マイラが呆れた顔をする。
その顔がとても怖い…
「フィリスはどうしたのよ…?」
「えっ!?」
その言葉に顔が赤くなる。
「フィリスは…すごく大事だし…大切な存在だと思うよ…?」
「…はあ?」
「…なんてチープな表現。しかもそれ言うだけで顔赤らめるとか、理解不能なんだけど…」
マイラがもの凄く白けた目でこちらを見ている。
…ものすごーく…怖い……
これだからリア充は!!
「…じゃあ、リードベルさ」
「あ、特に興味ありません!」
マイラが言い終わらぬうちに真顔で即答した。
心なしか、マイラがホッとしたように見えた。
「…?」
「…まあ、あれよ、要はあんたは男問題が飛び抜けてポンコツなのよ。」
「ポッ!?」
ポンコツ……だと……っ!!!?
「…要はガキなのね」
「なっ!!」
「な、なによ!!私だって少しはこの世界に来てねー!」
今度は私が立ち上がって反論する。
「…あんたは…」
マイラはそんな私の言葉を遮って、顔をじっと見つめる…
「…普段は平均以下の地味系鈍臭女なんだけど…やっぱり何か違うのよね…」
「内側にある何かが…」
「…!」
…そういえば、マーカスもそんなことを言ってた…
「…も、もしかして…」
「?」
「…私の魂が綺麗だから、かな…!?」
私は戸惑いながら答えた。
「………」
「……悪いけど、今すぐこの場から魂ごと消えてくれない?」
マイラがものすごーーく冷たい目で私を見ていた…
「!!」
ーーー
その日の夜、私は久々にフィリスに誘われて、フィリスの部屋のベッドで一緒に寝ることになった。
「……急だけど、明日さ、二人で街へ遊びに行かない…?」
突然フィリスが提案した。
「え、街へ…!?」
「……で、でも……!」
「あと数日のうちは戦争は起きないから大丈夫だよ。」
フィリスが微笑み、優しく私の髪を梳く。
「…最後に君とあの綺麗な街を一緒に歩いておきたいんだ…」
フィリスが静かに笑う。
「…リードベルとは何回も歩いたでしょ?…僕とも一緒に歩いてよ…」
フィリスが目を細めて甘えるように言う。
金髪に青い瞳の彼は、今日もその美しい顔が引き立っている。
横になっていることで、前髪が少し乱れて目にかかっているのが余計に艶っぽくて、更に目に毒だ…
「う、うん…」
「…私も…フィリスと歩いてみたい…」
私がおずおずと答えると、フィリスの顔がパッと明るくなり、
「よかった!じゃあ明日は朝から行こう!」
「そうと決まったら早く寝なくちゃね!」
と子どものようにはしゃいで喜んだ。
…本当、可愛い人…
私までおもわず顔が綻んでしまう…
「…そうと決まれば、今日はもう寝よう!」
「おやすみ、システィーナ!」
そう言って笑顔で私の額にキスをすると、そのまま私を抱きしめて眠りに入った。
…私はそんなフィリスの様子に少しだけ違和感を感じながらも、フィリスの腕の中でゆっくりと目を閉じた…
「………」




