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第28話「目覚めるシスティーナ」

システィーナの部屋には、三人の王子とマーカスとマイラ、部屋の奥には三人の侍女が、そしてベッドには身じろぎもせずに寝ているシスティーナがいた…


システィーナが倒れて意識を失ってから、2日が経とうとしていた…


「医者に連日診ていただいておりますが、特に異常はないようで、目覚めない原因は全く分からないとのことでした…」

執事のマーカスが冷静に喋る。


「…そんな…!」

明らかに動揺した様子のリードベルが狼狽える…


エリオットも険しい表情でシスティーナを見つめている…



一人窓際を見ているフィリスが言う。

「…朝食に行く途中に階段から足を滑らせたんでしょ?全く人騒がせだよね…」


「なんだとっ!?」

リードベルがいきり立ち、フィリスの胸ぐらを掴む。


「そんな言い方はないだろ…っ!?」


「…そんな熱くならないでくれる…?怒ったって問題は解決しないでしょ…?」

フィリスが冷たい目を向ける。


「………くっ…!!」

リードベルが乱暴にフィリスから手を離す。


「フィリスの言う通り、少し冷静になって…気持ちはみんは同じ…」

エリオットも悲痛な表情で言う。


「………くっ…!」


「……その医者が原因が分からねぇって言うなら、他の医者を当たるまでだ…!」

リードベルは皆んなに背を向けたまま、部屋を後にした。


「…俺も図書室で本を調べてみる…」

そう言ってエリオットも出て行った。


バタン…

「………」


「フィリス様、私達もお部屋へ戻りましょう。システィーナ様のことは心配だけど、ここにいても埒があきませんわ…」


「そうだね…」

そう言って二人で部屋を出て行く。


最後、一人になったマーカスはシスティーナを見つめた。


「やれやれ…そんなに帰りたかったんですかね…」


侍女達に聞こえない声で呟いた…





ーーー



その夜、何者かがシスティーナの部屋を訪れた…



控えの間で寝ている侍女達に気付かれないように、足音を殺して、そっとシスティーナに近付いた。



「………」



システィーナの顔に手を触れ、顔を近付けてそっと唇にキスをした…



「…全く…」


「…本当…人騒がせなんだから…」


それは苦しげな表情で笑うフィリスだった…



フィリスは近くの椅子に座り、ポケットからハンカチに包まれていたチョーカーを取り出した。


昨日の夜、侍女達が自分にこれを届けてくれた時のことを思い返した…



ーーー



「…あの…フィリス様これなんですが…」


「……!」

「これは…」


「…これは、もしかしてフィリス様がシスティーナ様に贈られた物ではないですか…?」


「……うーん、どうだったかなぁ?」

フィリスは咄嗟に笑って誤魔化した。


「これは、倒れた時のシスティーナ様のポケットに入っていた物です…」


「でも、私達はこのようなアクセサリーは未だに見たことがありません…でも新品のようでもありませんでした。」


「………」


「…恐らくこれはシスティーナ様が、どなたかにプレゼントされた物をずっと肌身離さず持ち歩いていたためではないかと私達は考えました…」


「………」


「つまりその……システィーナ様はずっと……」



「………なるほどね…」


「一応預かっておくよ、ありがとう…」




ーーー




手元のチョーカーを見ると、ベルトの部分はほとんど使われた跡がないのに、所々に傷みがあった。

恐らく、持ち歩いている時に付いたものなのだろう…



フィリスはため息を吐いた…



「…なんで、好きでもない奴のチョーカーなんか、ずっと持ってるんだよ…」



そう言って、物言わぬ人形のように動かないシスティーナを見つめた…




その時、ギィ…と静かにドアが開いた。


「!!」

フィリスがドアの方に視線を向けると、そこにはリードベルが立っていた。


「……なんだよ……結局お前だって心配だったんじゃねぇか…」

リードベルは力なく話しかける…

その顔色はあまり良くない…



「…俺はたまたま眠れなかったから来ただけだよ…」


そう言ってフィリスは座っていた椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとする。


「…ひなは…システィーナは…多分、元の世界へ戻ったんだ…」


「!?」


「お前…何を言って…っ!」

振り返ったリードベルは真剣な顔をしていた…


「……元の世界……!?」



「…あいつは元々、この世界の人間じゃないんだ…」


「それがある時、何かの拍子でシスティーナとあいつ…たきかわ ひなが入れ替わったらしい…」



「……そんな…っ!」

「確かにシスティーナは、この屋敷に来てからは人が変わったように大人しくなってはいたけど…別の世界から来たなんて、発想が突飛すぎじゃない…?」


「…別に俺が考えたわけじゃない…」


「俺は一度幼い頃のひなに出会っていて、ひな自身からその話を聞かされたんだ…それがなんの因果か、また元の世界へ戻っていっちまったみてぇだ…」


「……そんなバカな…っ!」



「あいつはこうなることを恐れて、お前の気持ちにも応えてやることができなかったんだ…」


「自分はいつまでこの世界にいられるか分からないから恋愛する資格はないって…」


「……っ!」



「…最初は恋人を作ることに夢中だったみてぇだが、お前とのことで、真剣に未来を考えるようになって、そこでようやく気付いたんだとよ…本当にしょうがねぇ女だよなぁ…?」


リードベルはシスティーナを見つめて優しい笑みを浮かべた。


「………そんな……っ」



「…でも、お前との恋はもう終わった。ひなは俺がもらう。」

リードベルは再びフィリスに向き直って言った。



「あいつは俺にとって大事な女なんだ…どんな手を使ってでも必ず連れ戻す…っ!!」

その目は本気だった。



「………っ!」


俄には信じ難い話をされて、動揺が隠せないフィリスだったが、リードベルがあまりに真剣な表情で見つめるので、それが事実なのだと肌で感じた…




ーーー



それからというもの、リードベルは医者という医者を探し回り、エリオットは図書館でひたすら関係のありそうな書類を調べた。

フィリスはシスティーナのそばを片時も離れずに寝ずの番をした…




ーーー


4日目の夜。

フィリスは眠っているシスティーナに再びキスをした。

「…こうやって目覚めてくれれば楽なのにね…」


「あの舞踏会の時は、すぐに目覚めたくせに…」

そう言って悲しげに笑った。


…あの舞踏会の夜、システィーナが眠っている間にキスをしたのはフィリスだったのだ…



「…こんなことになるんだったら、あの時俺の気持ちを受け入れてくれればよかったのに…」


「…それとも、こうなるのが最初から決められた運命だとでもいうのかな…?」


システィーナに話しかけるが、その問いは誰も答えることなく闇夜に消えていった…




ーーー



システィーナが倒れてから5日目の朝。

遂にシスティーナが目覚めた…



システィーナの脇で打っ臥して眠っていたフィリスが、朝日の光で目覚め、呆然とシスティーナの顔を見つめていると、不意にシスティーナのまつ毛が動いた。


「!!」


「ん……」


「システィーナっ!!」


フィリスが立ち上がって叫んだ。



「システィーナ!僕だよ!分かる!?」

肩を掴んで必死に声をかける。



「フィリス様…?」


「……システィーナ……!!」



「まあ…!ようやくこの世界に帰ってこられたのね!!」


「当然よね!あっちは執事も侍女もいなくて大変だったわ!侍女!侍女は誰かいないの!?喉が渇いたわ!あとマッサージもしてちょうだい!身体が重いわ!」


「……!?」

目覚めたシスティーナは、以前の彼女とはまるで違う人格のようだった…

フィリスは突然の彼女の変わりように驚愕した…



「フィリス様!ご機嫌麗しゅう!今日も素敵なご尊顔ですわぁ…一緒にお茶でも飲みませんこと!?」

システィーナはフィリスを見て顔を赤らめた。


「………っ!」

フィリスは返す言葉もなく、唖然として椅子に座り込んだ…



システィーナの声に侍女達が慌てて駆け付け、一人がマーカスを呼びに行った。

侍女達もすぐにシスティーナの態度の変化に気付き、戸惑いを隠せない様子だった。


「何このダサい寝間着は!?もっと派手な柄なものはないの!?」

「ドレスはたくさんあるんでしょうね!?なかったらたくさん揃えなさいっ!何せ私は将来王妃になる人間なんですからね!」

ふんぞり返って侍女達に命令するシスティーナにもはや、ひなと呼ばれる前の彼女の面影はなかった…


「…なんて酷い結末だ…」

フィリスは悲しげな顔で呟いた。



その時、侍女に呼ばれたマーカスがやってきた。


「まあ、マーカス!しばらくぶりね!早速だけど、ドレスと寝間着の注文をお願いしたいわ!大量にね!この屋敷の侍女達は仕事ができないようだから…!」

そう言って吊り目の目を更に吊り上げて侍女達を睨んだ。



「…これはこれはシスティーナ様、お早いお帰りでしたね…」


フィリスは、システィーナの変わりように眉一つ動かさずに対応するマーカスを見て目を丸くした。



「全然早くないわよ!!あっちにはドレスもないし!部屋に使用人は一人もいなかったのよ!家は狭いし!訳の分からない物で溢れていたし!ようやく使用人が来たかと思えば、連れて行かれた所も狭かったし!」


「そうですか、そうですか…、それは大変でしたね。最後はあちらの世界でお倒れになったのですか…?」


「違うわ!“けんさ”とか何とかっていうので、突然使用人達に取り押さえられて、突然腕を針で刺されたのよ…!!」


「…なるほど…鎮静剤か麻酔で意図的に眠らされたのですね…」

マーカスが納得したように独りごつ。

「!!」



「……マーカスも…知っているの……!?」

フィリスが青い顔のまま尋ねる。


「…はて?何のことでしょう?」

マーカスは涼しい顔をして笑いかけた。



「たきかわ ひなのことを、知っているの…?」


「…おや、リードベル様に聞いたんですね…」

そう言って笑う。


「!!」


「システィーナは…ひなは…まだ生きてるの…?」


「………」


「この世界にはいないでしょうが、恐らく生きてると思われます…」



「…もう戻って来ないの…?」

フィリスは震える声で尋ねる。



「…当初彼女は、マイラ様同様ループする予定でしたからね、いなくなったのは、彼女の魂がそれを望んだからかも知れません…」



「彼女の魂が……!?」

フィリスは不可解な言葉に眉に皺を寄せる。



マーカスは青ざめるフィリスを横目に見て表情を和らげる。



「………会いたいですか?本物の滝川ひなに。」



マーカスが意味ありげに笑いかける。



「………っ!?」










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