第33話「戻ってきた日常」
翌朝。
気だるい疲れと共に目が覚めた。
身体はしっかりフィリスの腕の中に収められている…
唇を重ねていない状態が寂しいと感じるくらいに、昨日はずっと寝ながらフィリスに唇を重ねられていた…
…なんか…
自分が自分じゃないみたいだ…
少し恥ずかしい気持ちになる…
…これがリア充というやつなのだろうか…
私はリア充になったのか…?
私は「リア充」と呟きながら、再び眠りに落ちた…
ーーー
その後、朝食の前に再び目覚めて、自分の部屋で準備をしたが、フィリスは私が起きたのにも気付かずに眠り続けた。
さすがにまだ体力が戻っていないのだろう…
乱れた金髪の髪が長いまつ毛にかかり、物語に出てきそうな王子様は寝姿も美形だった…
フィリスには起きたら食事を部屋で食べさせることにして、私は先に自分の食事を摂りにパーラーへ向かった。
パーラーでは、先にリードベルとマイラが食事を始めていた。
私が眠そうにあくびを噛み殺していると、それをリードベルが目ざとく見つけて突っ込んだ。
「…お前また昨日も眠れなかったのかよ…?」
「フィリスの看病に根詰めすぎじゃねーか!?」
「え、いや、その…」
私が答えに詰まっていると、マーカスがフォローしてくれた。
「…昨日私がフィリス様の嫉妬心を掻き立てるようなことをしてしまったので、その後は二人で朝まで楽しい夜を過ごされただけですので、ご心配なく…」
マーカスがニッコリと笑う。
「ん〜?んんーー!?」
マーカスの言葉に、私は尚のこと言葉に詰まって返事に困る。
フォローどころか、逆に追い込んできたよ、この人!!
「……フィリスと……」
「そうか……」
それを聞いたリードベルが急に黙り込む。
「!」
「……な、なによ…っ!?」
リードベルが静かになると、なんだか後ろめたい気持ちになる…
「…まあ、お前が幸せならそれでいい。」
そう言って紅茶をすする。
「……!」
なによ!なんなのよ!!
おもわず顔が赤くなる。
動揺で目を泳がせていると、ふとマイラに目が止まった。
マイラはいつものゆるふわ元気なブリブリした様子はなく、今日は大人しくチラチラとリードベルのことを見ていた…
昨日のリードベルのセリフといい、どうやら二人の間に何かがあったらしい…
…まあ、私には関係ないけど…
ーーー
朝食の後、フィリスの様子を見に行ったが、まだ寝ているようだったので、そのまま寝かせることにして、私は久々に中庭へと向かった。
「……!」
中庭ではエリオットがルルに餌をあげていた。
エリオット様…
ルルも子猫だったのが、いつの間にかすっかり大きくなっていた。
「…もうフィリスは大丈夫なの…?」
相変わらず寝癖のついた金髪の髪を風になびかせながら、美しい赤い瞳をこちらへ向ける。
「…いいえ、まだ分かりませんが、日に日に顔色は良くなってきています。」
「…そっか、よかった…」
エリオットは安心したように僅かに表情を緩める。
きゅん…
私も調理場からもらってきたエサをルルにあげる。
ルルに会えるのも久々だ…
ルルがエサにかぶりついているのを見ていたら、ふとエリオットからの視線を感じだ。
「…っ!!」
間近で私のことを見つめていて、おもわずドキッとする。
目を丸くした私を見て、微笑みながらいつもの低い掠れ声で私に言った。
「……おかえり…」
「……っ!!」
……はい、私も大好きです!
と心の中で謎の返答をする…
舞い上がってしまって、その後の会話は覚えていない…
久々の昇天案件だった…
ーーー
その後、調理場で皆んなに配るためのクッキーとスコーンとカンパーニュを作ってから、フィリスの部屋へ戻った。
フィリスが倒れてから…というか、その前もずっとフィリスのことで病んでいて部屋に引きこもってばかりいたから、久々の外やお菓子作りはいい気分転換になった。
ーーー
「…参ったなぁ…ちょっと夜更かしするだけでこんなに寝ちゃうなんて…」
フィリスが私に遅めの朝食を食べさせてもらいながらぼやいた。
「…しょうがないよ、身体の中の損傷は治るのに時間がかかるから…おまけにそこに負荷かけて仮死状態にまでなっちゃったし…」
「…あんまり無理しないでね…」
「うん、分かった。可愛い君を悲しませたくないからね…」
「…にしても、昨日は不可抗力だったんだけどね…」
フィリスがクスクスと笑う…
「今日もぐっすり眠れるかどうか…」
「!!」
私は昨日のことを思い出して顔が赤くなる。
…そして、今夜も一緒に寝ることはもう決定事項らしい…
「…そのうち、我慢することに興奮を覚えてしまいそうだよ…」
色っぽい流し目で私を見るフィリス。
「……ごめん…」
「ううん、いいよ。焦らされるのも嫌いじゃないから…」
「でも、うっかり他の男に手を出されたりしないように気をつけてね。」
「これからの君の初めては、全て僕がもらうって決めてるから…」
そう言って、目の前の超絶美形の王子様はニッコリと笑った。
「あはは…はい…」
ーーー
朝食を食べさせた後は、そろそろ執務を行いたがるフィリスを必死に説得して、なんとか寝かしつけた…
体力も回復してきているようだし、そろそろお仕事を少しずつなら再開できるかもしれない…
後でマーカスに相談してみよう…
ーーー
午後のティータイムの時間帯には、差し入れとしてエリオットにスコーンを持って行った。
エリオットは顔を綻ばせて「ありがとう…」とはにかみながらも優しい笑みを向けてくれた。
…こちらこそありがとうございますっ!!!
私は心の中で全力で敬礼した。
相変わらずエリオット様はお美しかった…
ーーー
続いて向かったのはリードベルの部屋だった。
コンコン!
「……?」
ノックしても誰もいないようだったので、ゆっくりドアを開けてみた…
やはり中には誰もいないようだった…
出かけてるのかな…?
…それならまあ、また来るのも面倒だし、置き手紙だけ書いてクッキーを置いていけばいいだろうと思って部屋の中に入った。
私はベッド脇の机にクッキーを置き、紙とペンを探した。
「えっと、紙とペンは…と…」
その瞬間、後ろから首に腕を巻き付けられ、口元を何者かに押さえられた。
「…動くな…!」
「!!」
「……またスパイ活動か…?」
後ろから地の這うようなリードベルの声が聞こえた。
その声は少し笑っている。
「…んぐ…っ!」
私は首を曲げてリードベルを睨む。
「…なんてな!」
そう言って私の身体を解放した。
「お前、こっそり人の部屋に入って何してたんだよ?夜這いか?夜じゃねーけど。」
リードベルが意地悪げに笑う。
「………」
私はそんなリードベルを睨んで言った。
「……ちょっとスパイ活動のついでに、クッキーでも置いていってやろうと思ったんだけど、やっぱり持って帰るわ。」
「!!」
「クッキーだとっ!?」
それを聞いて目の色を変えるリードベル。
どんだけクッキー好きなんだよ!!
私はクッキーの入った紙袋を持ち帰ろうと、わざと真上でヒラヒラさせる。
「それじゃあ〜私はこれで〜!」
「いや、待て!落ち着け!!」
「えー?私は落ち着いてますよー!?」
「まずは話し合おう!!」
「いやー?前はスパイ容疑でいきなり剣を突きつけられちゃったし〜!?怖いからぁ〜!」
「くっ…!!」
「あ、あの時のことは…!!」
ドサッ!
リードベルは私の両腕を押さえたまま、後ろのベッドに押し倒した。
「…あの時のことは…本当に悪かったと思ってる…!」
リードベルが真剣な表情で見下ろす。
「!!」
リードベルの顔を見て、一瞬ドキッとするが、すぐに誤魔化す。
「……これ、反省してるやつの態度じゃないでしょ…っ!!」
「腕を離してよ…っ!」
「…お前が暴れるからだ…」
「あんたがバカなことばっかり言うからでしょ!」
「ふん…バカに言われたくないな。」
「なによ!クッキー持って帰るからね!?」
「………」しーーん
リードベルに真上から見下ろされて、心臓がドクドク鳴る。
このままキスされそうなくらい顔が近い…
「…あ、あんたいつまでこの体勢で…っ!」
「…全く…階段から落ちて目覚めなかった時はどうなることかと思ったぞ…」
「!!」
「大方、腹が減って急いでたんだろ…お前は食い意地が張ってるからな…」
「う、うるさいわね…っ!!」
私だってまさかそんなことで、前の世界に帰ることになるなんて思わなかったわ…っ!!
リードベルが急に押さえていた両腕を離したので、仕返しとばかりにリードベルの胸をドンドン叩いた。
「痛えな」
不意に私を抱きしめるように、リードベルの身体が私の上にのしかかってきた。
「!!」
「…ちょっ…何すん…」
「……本当に……」
「!?」
「…もうどこにも行くんじゃねぇぞ…?」
耳元で言われたその言葉に、心臓がドキンと跳ねた。
「…わ、私だって行きたくて行ったわけじゃないし…っ!!」
「階段から足を踏み外したマヌケはお前だろ…」
「!!」
「…全く…無茶すんなよ…」
「………っ」
触れ合う身体からリードベルの熱い体温を感じて、おもわず呼吸をするのも忘れてしまいそうになる…
「……お前……昨日フィリスと……」
「…へ…っ!?」
「……いや……なんでもない……」
そう言ってゆっくり私を解放して起き上がった。
「………」
私は、気が抜けてしまってベッドから起き上がれずにいた。
心臓だけがドクドクと激しく私の胸を鳴らした。
そんな動揺している私を一瞥したリードベルは
「…なんだ?まだ続きでもして欲しいのか?」
とまた悪戯げに笑った。
「違うっ!あんたが急に変なことするから力が抜けちゃったの!起こしなさいよっ!!」
私はマヌケな体勢のまま強がる。
「…ったく、しょうがねぇなぁ?」
私が差し出した手をリードベルが力強く引っ張る。
立ち上がった反動でリードベルは自分の胸にシスティーナを抱き寄せて頬にキスをした。
「!!」
「何すんのよー!?」
「ははっ起こしてやった駄賃だ…」
そう言って笑った。
「……!!」
私の顔は真っ赤になる。
…こいつ、いつの間にか女慣れしてやがる…っ!!
「…なによ…!」
「私がいない間に、随分と楽しい経験を積んでいたみたいね…!?」
「はっ…まあな…」
「よかったら、お前も相手してやろうか…?」
…コイツまでフィリスみたいなことを言うようになって…!
「…ふ、ふん!結構よっ!!」
まるでマラソンで仲間だと思っていた奴に、ゴール前で先にいかれたような気分だ…
私はこれ以上奴が何か変なことをしないうちにと、そそくさと部屋を後にした…
バタン…
システィーナのいなくなった方を見て、人知れずリードベルは笑った。
「はっ…そんなヒマあったかよ…」
「…バカな奴…」
リードベルは、ぐしゃぐしゃになったクッキーの紙袋を大事そうに拾い上げた…
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