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第32話「フィリス、苦悩の夜」

「は、はい…」


私はフィリスに誘われるままに、ベッドに入った…



そんな私を見て、フィリスは嬉しそうに顔を綻ばせた。


…か、可愛い…っ!


そう思っている間に、私よりも大きな身体のフィリスにぎゅっと抱きしめられる…


「…っ!!」


こっちの世界のフィリスに抱きしめられるのは、すごく久しぶりで、心臓がうるさく鳴る。

フィリスの逞しい身体も、においも、すべてが懐かしくてドキドキする…



「はぁ…久々の君の感触…たまらないなぁ…」


ため息と共に漏らすフィリスの言い方がなんだかいやらしくて、おもわず身体が熱くなる…


でも、フィリスも同じことを思っていたんだと思うと、なんだか嬉しくなる…



「ねぇ…」

フィリスが私の耳元で囁いた。



「…ずっと言いたかったことがあるんだけど…」


「…?」

「何ですか…?」




「…俺のことも“フィリス”って呼んでくれない…?」


「?」



「…リードベルだけ特別扱いなの、許せないんだけど…」


フィリスは、私の身体を更に強く抱きしめて、耳元で熱い吐息を吐きながらこぼす…


それだけで、心臓が締め付けられるようにドキドキしてしまう…



「見かける度にいつもあいつと一緒にいて…」

「すごく……妬けた……」


「……っ!」



「あいつが君の肩を抱いてるのを見ただけで、胸が掻きむしられるように苦しくなった…」


…それはいつぞやの深夜の話だろうか…

システィーナは振り返る。



「あいつの前では、敬語も遠慮もないし、俺には見せないような顔もするでしょ…?」



「……アイツに見せるような顔は、フィリス様に見せる必要はありませんよ……」


私は嘲りながら吐き捨てるように言う。



「…それでも羨ましい…俺には君の全てを見せてほしいから…」


「…っ!////」

甘えた声のフィリスに胸がときめいてしまう…



「だから、今から俺にも様を付けたり、敬語でしゃべったりするの禁止ね?約束を守れなかったらお仕置きするからね…?」


「オ…オシオキ…っ!?」

その言葉にシスティーナが顔を青くした…



「ねぇ…俺の名前呼んでみてよ…?」

フィリスが耳元で甘える。


私は恥ずかしくて目が回りそうになる。


「フィ…フィリス…!?」



クス…

「…うん、すごくイイ…」


フィリスは満足げに私の首筋に唇を這わせる。


「ひゃいっ!!」


クスクス…

身体をビクつかせた私を面白そうに笑う。



……もう、意地悪っ!!


私は恥ずかしくて泣きそうになる。



「…でも…」


「…ここだけの話、リードベルには本当に感謝してる…」


フィリスは急に真剣な顔になった。


「!」


「…あいつが、君のことを諦めなかったから、俺も君に会いに行くことができたんだ…」



「…リードベルが…?」




“……俺にしとけよ。”


前にリードベルと街へ行った時に言われたことを思い出した…



“…俺なら、お前がどこに行ったって必ず見つけ出してやる。お前が元の世界へ帰るなら、俺もついて行って必ずお前を見つけ出す!”



…私も彼にはすごく元気付けられた…


フィリスと上手くいっていなくて落ち込んでいた時もずっとそばにいてくれた…


…それを言ったらエリオット様もそうだ…


食事を摂らない私にご飯を持ってきて食べさせてくれた…



いつもお世話をしてくれる侍女達もあの時は、いつも以上にたくさん気にかけてくれた…


それにマーカス…


彼がいなくては、私はこちらの世界へ戻ってくることすらできなかった…



…私は見えない所でいろいろな人達に支えられ、助けられていたのだと、改めて実感した…


心の中がみんなへの感謝の気持ちで溢れて、じんわりと温かくなった…


「……今回私は…リードベル様だけでなく、いろいろな人達に助けてもらいました…」


「…今度何かお礼をしたいです…」


腕を緩めて私の顔を見たフィリスは、優しく微笑んだ。


「…そうだね…」


「近いうちに街にでも行こうか…?」


「はい。フィリス様のお身体が完全に回復してからですが…」


「俺はもう大丈夫。君を抱いていたら元気になってきたから…」


「やっぱり寝る時は君が一緒じゃないとね…」

そう言って笑う。



「……それから…」

笑っていたフィリスが急に雰囲気を変えて、低い声で顔を近付ける。


「…いま、敬語も様付けも禁止って言ったよね…?」


「!!」


「…お仕置き…するよ…?」


フィリスが獲物を狩るような目で私を見据えながら、私の上に跨がる。


「……っ!!」


「フィ、フィリス!?」

「な、何をするの…!?」


「…別に大したことじゃないよ、こうするの…」

そう言ってニッコリ微笑むと、

次の瞬間、激しく唇を奪われた。

「っ!!」


押し寄せる波のように何度も唇を啄まれ、呼吸をするのも忘れて、フィリスのキスに溺れる…


最後は優しい口づけで離れると、フィリスは恍惚の表情をして口の端を上げた。


どうしていいか分からずに顔を赤くしたまま目を見開いている私を見て、フィリスが私の首筋に顔をうずめて笑った。

「はは…っ、やっぱり可愛い…」


その言葉に心臓がドキンと鳴る。



「た、大したことない…って……!全然大したことあるじゃないですk……あるじゃないっ!」


「…もう一回…」


今度は両手首を押さえつけられて、ちゅっと音を立てて吸い付くようなキスをされた…


「……っ!!」


私は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった…



長いキスの後に唇を離したフィリスは息が荒く、苦しそうな表情を浮かべていた。


「…!!」


「…フィリスどうしたの!?どこか傷むの…!?」


私は心配で眉を寄せると、フィリスは笑って返した。


「うん、ここがね…」

そう言って胸を指差す。


「…もう止められなくなりそうで…」


「…君のこと、すべて奪い尽くしたくなる欲求に勝てなくなりそう…」


そう言って、私の顔を指でゆっくりとなぞる。



「…ダメかな…?」



「…!!」


フィリスの言っている意味を理解して、

私はおもわず顔を真っ赤にして「ダメっ!!」と叫んだ。



「はは……だよねぇ……」


そう言って、再び私の顔の横にボスンと頭を落とす…



「はぁ〜〜〜っ!」


「こんな辛いことってある……!?」



「好きな子がこんな目の前にいるのに、キスしかできないって…!」

「…ある意味生き地獄だよ…!」



…別にキスもいいと言った覚えはないのだが…


…でも、珍しく人前で情けない顔を見せるフィリスが可愛くて愛おしくて、私はおもわず自分からフィリスを抱きしめた…



「…………いま俺にそんなことしたら、止められなくなるけど、いいの……?」


苦しげなフィリスの言葉に、私は速やかにパッと手を離した。



「………だよねぇ〜!?」

「…はぁ〜〜〜っ」



ガッカリした様子のフィリスがまた苦しみのうめき声を上げる。



私はそんなフィリスを見て、気付かれないようにこっそりと微笑んだ。


可愛い…

私の世界一愛しい人…



不意にフィリスが顔を上げたので、そこでバッチリと目が合ってしまった。



「…え…何笑ってるの…!?」


あ、マズい…



「……俺がこんなに苦しんでるっていうのに、君は随分と余裕なんだねぇ…?」


フィリスが久々に黒い笑みを浮かべた…



「…決めた…今夜は君にもとことん俺の我慢に付き合ってもらうからね…?」


「覚悟はいい…?」



そう言って、フィリスはまた強引に私の唇に自分の唇を重ねた…


「……っ!/////」


フィリスは私を抱きしめながら息をするようにキスをし続け、私はそんなフィリスの甘いキスに一晩中溺れ続けたのだった…










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