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第29話「元の世界へ」

パタン…


「全員お揃いですね…」


ここは地下一階にある、執事のマーカスの部屋。


そこにはマーカス以外に、神妙な面持ちの王子三名の姿があった…



「……システィーナに……ひなに…会いに行く方法があるって本当なのかっ!?」

リードベルが必死の形相でマーカスを問いただす。


エリオットは眉を顰めたまま黙ってマーカスの答えを待っている。


「まあまあ、リードベル様、落ち着いてください…」

マーカスは、相変わらずの薄ら笑いを浮かべたまま言う。


「あるにはありますが、とても危険な方法です…」


「何でもいい!教えてくれ…っ!!」

リードベルがもどかしそうに答えを急かす。



マーカスは、一度目を閉じて押し黙った後、ゆっくりと口を開いた…


「…それは意図的に身体を仮死状態にさせて、強制的に魂を入れ替えることです…」



「………えっ……!?」



マーカスの現実離れした言葉に、全員が言葉を失った…




「…成功する確率は半分もなく、少しでも間違えれば死ぬことになります。どうされますか…?」

マーカスは微笑みながら三人を見回す。



「………」




「…俺がやる!」

少しの沈黙の後、リードベルが名乗り出た。


「…俺にやらせてくれ…!」



「ほう…リードベル様ですか…」

マーカスが黒い目を細める…



「いや、リードベル待って…ここは俺に行かせてくれないか…?」

フィリスがリードベルに進言した。


「…いや!これだけは譲れない!ひなは俺が連れ戻しに行く…っ!」

「俺はあいつと約束したんだ…!!」

リードベルも断固として譲らなかった。


「………っ」



「……ちなみに、魂を入れ替えしやすい身体とかってあるの…?」

熱くなるリードベルを他所に、エリオットが冷静に尋ねる。



「…ええ、もちろんあります。」



「!!」

全員の視線がマーカスに向く。




マーカスがニヤリと笑う。


「…この中では、フィリス様が適役かと…」


「…あなたは見えないところで、かなり身体に負荷をかけてきたようだ…」

「もう身体の中がボロボロですよ…」


「…っ!!」

思い当たる節があるのか、フィリスが目を見開く。



「……そう……」


「……それなら、俺が適役ってことで決定だね…!」

フィリスがふんわりと笑う。


「…行かせてくれるね、リードベル…?」

フィリスはリードベルを見据えた。


「………くっ……」

リードベルが悔しそうに唇を噛み締めた…


それを見ていたマーカスが口添える。


「…フィリス様のお身体は、転移はしやすそうですが、逆に身体が極限まで弱っている状態ですので、早く戻らないと元の身体が死んで、二度とこちらの世界には戻れなくなりますので、くれぐれもお気をつけください…」


「…分かった…」

フィリスが真剣な表情で頷く…



「…それでは、今から魂の転移方法とあちらの世界のことについて、いろいろお伝え致します。…私も途中までご案内致しますので、その間は残ったお二人に、私とフィリス様の身体を大切に保管して頂くようお願いできますか…?」



「……分かった……」

エリオットが真剣な表情で頷く。


マーカスがリードベルを見遣る。


「………ちっ…」


「……分かったよ…!」

リードベルが悔しそうに吐き捨てる。



「…リードベル…!」

「その代わり!!」


「……絶対あいつを連れ帰ってこいよ……?」

リードベルは刺すような鋭い目線でフィリスを睨み付けた…



「もちろん…!この命に替えても……!」

フィリスも真面目な顔でリードベルを見返した…



「……ちっ!」

リードベルが腕を組んでそっぽ向く。



「……本当、気をつけて…」


「ありがとう、エリオット…」




「…では、時間もありません、早速作戦を説明致しましょう…!」


マーカスがフィリスに向き直った。







ーーー





ピッ…ピッ…ピッ…


…気付いたら、私は病院のベッドで横になっていた…


「……!?」


ここはどこ…!?


…私は確か朝食を食べに行こうと階段から足を滑らせてしまった筈だけど…


その後、階段に倒れている自分が足元に見えて、その後誰かに手を引かれながら不思議な空間をふわふわと進んで、気付いたらここにいた…



気付けば、口には酸素マスク、手には点滴と沢山の管が身体に巻き付いていた…


……あれ……ここは……現代……?



頭上に見える点滴の袋には「滝川ひな」と書かれている。



ああ…私…戻ってきたんだ…



すぐに理解した。



そしてがっかりした…



…私は、やっぱり戻ってくる運命だったんだな…


…フィリス様にお返事しなくて正解だったわ…



…そう思うのに、思いに反して胸はきゅうっと痛んだ…



…身体は元に戻ったのに、フィリスへの思いだけは、そのままこちらの世界にまで持って帰ってきてしまうなんて…私はなんて未練たらしい女なんだろう…




もうこの世界にフィリスはいないというのに……




「………」

横になったまま、徐にポケットに手を入れて中を探る。


「……さすがにチョーカーは持ってこれないか…」

一人呟いて笑う…



徐にポロッと涙が溢れる。


それに続いて次々と両目から涙が溢れてきた。


……もう、本当に会えないんだ……!


遠くから姿を見ることも叶わない……


この世界にあなたはもういない……!



その事実が私の心臓を軋ませ、苦しめた…





ーーー



その後、私は医者や看護士を必死に説得して、翌日の夕方にはなんとか退院することができた。

私は精神病院に入院させられていたらしい…


看護士達の話を聞くと、私の身体にはこれまで、本物のシスティーナが入っていたようだ…

病院のスタッフや周りの人は全て使用人だと思い込んで、それはそれは横柄な態度をとっていたらしい…


現代でも臆することなくその態度を貫けるなんて、ある意味すごいメンタルだ…


どうやら本物の悪役令嬢であるシスティーナは、聞きしに勝る人物だったようだ…




病院の帰りに会社に連絡したら、辛うじて療養休暇扱いになっていたらしく、早速明日からまた出勤することになった。



とりあえず働かないことには暮らせないので、会社をクビになっていなくてよかった…




ーーー


翌朝。


安心したのも束の間、翌日出勤したら大変なことになっていた…


無断欠勤をしていたシスティーナは、同僚に自宅で騒いでいた所を無理矢理会社に連れてこられたらしいが、そこでも我が儘三昧の限りを尽くしていたらしい。


デスクに腰掛けて、上司を使用人呼ばわりして、周りにもやれお茶が飲みたいだの、マッサージをしろだのと、命令しまくっていたらしいことを上司から聞かされた…



…私がいない間に何してくれてんねん!!システィーナ!!!



私はオシャレ女子達に陰で「システィーナ」とあだ名で呼ばれ、ただでさえ影が薄かった私は、益々居場所がなくなり、針の筵状態で仕事を再開することになった…


…確かに私みたいな地味女が突然「システィーナ様とお呼び!」なんて豹変したら、頭がおかしくなったと思われるだろうけど…


自分がやったわけじゃないけど、穴があったら入りたい気分だ……


ちなみに余談だけど、私の突然のはじけぶりに、一部のドM男性陣の好感度が上がったらしいと、オシャレ女子達が教えてくれた。


……そんなの、全然嬉しくないわっ!!



相変わらず、私の恋愛事情は空回る…



私はもはやシスティーナのような、吊り目だけどきれいな顔立ちや、美しいブロンズの髪や豊満ボディでもなくなり、ただの地味を極めた真面目系中肉中背の眼鏡女子に戻ってしまった…


はあ…

それにしても、システィーナに比べると、本当に地味な見た目だ…

今までいかに自分に興味がなかったかが、今になってありありと分かった。


「…今からでもジムに通って豊満ボディを目指すか…?」


あちらでの経験のおかげで、前よりは恋愛に対して前向きに考えられるようになった気はするが…



そんなことを考えつつも、今日もこれまでのように、22時近くまで仕事を頑張る…


オシャレ女子達は定時の17時には退勤しているというのに…

今日は相席居酒屋に行くと言っていた…


恋愛を成就させるためには、まずは仕事を早く終わらせる方法を学ばなければならないらしい…




ーーー



翌日。


そう思っていたのに…


「システィーナ先輩〜!」

「この書類の資料まとめとデータ入力お願いしてもいいですかぁ〜?」

そう言って、私の机に大量の資料をドサッと置いた。


「…!」


「…これって、あなたがお願いされた仕事じゃない…?」


「そうなんですけどぉ〜、今ちょっと他の仕事が立て込んでて出来ないのでお願いします〜!」


「え〜っ!」

「先輩がいなかった間の穴埋め大変だったんですよ〜?」

「うっ…」

…それを言われると何も言えない…


「じゃ!お願いしますね♪」

私が固まっている間に、彼女は無理矢理仕事を押しつけて行ってしまった。


……これだもの……


強気に出られない私も悪いが、こうたくさんの仕事を押し付けられては、帰れるものも帰れない…


はあ…


私は大きなため息を吐いた…





後ろの方では、さっきの彼女が他の女子達と話をしているのが聞こえてきた…


「ちょっ!システィーナ先輩とか、本人に言っちゃうのマジウケるんだけどwww」

「あの人怒らないから大丈夫っしょ!」

「でもあの仕事、あんたが頼まれてたやつじゃんw」

「だってぇ〜、今日は昨日知り合った人とデートに行くから、早めに会社出たかったんだもん♡化粧バッチリしなきゃだし!?」

「悪いやつ〜wマジ給料泥棒www」

「それなーwww」

「とか言って、あんた達もシスティーナに自分の仕事押し付けてるくせにwww」




……あんたら、会話バッチリ聞こえてるよ……


言うなら聞こえないところで言えっつーの!



はあ、もう馬鹿らしい…



ーーー



深夜22時。


残ってるのはほとんどが年配の男の先輩達。


若い女性で残ってるのはいつも私だけ…



仕事をどれだけ頑張っても、評価されるのは愛想が良くて見た目が可愛い子達ばかり…


そりゃまあ、おじさん上司にとっては、可愛い子達は目の保養だもんね…!?



結局どこの世界もマイラみたいな要領のいい女が愛されるって事なのね…


私は再びやさぐれモードになって、心がささくれ立った…



それでも明日は早く帰ろうという誓いを立てて…





ーーー



その翌日。


ようやく溜まっていた仕事が片付いてきて、今日はいつもより1時間くらいは早く帰れそうだなと思っていたところに、また昨日の彼女がやってきた。


「システィーナ先輩〜!またお願いがあるんですけど〜!」


「……なに…?」


「この書類を明日までに作らなきゃいけないんですけど、私いまやることが手一杯で手をつけられなくて〜!ちょっとお願いしてもいいですかぁ〜!?」


「……また…?」


「またって言っても、こっちは先輩の皺寄せでいろいろ大変なんですよぉ〜?」


「………」


「先輩独りだし、好きなだけ残ってお仕事できるでしょ!?私はそれ無理なんで。申し訳ないですけど、よろしくお願いします〜♪」


そう言って、また無理矢理机に書類を置いて、去っていってしまった…




はあ…



私だって好きで残って仕事してるわけじゃないのに…!


独りで悪いかよ!独りなら仕事頑張らなきゃいけないのかよ…!?


私だって早く帰って家でゆっくりしたいわ…!!



そりゃ、世の中の主婦達に比べたら時間はあるかもしれないけど、私だって仕事をするために生まれてきたわけじゃない…!


私だって人並みの幸せを掴みたい…!


普通の恋愛だってしたいのに…っ!!




「……もういい、帰る…!」

私は何かが切れて、まだ定時前の16時だったが帰ることにした。


上司に帰ることを伝えると、ギョッとされた。

私が今まで有給休暇を取ったことがなかったためだ。


「…まだ体調が悪いのか…?」


「はい、今日は気分が優れないので帰ろうと思います。」

私はリードベルくらい目を据わらせて、見下すような目付きの悪い顔で答えた。



「え!?先輩帰るんですか!?私が頼んだ資料はどうするんですか!?」


上司がチラリとこちらを見る。


「……悪いけど、私は体調が悪いの。元々あなたの仕事なんだから、あなたが頑張って。」


そう言って、しれっと部屋を出て行った。


後ろから「…なにあいつ!?」と大きな声でいきり立っている声が聞こえた。



…ふんだ…

…もう知らん!


今日はオシャレして、私も相席居酒屋に行ってやる…!


そしてフィリスみたいなイケメンとまた恋をするんだ…



「………」


そう思って立ち止まり、再び胸がズキンと痛んだ…



私が出会いたいのはフィリスみたいなイケメンじゃない…

…フィリス自身だ…


「はあ…」


「フィリス様に…会いたい…」


みんなにも……




「……やっぱり今日は、あのゲームをやろう…」


今度はエリオット様ルートじゃなくて、フィリス様ルートで…


悪役令嬢のシスティーナを見るのは、ちょっと複雑な気分だけど…


そう思ってほのかに笑いながら一階の自動ドアを出ると、少し先の柱の所に若い男性が立っているのが見えた。



その人は、身長は高くて、髪は緩いパーマがかかっていて、後ろは短くきれいに刈り上げられている。年齢は、私よりも下の24、25歳くらいだろうか…?


カッコいいお兄ちゃんだな〜

モテそうだな〜


私はその男性をおもわず見つめた。

さっき同僚の彼女との話もあったためか、私はその男性が気になってしまった…


…ダメダメ、私にはあんなイケメン、釣り合わないわ…!


私は今からイケメン王子達とゲームの世界で恋愛するんだから…


そう思って通り過ぎようとしたら、不意に男性がこちらを振り向いた。



「………っ!!!?」


目が合った瞬間に、心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走った。

心臓が早鐘を打ち、私はおもわずその場に立ちすくんだ…



その彼は、私を見た瞬間、目を見開いて、迷わずこちらに歩いてきた。


「……っ!?」


そして私を見て笑いかけた。

「…システィーナだね…?」



「…っ!!」


信じられない言葉に耳を疑ったが、私の心臓は高鳴った…


すぐに相手が誰か分かった。


「……フィリス様…っ!?」


その相手は、顔を綻ばせると、ギュッとひなを抱きしめた…



「…やっと見つけた…!」


…フィリス様だ…!


間違いなくフィリス様だ…っ!!


私は魂が震えるのを感じた…



「……どうして、フィリス様がこちらの世界に……?」


姿形は違うが、ついさっきまで会いたいと思っていた相手が目の前にいて、嬉しさで涙が込み上げてきた…


フィリスはそんなひなの顔を両手で包み込み、涙を拭うと、顔を近付けて優しく囁いた…

「君を取り戻しに…」



「……どうして…!?」

「フィリス様は私の態度にお怒りで、嫌われているとマイラから聞いたのですが…」


「またマイラの話…?」


クスリと笑うフィリス。


「……だって…」

「フィリス様はマイラ様とお付き合いされているんでしょう…!?」


「付き合ってないよ…」


「っ!!」

フィリスがあまりにも真面目な顔をして言うので、おもわず息を呑んだ…


「だって…一緒のベッドに寝てるってマイラ様が…っ!」


「…俺がそんなことすると思う…?」


「……うん……」



「クス…バカなシスティーナ…」


そう言って両手で包んだ顔を上に向けて、唇にキスをした…



「………っ!!!?」


「クスクス…こんなに顔を真っ赤にさせて…相変わらず可愛いね…」

そう言って親指で、キスをした唇をなぞる。


「この身体の君のファーストキスも俺のものにできたかな…?」

フィリスがおでこをつけて優しく笑う。


私は突然のことに腰が抜けて、その場に座り込みそうになった…


フィリスはそんな私を強く抱きしめて、耳元で囁いた。


「君と離れてからも、俺はずっと君のことが好きだったんだよ…」


「…今さらマイラみたいな女を好きになるわけないだろ…?」


「だ、だって…二人はいつも一緒にいたじゃないですか…!」

「あの日の夜だって深夜まで…」

私はあの日の胸の痛みを思い出して俯いた…



「ごめん…マイラと一緒にいれば、俺のことをずっと見ててくれるかなと思って…」


「俺のこと…忘れてほしくなくて…」


私を抱きしめる腕に力が込められる…



「ずっと苦しかった…」

「君は手に届く範囲にいるのに、もう触れられなくて…」

「でも元に戻ることも出来なくて…気が狂いそうだった…」


「…っ!」

「……フィリス様…!」


「本当に…本当にごめんなさい……」

私はまた涙が込み上げてきた…



「ううん…もう分かったから…」


「…君はあの時、俺と付き合う目先のことだけじゃなく、一生を添い遂げるつもりで答えを出してくれたんだよね…?」

「俺はそれが嬉しかった…」



「……重い女は嫌いじゃないですか……?」


「ううん、大好き。君ならどんな君でも好き…」

「俺への愛が深いなら、尚のこと嬉しいよ…」


そう言って私の頬にキスをする…

そして再びきつく抱きしめる。


「はあ…」

「……ようやく捕まえた…」

フィリスが私の頭に自分の顔をうずめる…



「愛してるよ、システィーナ…」


耳元で愛の言葉を囁くフィリス。



「……っ!」


フィリスの言葉が私の渇いた心に染み渡っていく…



今度こそ私もフィリスの気持ちに応えようと、決心して口を開く…


「わ、私も…あなたのことが…」


そう言うと、不意にフィリスが顔を上げて、真正面から私を見つめた。


「……っ!」

真面目な顔で見つめられて、急に恥ずかしくなる…


「…言って。」

フィリスが促す。


「うっ……わ、私も…あなたが……」






「あっれー!!システィーナ先輩じゃないですかぁ〜〜っ!?」

その時、突然後ろから声をかけられて、ピクリと肩が跳ねた。


「会社の入り口の前で何してるんですか〜!!?」

先程の彼女だ…

もう退勤時間になったらしい…

うっかりフィリスと抱き合ってるところを見られてしまった…!


というか、よく考えたら会社の前で…!!

私ったら……っ!!!


急に我に帰って、猛烈に恥ずかしくなる。

咄嗟にフィリスから離れようとするが、腰に回された手は力強く、私を解放してはくれなかった…



「え〜!?先輩まさか彼氏いたんですか〜!?超意外なんだけどー!!」

「え〜!?ウソ、見たい〜!!」

他の女子二人も後ろから来て、物珍しげに近づいて来た。


「………」

不意にフィリスが顔を上げて、彼女達の方を見ると、彼女達が動きを止めた。



「……え…!?」

「めっっちゃイケメンなんだけど!?…どういうこと…!?」



フィリスがイケメンだと分かると、急に女の顔になって近付く…

「ひな先輩とお知り合いなんですかぁ?私達ひな先輩の同僚なんです〜♡」


「そう…」

途端に冷たい視線を向けるフィリス。

今ので大体のことを察したらしい…


僅かに漏れる殺気が怖い…



「あのぉ、失礼ですが、ひなさんとはどういったご関係なんですかぁ〜?」


フィリスはそれに対して、いつもの王子様スマイル全開で答えた。

「ひなは俺の彼女です。」


「えっ!!?」

私はおもわずビックリして声が出てしまった。

彼女達の視線が刺さる…


すかさずフィリスがにこやかにフォローする。


「あれ…?毎日一緒に寝てるし、キスもしてるよね…?」

「俺達は付き合ってなかったってわけ…?俺のことは遊びだったのかな…?」


そう言いながら、見せつけるように私の顔を優しく指でなぞる。


私は顔を真っ赤にして口をパクパクさせて固まり、会社の同僚の彼女達も口をあんぐりと開けて驚いた顔をして固まっている…



……もとい!

やっぱりフォローじゃなかった!!


フィリスは私をからかって、この状況を楽しんでるんだ〜っ!!!



「…あ〜!つまり、体だけの関係的な…?」


「お金払って来てもらってる彼氏さんですかね〜?」


「てか、彼氏のふりをしてもらうやつ!?」


正気に戻った彼女達が、次々と無遠慮な言葉をぶつけてくる。


それに対して、フィリスは急に冷たい目になって

「…何それ…?そんなことして何が楽しいわけ?本当発想が可哀想だね…」

と思い切り毒舌で返した。


うわーー!!

やめてー!これ以上、私の会社での立場を危うくしないで〜っ!!


よく見ると、退勤時間で、チラホラと私と同じ部署の同僚達が私達の揉め事を横目で見ながら通り過ぎていくのが見えた。


うっ…!

めちゃくちゃ目撃されとる…っ!!


フィリスは依然として私の身体を自分にぴったりとくっつけて、私を抱きしめたままだ…


よりにもよって、見せつけるように会社の前でいちゃいちゃするなんて、相当ヤバい…!!私のキャラでは断じてあり得ない…っ!!


明日からの皆んなの視線が怖い…

…さらば、私の平穏無事な会社勤め…


私は心の中で涙した…




「俺の方が一方的に彼女に惚れてるんだ…」

そう言って、私の髪をすくって、それを愛おしそうに指で撫でる。


「そんなまさか…!そんな人のどこがいいんですか!?」

「そうよ!可愛くないし、スタイルも良くないし、地味だし、着てる服もダサいし…!」

「無趣味で仕事しか脳がないしね〜!」


…おい!遂に言ったな!!

あんたら本人の前で失礼だろっ!!



フィリスはそんな彼女らを鼻で笑った。


「見た目ってそんなに大事…?」

「少なくとも俺には、あんた達の魅力がこれっぽっちも分からないないんだけど…」


あなたも言ったねーーっ!!

どうするよ、明日からの私の立場っ!!!


「……なにそれ…あり得ない……!!」

圧のあるイケメンに言われたとあって、咄嗟に返す言葉も出てこなかったようだ…


「も、もういいよ、行こう…!」

そう言って、フィリスに魅力がない宣言された彼女達はそそくさと帰って行ったのだった…



「…君は、マイラみたいなのに付きまとわれる傾向があるんだね…」

去っていく彼女達に冷たい視線を送りながら、フィリスは言った。


「そんなこと…っ!」

あるかもしれない…


「君は自分にもっと自信をもたないと…」


そう言って私の顎をクイっと上げた。


「…!!」


その瞬間、フィリスの手を振り払って、顔を両腕で隠した。


「!」


「……どうしたの…?」


突然の私の行動に、少し動揺したフィリスが声を発する…



「…わ、私…今さらですが、システィーナみたいに綺麗な顔をしてません…!スタイルも良くないですし…」

「だから…見ないでください…っ!!」


もうこれ以上フィリスを幻滅させたくない…!

そんな思いでいっぱいだった…



「…なんだ、そんなこと…」

フィリスが笑ったかと思えば、隠した両手首を掴まれて、両腕を外された。

そして再び現れた顔に啄むような長いキスをされた…


「……っ!!」

恥ずかしさに身体を捩るが、軽く手首を拘束されて、思うように力が入らない…


唇を離したフィリスは満足げに優しく微笑む。

「今言ったばっかりでしょ。見た目なんて関係ないよ…」


「俺達は魂で惹かれあって、今こうして再開できたんでしょ…?」


「そう…ですね…」


「でも……」


「…ん?」



「…フィリス様、こっちの世界でもカッコいい見た目でズルい…!」

ひなが恨めしそうに上目遣いで睨む…



「え?この見た目がカッコいいの?髪型とか変じゃない?とりあえず急いでたから、適当な相手を選んじゃったんだけどさ…」


「こっちの世界では、今はそういうのが流行ってるんです…!」

「へぇ〜そうなんだ〜」


フィリスは不思議そうに、パーマのかかった髪を指でいじって物珍しそうに眺める…



その様子を見て、私は急に実感が湧いてきた…


…本当にフィリス様が目の前にいるんだ…



幸せな気分に浸った後に、遅れて別の思考が働き出した…



「……てか、いま急いでたって言いました…!?」



「この世界にはあんまりいられないってことですか!?そもそもどうやってここまで来たんですか!?フィリス様はもうあちらの世界へ戻られちゃうんですか…!?」


「みんなは…んんっ!!」


「…うるさい…」

そう言ってまた強引にキスで口を塞がれる。


「〜〜〜っ!!!」


この短時間に3回も…っ!!!


今日のフィリス様は飛ばし過ぎだ…っ!!


心臓がどうにかなってしまいそうになる…!



「説明は後だよ!あっちの世界へ戻ったら、いくらでも説明してあげるから…!」


「…えっ!それじゃあ…!?」



フィリスは私を振り返り、手を差し出して微笑んだ…



「…帰ろう、俺達の世界へ…」




「……っ!!」

フィリスの言葉に、私の目からは涙が溢れた…








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