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第3話「パンのお礼」

ーー翌日の午後。


ギシッ…


「いい子だね…」


…私はフィリスによって、今まさに彼のベッドに押し倒されていた…



はいー!

マーカスの立てたフラグ、回収しました〜〜!!



…とか言ってる場合じゃないっ!!



なんでピュアラブ目指してる初心な私が、連日こんなラブレベルMAXの魔王みたいな人に組み敷かれなければならないのだ…



私は、ただパンを届けにきただけなのに…!!



ーーー



昨日食べてしまったカンパーニュは、フィリスにとって特別な物だと言っていた。


同じ物を取り寄せることはできないが、作ることは出来るんじゃないかと思って、宮廷のコックに尋ねたら作り方を知っている者がいたから、早速手取り足取り教えてもらいながらカンパーニュを作って焼いたのだ。



それを持って彼の部屋を訪れて、ちゃんと謝ってから渡したのだけれど…



ーーー



「…なるほど。僕のためにわざわざ作ってきてくれたんだね。」


そう言ったフィリスは、天使のような笑顔を綻ばせた。


…よかった…とりあえず喜んでくれたかな…?



「じゃあ、ご褒美に1回だけしてあげるね。」



……ん?



ご、ご褒美……っ!??

いいいい1回って何のこと……っ!!?



そう思うや否や、隣のベッドに押し倒されて今に至るという訳だ…



ーーー



「…ちょっとやめてください!!」


「えー?だって、それ目的でパンをコックに作らせて持ってきたんでしょ…?わざわざ自分が作ったとか嘘までついて。」


「なに目的ですか!!考え方が捻くれてますよ!!いちいちお礼を身体換算しないでください!!」



「そういう君は、げんなりするほど青臭いね〜」


あくまで顔は穏やかな笑みを浮かべているが、言葉にはトゲしかない…



「こんなこと、気安くしてはいけないですよ!!」


「クス…でもこんなことするために、君たち二人はここに送り込まれたんじゃないの〜?」


フィリスが甘い笑みを浮かべる。


「…!!」

 

ーーー



…そうなのだ…


悪役令嬢の私とヒロインのマイラがこの屋敷に送り込まれたのには、ちゃんと設定…もとい、理由があった。


私達二人は、遠い王族の血を受け継ぐ年頃の貴族令嬢ということで選ばれ、この王子達の住む離れの屋敷で共同生活をするように命じられたのだった。


そして共同生活を経て、この中の王子との子どもを身籠った者が次の王妃となり、その王子が次の国王となる、という話だった。


…はっきり言って、この設定考えたやつ馬鹿じゃないの!?って思ったけど。

デキ婚推奨してどうするよ!!


確かに国王は、なかなか王妃様との子宝に恵まれずに、妾達との間に生まれた3人の異母兄弟の王子達しか手元に残らなかったから、次こそは確実に子どもが産める者を世継ぎをとか考えているんだろうけど…


ヒロインのマイラなんて、シンデレラストーリーを地で行く設定だから、平民出からの男爵令嬢なのだ。

公爵令嬢の私ならまだしも、満足に淑女教育も受けていないだろうヒロインが王妃になどなったら、実際問題大変なことになるだろう…


…ま、ゲームだから、なんでもアリなんだけど☆




「…話聞いてる?」


「へっ!?」


…おっと、聞いてなかった…!


フィリスがニッコリと微笑む。



「こんな状況で考え事なんて、案外余裕あるんだね。」



そう言って鎖骨の辺りをペロッと舐めた。

ゾワゾワッとして、おもわず

「やめてよねー!!!」


と咄嗟にフィリスの腰を横から膝蹴りしてしまった。


あっやばい…!


そう思って青ざめたが、当のフィリスは、思いもよらないことをされて、驚いたような顔をしていた。


そして


「へぇ…僕に興味ないんだ…」


となぜか興味津々な様子でニヤリとお笑いになった…



やばいやばいやばいやばい…っ!


本能で嫌な予感を察知して、冷や汗が出てきた。



「でもさぁ…」


「所詮そんな強がってたって、女ってのは皆、こんなことされちゃうとさぁ…」


そう言いながらフィリスがシスティーナの鎖骨から胸の脇をゆっくりといやらしく撫でる…


「あ…ひゃーっ!!はっはっはっ!!やめてぇー!!あーはっはっはっ!!!」



私がまたくすぐったさに堪えきれずに笑い出したので、


フィリスは「最悪…」と言って、私を白い目で見た。



いやいや、貴様がな!?




げんなりしたフィリスが押さえていた手を離したので、気が変わらぬうちに、ドレスを正して足速に出口へ歩いていく。


そして、ドアノブに手をかける前に、ふと疑問に思ったことを口にした。



「…フィリス様は、どうしてそんなに女性がお嫌いなんですか…?」


「…え、僕…?」


「…僕は女性が大好きだよ、愚かなところも含めてね。」

そう言って、やはり天使のような笑みを浮かべる。


「そうなんですかね…?」



「…僕が今までに経験した女性の人数…知りたい…?」

そう言って、ふらりとベッドから立ち上がったので、


「いえ!知りたくありません!!」

と咄嗟に叫んで、すぐさま勢いよくドアを閉めた。



「はあ…怖かった…」


今までの経験人数だって!?

こちとら、未だにゼロだよ!バッキャロー!!


プンプンと腹を立てながらシスティーナは自分の部屋へ戻って行った。




「……変な女……」


一人になったフィリスは、頬杖をつきながらシスティーナの出て行ったドアを眺めた後、彼女が置いて行った出来立てのカンパーニュを見つめたのだった。





システィーナが部屋に戻った後、廊下の陰から覗いていた人物が出てきた…


ヒロインのマイラである。



「…どういうこと!?まだゲームは始まったばかりなのに、早速フィリス様の部屋から出てくるなんて…!!」

「脇役グズ女のくせに生意気…っ!!」


マイラは人知れず唇を噛み締めた…












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