第25話「リードベルとの街歩きデートとエリオットの提案」
今日は前回リードベルと訪れて以来の街歩きだった。
相変わらず人の往来も多く、様々な商人達で賑わっている。
「今日は夜までゆっくりしていくぞ。マーカスの許可は取ってある。」
「………」
あの時と変わらず、私の手をしっかり握ったまま歩くリードベル。
「まずは朝食だな、いい店があるんだ。」
今日はリードベルが公務を休んで朝から出かけたので、まだ朝食も食べてない。
食事でフィリスと顔を合わせなくてよかったのは、せめてもの救いだ。
着いたのは、庶民が出入りしている店だった。
リードベルはそこで買い慣れた様子で、パニーニのような物と飲み物を注文してくれた。
「よし、行くぞ。」
注文した物を持ってリードベルが歩き出した。
「…え、あの、食べながら歩くの…?」
王子様がはしたないのでは…?と思った。
「…なんだ?食べ歩きもお前が俺に教えたんだぞ?お前の世界では普通らしいじゃないか。」
「……物によりますけどね……」
…私そんなことを未来の王子に教えてたんだ…
余計なことしたなとちょっと後悔する。
「……まあ、公爵令嬢のお前が気にするのならば止めよう。」
「こっちに来い。」
そう言って小馬鹿にしたように笑いながら私の手を引く。
街を少し外れると小高い丘があった。
そこに大きくて平らな岩があり、そこに座るように促された。
「尻に敷くハンカチは必要か?」
尻って…!言い方!!
「……結構です。」
「ふっ…そうか。」
そう言ってすぐに隣にドカッと座る。
…てか、出す素振り一切なかったじゃん。
その丘からは、街の様子が見えた。
見下ろした場所は緑の木々に囲まれていて、とても居心地がいい。
「…この街に詳しいんですね。」
「まあな。王子になってから、何かと理由を付けて街をウロウロしてるうちに詳しくなった。」
「ウロウロって…昔から不真面目な王子だったんですね…」
「庶民の暮らしを知ることは王子として大切なことだろ?」
「…屁理屈王子…」
「じゃじゃ馬令嬢に言われたくない。」
リードベルとの会話はともかく、丘の上で食べたパニーニもどきは出来立ての熱々で絶品だった。
チーズや生ハムや新鮮な野菜やトマトなどが入っていて、胃袋がじんわり温まるのを感じた。
飲み物はエールと呼ばれるビールの一種だった。
庶民は水の代わりにこのエールを食事で飲んだりするらしい。
飲むとビールよりもややフルーティーな感じがした。
思えば、お酒もマーカスにワインを飲まされて以来飲んでいなかった。
私は久々のお酒を一気飲みした。
「ははっ!いい飲みっぷりだな!そうこなくっちゃな!」
リードベルが嬉しそうに自分も一気飲みする。
「………」
コイツ酒好きそうだな…
体育会系的なノリで、兵士達と酒盛りとかしてそうだ…
「よし!今度は買い物に行くぞ!お前が欲しがる物を何でも買ってやる!」
そう言って、すくっと立ち上がった。
「何が欲しい?」
私を振り返って尋ねる。
「…だから、何もないって…」
「よし!じゃあ探しに行くぞ!」
「…話聞いてる?」
私の言葉など気にせずに、再び腕を掴んでまた街へと歩き出した。
ーーー
街では露天商を見て、リュバーブのジャムを買い、庶民向けの繊細なビーズのアクセサリーや可愛い色のキャンドルなどを、リードベルが適当に見繕って買っていった。
「……あの、私何もいらないんだけど…」
「お前が何もいらねーって言うんだから、しょうがなく俺が代わりに選んでやってるんだろ?」
「いや、だからそれなら買わなくていいじゃん…」
「だったら欲しい物を何か選べよ!」
「………」
「……じゃあ……マイラと同じ水色のドレス……」
「!」
「……お前……」
「引きずるなーー!!」
「うるさいっ!!」
「わかった、わかった、お前には真っ赤なドレスをもう1着買ってやるからな!」
「…買ったら雑巾にするからね!」
「おお、おお、怖い公爵令嬢だな!」
「どうせ今度の舞踏会も俺とお前がペアになるんだ。今頃お前の侍女やマーカスがまた赤いドレスでも注文してるんじゃねーのか?」
「え…っ!?」
「また舞踏会があるの…!?」
「ああ…1ヶ月半後にな。」
「お前がいつまでもそんなんだから、さすがのマーカスも言えなかったんだろうよ。」
「…私フィリスと踊らなきゃダメなのかな…?」
「それがお前の仕事だからな。」
「契約したのがお前じゃない前のシスティーナだったとしても、これは王命に近い契約だ。今さら約束を違えることは許されない…」
「………っ」
「…早く忘れることだな…」
「…うっ…」
「まあいい。」
「!」
リードベルがそう言いながら、ふと酒屋の前で立ち止まった。
「いつまでも不幸な顔ぶら下げてねーで、今日はたらふく飲んで嫌なこと全部忘れるぞ!」
…まだ昼間だったが、私はいつかのように有無を言わさず肩を抱かれて店に連行された…
ーーー
2時間後。
「うぅっ…フィリス様ぁ〜っ!!」
私は完全に酔っ払って泣き出していた。
「……お前…めんどくさっ!!」
「あによー!うるさい!バカリードベル!!」
「もう〜!昨日なんであんな時間までマイラと一緒にいたのよー!!二人で何してたのよー!!」
「そんなの決まってだろ…」
「うるさいわねっ!!そんなこと聞いてないの!!」
「………」
呆れてドン引きしているリードベルを他所に、私はグダグダと喋り続ける。
「せっかくフィリス様が好きだって言ってくれたのに…!すごく嬉しかったのに応えられなかった…」
「はあ…お前も好きだったなら、そう言やよかっただろ。」
「だって…私なんていつまたこの世界からいなくなるか分からない存在なんだよ…?そんな適当な返事なんてできないよ…」
その瞬間、強い力で腕を掴まれた。
「!?」
「……そんなこと…させるかよ…!」
リードベルが目を見開いてこっちを見た。
「……!!」
「い…痛いんだけど…っ!?」
「………」
リードベルがムスッとした顔で、腕を離す。
そのまま腕を組んでそっぽ向く。
「……お前この前まで、恋人作るって息巻いてたじゃねーか…」
「…それは…先のことを何も考えてなかっただけで…リアルに将来を考えてみたら、無理だなって気付いたの…」
「はっ…バカだな…」
ムカッ!
「あんたねー!この前から私のことバカバカ言い過ぎじゃない!?」
「だってバカだろ?」
「俺だったら、住む世界が違かろうと何だろうと、好きならば何があっても添い遂げてみせる…!」
「……!!」
「…で、でも…あの時みたいに、急にいなくなっちゃうかもしれないんだよ…?」
「そしたら追いかける!」
「…っ!!」
「…そんなの無理だって…」
「…そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ…!?」
リードベルは真剣に私を見つめる。
「…そんなこと…」
…もしできるなら、私だってそうしたい…
…でもそんなこと、限りなく不可能だとも思う…
「……俺にしとけよ。」
「!?」
「…俺なら、お前がどこに行ったって必ず見つけ出してやる。お前が元の世界へ帰るなら、俺もついて行って必ずお前を見つけ出す!」
「俺がお前を幸せにしてやる!」
「……!!」
「…なんで、あんたがそんなこと言うのよ…っ!!」
「言っただろ…俺はお前をずっと待っていたって…」
「俺はシスティーナじゃなく、“たきかわ ひな”が好きなんだ…」
「……っ!!」
「お前に助けられたあの日から、俺はお前に一生を捧げることを誓った…」
「…別に捧げなくていいし…!!」
「もう決めたことだ」
そう言って悪戯げに舌を出す。
「…何よあんた…!ずっと嫌な奴だったのに、今さら急にカッコつけちゃってさ…っ!!」
「だから、今日はその詫びだって言ってるだろ!?」
「…もっとも、ここでお前を口説くつもりはサラサラなかったんだがな…」
「くど…っ!?//////」
「…まあ、いい加減フィリスを忘れたくなったら、俺んとこに来いよ。」
片肘を付いて、口の端を上げるリードベルが珍しくカッコよく見えて、おもわずときめいてしまう…
……ムカつく奴だけど、コイツが言うと全部実現できるような気がするから不思議だ…
これが主人公パワーってやつなんだろうか…
……私もフィリスにそう言えばよかったのかな……
諦めずに違う伝え方をしていれば、今も変わらずに二人で笑っていられたのかな…?
「………」
私はリードベルとたわいも無い会話を続けながらも、今さら考えてもしょうがないことをグルグルと考え続けた…
ーーー
「じゃあな、ひな…」
…結局あの後、店に3時間ほど居座り、また別の店をはしごして、屋敷に戻ったのは22時過ぎだった…
フラフラした足取りでリードベルに連れられ、部屋へ送られる。
彼は私をシスティーナではなく、ひなと呼んだ…
「ここでひなって呼ばないで!皆んなに怪しまれるでしょっ!!」
「バッ!お前こそこんな時間に声でけーよっ!!」
「あー!またバカって言った!!」
「いや、バッしか言ってない。」
「同じだしっ!!んがっ!」
リードベルに無理矢理手で口を塞がれる。
「うるせーっての。」
「〜〜っ!!」
「…じゃあな、今日はちゃんと寝るんだぞ。」
そう言って自分の部屋へ戻っていく。
私は自分の部屋のドアを開けようとして、ふと隣のフィリスの部屋を見る。
「………」
“俺だったら、住む世界が違かろうと何だろうと、好きならば何があっても添い遂げてみせる…!”
……私が後先考えないで、フィリスの気持ちを受け止められていたら、何か変わったのかな…?
…でももう遅いよね…
…フィリスはきっともう私のことは好きじゃないから…
…フィリスは、マイラのことが好きになったから……
…そう思ったら、別に何も先々のことまで考える必要なんてなかったのかなと思った…
…こんなに早く心変わりできる恋だったのなら、結局すぐに終わっていたのかもしれない…
…それなら、結果的にフィリスと恋愛しなくてよかったということになる…
…私の元々の目的は、普通の相手と普通に恋愛することだったんだから…
いつの間にかフィリスの部屋の前に立っていた私だったが、そのドアには触れることなく、また自分の部屋へと戻っていった。
バタンッ
「………」
ーーー
翌朝。
「うううぅ……」
「き、気持ち悪い……」
私は例によって、二日酔いになっていた…
そのまま朝食も昼食もボイコットして寝込み、午後になってようやく体調が回復してきた。
……ああ、本当にしんどかった…
もう二度と酒は飲まないわ…!
二日酔いのたびに誓う断固たる誓いを再び立てて、私はゆっくりと起き出す。
夕食までまだ時間があったので、中庭を散歩した。
夏に向けて徐々に気温が高い日が増えてきた。
私はルルに会いに、ガゼボがある方の中庭へ歩いて行った。
そこには、ルルと戯れるエリオットがいた。
「エリオット様…!」
「…!あんた…大丈夫?」
「リードベルに二日酔いって聞いたけど…」
「…はい、だいぶ良くなりました!お腹も空いてきたので、早く夕食が食べたいです!」
そう言って笑いながら隣にしゃがむと、エリオットが驚いたように私の顔を見た。
「……?」
「……少し元気になったようで、よかった…」
そう言って間近で微笑む。
「!!」
相変わらず、少し跳ねた前髪から覗かせる長いまつ毛と赤い目がとても綺麗だ…
「えへへ…ありがとうございます、そんな風にエリオット様に心配していただけて、私は幸せです…」
本当、あなたの顔をすべてスチルで保存できたらいいのに…
私の推しメンは今日もカッコよかった…
この世界にいられる間にエリオットの全てを記憶しようと、じっと見つめていたら、不意にエリオットに頭を撫でられた。
「…笑ってるお前、可愛い…」
「!!!!」
えっ…
えっ……
えーーーーっ!!!
い、いま、エリオット様なんて……っ!!
てか、頭…!いま頭撫でられた……!!?
嘘でしょ……!?きゃ〜〜〜っ!!!
私はあまりのことに脳内がショートして、そのまま後ろに尻もちをついた。
「クス…顔真っ赤」
「っ!!!」
微笑むエリオット様の顔が尊すぎて、心臓のドキドキが止まらない…
「…今度の舞踏会、俺も出ようかな…?」
「!?」
「…お前と踊るの、ちょっと楽しそうだ…」
「!?!?!?」
エリオットがこちらを見て笑う。
信じられない展開で、腰が抜けそうだ…
「俺ともダンスの練習してくれる…?」
「!!」
「します!やります!やらせてくださいっ!!」
舞い上がる気持ちを抑えて、私は一も二もなく頷いた。
「クス…じゃあマーカスに聞いてみる。」
そう笑って私とルルの頭を撫でたら、立ち上がってその場から去って行った。
なっ…
なっ……
なんということなの……っ!!!
エリオット様に頭ポンポンってされちゃったあーーー!!!
私はその場で叫び出したい衝動を必死に抑えた。
あ〜!やばい!!死んじゃう!!キュン死にしちゃうっ!!!
これ保存しておきたかった〜〜〜っ!!!
生エリオット様カッコよかったよおーーーーっ!!!
私は芝生に寝転がって息も絶え絶えに悶えた。
ルルがその周りを楽しそうに跳ね回っていた。
ーーー
晩餐室にて。
エリオットから話を聞いたらしいマーカスは、夕食時に嬉々として明日から早速またパウルに来てもらうことになったことを話した。
「ふふ…いい仕事しましたね、システィーナ様。」
そう言ってマーカスがニッコリと微笑む。
仕事って…!!
私は何もしてないけど…
エリオットが舞踏会に出るのがよっぽど嬉しいらしい。
リードベルもマーカスの話を聞いて、目を丸くして驚いているようだった。
「明日からエリオット様とシスティーナ様にはダンスレッスンを行っていただきますが、他の皆様はどうされますか?」
「あー俺も行ける時は顔出すかな?」
そう言うリードベル。
「僕はパス」
顔を上げずに言うフィリス。
涼しげなその顔を見るだけで、まだズキリと胸が痛む。
「わ、私も…フィリス様が行かないのなら…やめておきます。」
「承知いたしました。それでは御三方、明日はよろしくお願いしますね。」
そう言って深い笑みを見せた。
私は敢えてフィリスのことは考えないようにして、エリオットに気持ちを集中させた。
……エリオット様とのダンス…緊張しちゃうな…
絶対絶対、足踏まないようにしよう…っ!!
ああ、すごく緊張する…っ!!
……でもすごく楽しみ…っ!!
その日は久々に夕食を完食した。
ーーー
「よお…」
夕食の帰り、後ろからリードベルに声をかけられた。
「随分元気になったみてーじゃねーか」
「あったり前じゃん!!」
拳を上げて、強気に笑ってみせる。
「ふん…」
そう言って笑うリードベルが、突然内緒話をするように私の首に手を回して、顔を近付けて小声で話し出した。
「エリオットが舞踏会に参加するなんて、前代未聞のことだぞ!お前が誘ったのか…!?」
「違うよ…エリオット様が自分から言ったの!」
「……!信じらんねぇ…!」
リードベルが唖然として言った。
あのマーカスの反応と言い、エリオットが舞踏会に参加するというのはよっぽどのことらしい…
でもなんでまた急に…?
「…まさかエリオットのやつ、ひなに惚れたんじゃないだろうなあ?」
間近でニヤリと笑って私を見る。
「バカッ!そんなことあるわけないでしょう!!」
「てか、その名前で呼ぶなっつーの!!」
階段の下でコソコソと騒いでいたら、不意にフィリスがマイラと腕を組んで後ろを通り過ぎて行った。
おもわず振り向くと、一瞬だけフィリスと目が合った。
フィリスはすぐさま目を逸らして、何事もなかったかのようにマイラと階段を上がって行ってしまった。
再びズキンと胸が痛んだ。
「………」
私たちは沈黙して彼らの後ろ姿を静かに見守った。
「……今の聞かれてないよね……?」
「大丈夫だろ。」
「…もう!本当適当なんだからっ!!」
「それよりも、明日は念願のエリオット様とのダンスレッスンだな。」
「うん、そうなの!もう超楽しみ〜♡」
「……現金なやつ」
「うるさいっ!!」
私はリードベルの腕を振り払った。
「…そうやって、忘れていけばいい…」
「え?何か言った??」
「…いいや、何でもない…」
そう言ってリードベルは、システィーナをエスコートするように強く手を握った。
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