第22話「波乱の舞踏会(後編)〜リードベルとマイラの衝撃〜」
私とフィリスは手を取り合いながらダンスフロアへ戻ってきた。
フィリスを待っていたらしい貴族令嬢達が目を輝かせてフィリスを見る。
だけど、私が一緒にいるので、話しかけられないでいる。
私はそんな女性達からのもの凄い圧を感じて
「あの…フィリス様…」
と他の女性と踊ることを提案しようとすると、
「今日は夜まで一緒って言ったよね…?」
と甘い声で尋ねる。
「…!!」
金髪碧眼の超絶美男子にそんなこと言われたら、何も言い返せなくなる…
…どうして、こんなに人気のある人が私のことを好きだなんて言うんだろう…
不思議で不思議でしょうがなかった…
ーーー
「やあ。」
フィリスがシスティーナをエスコートしながら、リードベルとマイラに近付く。
「おぅ、ようやく戻ったか。どこ行ってたんだよ。」
「誰もいない所でシスティーナに、君にされたキスの上書きをしていたんだよ。」
「!!?」
ととと突然何を言い出すの!?この人は…っ!!?
めちゃくちゃ爽やかに笑ってるけど、微かにどす黒いオーラが見える。
リードベルのこと、しっかり根にもっていらっしゃったのね…!!
「はあ!?嘘だろ?夜会中にお前たち何してたんだよ!?」
そう言って疑わしげにシスティーナを見るが、私も否定したいけどできない部分もあり、ぎこちなく顔を前後左右にカクカクと動かす。
「………信じらんねぇ…」
リードベルが軽蔑するような目でこっちを見ている。
…なによ…
そう思いつつも、どこか後ろめたいような気持ちで、リードベルを直視できないのが悔しい…
「さあ、スッキリしたところで、ダンスを踊りに行こうか…♪」
「今日は朝まで離さないからね♡」
リードベルに対してマウントをとっているのか、やたら大きな声で意味ありげに言うので、こちらがたじろいでしまう。
「………」
リードベルの謎の視線が刺さるが、気付かないフリをしてダンスフロアへ歩き出す。
その後ろ姿をマイラが密かに睨み付けていた。
「……あの女…もうフィリスと…許せない……っ!!」
ーーー
フィリスがダンスフロアへ来ただけで、皆んなの注目の的になる。
周りにいた人達が少しよけてくれて、中央でファーストダンス並みに注目を浴びる。
うぅ…これだから、超絶美形のカリスマアイドル王子は…っ!!
フィリスは慣れているようで、周りを一切気にせずに私だけを見つめている。
「…君と踊るのも久々だね…」
そう言って爽やかな王子様スマイルを見せる。
…わゎ…っ!目が潰れる…っ!!
フィリスが優しく私の手を握り、腰を引き寄せると、流れる水のように華麗に舞い始めた。
私はフィリスにただ身を任せればよかった。
やっぱりこの人とのダンスは心地いい…
踊ると首のチョーカーの宝石が揺れる。
「そのチョーカーも似合ってるよ。」
「次は水色のドレスを送るね。」
「えっ!?」
私これ以上ペアルックは…
「…なに?僕とのお揃いは嫌ってこと?妬いちゃうんだけど…」
フィリスが私の顔を覗き込む。
「…というか、もう舞踏会では誰とも同じ色のドレスは着ません…っ!」
こんな生き恥はもうごめんだ…っ!!
「え〜残念〜!」
フィリスがクスクスと笑った。
ーーー
ダンスを終えて戻ったところにマーカスが待っていた。
「これはこれはシスティーナ様、無事に元気になられたようで、よかったです。」
マーカスが相変わらず意味ありげな笑みを浮かべる。
そして徐にフィリスの方を向いて言う。
「フィリス様、ご公務です。王妃様がお呼びですよ。」
「…あ〜今日はシスティーナを片時も離さないって決めたところだったんだけど…」
「残念でしたね…」
マーカスが至極残念そうな表情を作って言う。有無を言わさない態度だ。
「はあ…」
「システィーナ、僕が戻るまで少しだけ待っててね。他の男と踊ったらダメだからね?」
「え、えっと…」
「システィーナ様には、最低でもあと3回はリードベル様と踊っていただかないと…」
「でないと、せっかくあんなに練習した甲斐がありませんから…」
マーカスが淡い笑みをフィリスに向ける。
……ですよね〜〜っ!!
マーカスの促すままにフィリスは去って行き、私とリードベルはまた真っ赤な衣装ペアでダンスフロアに戻される…
嗚呼、生き恥人生…
そうして、また周りに注目されながらリードベルと中央で二曲目を踊り始める。
こうして比べると、面白いほど二人のダンスが違うのが分かる…
リードベルはやはり力強く直情的で、コーヒーカップのように勢いのあるリードでクルクルと回される感じだ。
「ふっ…」
踊ってる途中にリードベルが不意に笑う。
「?」
「急に随分と上手く踊れるようになったじゃないか。憑き物でもとれたようだな…?」
意地悪げな顔で笑う。
「3回目のキスの効果か…?」
「なっ!!」
顔が真っ赤になる。
おもわずまたリードベルの足を踏む。
「…いてぇな」
「あ、あんたが突然変なこと言うからでしょっ!!」
「……お前もフィリスが好きだったのか……?」
「へっ!?」
心臓が飛び上がって、今度はリードベルの足に躓きそうになる。
「おっと!」
咄嗟にリードベルが抱き止めて支えた。
そのまま身体を密着させてチークダンスのように踊る。
「!!」
なにこの恥ずかしい体勢は!!
ほぼ抱き合ってるじゃんっ!!
「ちょっと何これ…っ!!」
「恥かきたくなかったら、そのままじっとしてろ…」
私の耳元で低い声で囁く。
「……っ!!」
どうやら、リードベルは私が転んでしまったフォローをしてくれてるようだ。
幸い曲もそんなアップテンポな曲ではなかったので、こんな踊り方をしてもあまり浮かない。
…というか、ど真ん中で踊ってるので、ある意味全体のアクセントになっている…
「…私こんなダンスやったことないんだけど…っ!」
私は小声で叫ぶ。
「ふっ…だろうな…」
「……何よ、余裕かまして!あんた結構女慣れしてるんじゃん!」
私にあっさりキスしたことといい、思ったよりも全然奥手ではなさそうだ。
「ふっ…そうかもな。」
リードベルが得意げに笑う。
身体が密着しているので表情は見えないが…
……なんか悔しいな。
仲間だと思ってたのに先越された気がする……
どうにかコイツをギャフンと言わせてやりたい……
私は頭をフル回転させた。
「………」
私は不意に、リードベルに触れていた手を両方ともリードベルの首に巻き付けた。
「!!」
少し距離ができて、驚くリードベルの顔が真正面から見えた。
フフ…動揺してる…!ざまあみなさいっ!!
私が密かにほくそ笑んでいると、今度はリードベルが両腕を私の腰に回して、身体を私の方に倒してきた。
「…っ!!」
私は倒れないように、咄嗟にリードベルに巻き付けた両腕に力を入れる。
私のそんな慌てた様子を見て、今度はリードベルがほくそ笑んだ。
「……!!」
コイツやり返してきやがった!
体勢が戻ると、目の前のリードベルを見上げるようにして睨む。
リードベルが私にキスしそうなくらいに顔を近付けて言った。
「まだまだだな…」
くぅ…っ!!
リードベルのくせに〜〜!悔しい〜〜〜っ!!!
私達の険悪なムードのダンスを、周りの貴族達は微笑ましく眺めていた。
外からだと、顔を近付けて何かを囁き合いながら抱き合っているカップルのように見えたのかもしれない…
……ペアルックだしね……
すんごい誤解だけどね…
ーーー
永遠のように感じられたチークダンスも無事終了し、私はリードベルをおいて、逃げるようにその場を去った。
「おいっ!」
リードベルが追いかけてくるが、構わず人混みを駆け抜けて逃げる。
ああ、恥ずかしかったっ!!
もうエスコートとかいらないんで!大丈夫なんで!!
「はあ…」
とりあえず踊ったり走ったり泣いたりして喉が渇いたから、水分補給をしようと軽食が置いてあるスペースに移動すると、不意に誰かがぶつかってきた。
ドンッ!!
パシャッ!
「いたっ!」
「きゃああっ!!」
パリンッ!
一際大きい声で叫んだのは、もしかしなくてもマイラだった…
今のでマイラが持っていた赤いワインがマイラのドレスにかかってしまった。
そしてわざとらしくワイングラスを落として割り、その場に倒れてみせた。
「シ…システィーナ様、申し訳ありません……っ!!」
マイラが私を見て、目をウルウルさせている。
……ん……!?
もしかしてこれ、私がやったていになってる…っ!?
眉を顰める周囲の目……
……うん!私がやったことになってるね☆
またかこの女は…っ!!!
私はおもわずマイラを睨み付けるが、マイラは私に怯えたような顔をして震えてみせる。
くぅーーーっ!!この演技力の高さよっ!!
あざと系女子って本当タチ悪いわ!!
もういい加減にしてくれよっ!!!
そこへリードベルが追い付いてきた。
「…お前一人で勝手に……っ!」
「!?」
倒れているマイラに気付いて、私とマイラを交互に見る。
「……これはお前が……」
「やりました。」
「!!」
「……そう言えば、あなたは信じるんでしょ……?」
私は静かに嘲笑った。
「………」
リードベルは眉に皺を寄せたまま何も言わない…
ふんだ!別にいいやい!!
今更お前なんかに何を言われようと傷付かんわっ!!
クルッとマイラを振り返る。
「私はあなたにぶつかられただけだけど、大丈夫だったかしら?ドレスも汚れてしまって残念だったわね。」
私はデフォルトな悪役令嬢のように優雅に微笑んだ。
…だって、これ以外に言いようがなかったし…
私は近くの侍従にタオルをお願いすると、後をリードベルに託してすぐにその場を去った。
後ろでマイラがリードベルに抱きついて、大きな声で泣くのが聞こえた。
やれやれ…
あれでは、周りの貴族達も私がやったと信じるに違いない…
「……めんどくさ……!」
私は盛大にため息をついて、中庭へと一人歩いて行った。
人気のない方へ進んでいき、奥の方に置いてあったベンチにドサッと座る。
「ふんっ!」
いいもん…
もう嫌われるのは慣れっこだもん…
きっとフィリス様は信じてくれるはず…
とりあえず今はそれで良しとしよう…
…それでも大勢の人に非難を向けられるのは、それなりに堪える…
はぁ…
深呼吸して星空を見上げた。
今日は天気も良くて、星が綺麗だ。
春の夜風も私を慰めるように優しく頬を撫でていく。
思えば遠くにきたものだ…
前の世界で春の夜風を感じるのは、会社の駐車場から車に乗り込むまでの数分間だけだった。
年度始めはいつも忙しくて、こんな風に星を見ることなく毎日忙しなく生きていた…
時間を気にせず好きなだけ寝られたらどんなに幸せかと思いながら毎日過ごしていた…
おしゃれを楽しむこともなく、貴重な休日は泥のように寝て、夜は買い込んだスナック菓子を食べながら乙女ゲームに没頭する自堕落な時間を過ごしていた。
あれはあれで至福の時間だったけど…
将来に不安を感じながらも、いつかは乙女ゲームの世界の人達みたいな素敵な人と恋をするのが夢だった…
そんな風に夢見ていた世界にいま来ている…
信じられないけど…
…でも…
不思議と前からこの世界を知っていたような不思議な感覚があった。
これは、システィーナの記憶が織り混ざっているせいなのかしら…?
静かに目を瞑ると、脳裏に黒髪の小さな男の子が浮かび上がった…
あの子を私は知っている…
誰だっけ……
目付きが鋭くて、いつも怒ってて…
でも本当は優しくて…
あの子は…
確か…
ーーー
「おい!」
聞き慣れた乱暴な声に目を開けた。
「……リードベル様……」
「お前…さっきの…」
「……私は子どもの頃にリードベル様と出会っていたんですね…?」
「!!」
リードベルが目を見開いた。
「……思い出したのか……?」
「幼い頃のあなたの姿を少しだけ…まだ朧げですが…」
「……そうか……」
リードベルは無言で私の目の前に立ち尽くした。
「あの…どうして私達は出会ったのでしょうか…?」
「……思い出せないのなら、知る必要はない……」
「……?」
一体どうしたというのだろうか…?
どこで出会ったのかくらい教えてくれてもいいだろうに…
自分でも自分の記憶を探ってみるが、その部分だけは靄がかかったように思い出せない…
「………」
リードベルが無言で私を見つめる…
「…なに…?」
なんだか居心地が悪くておもわず聞き返す。
「……ひな」
「!!!!」
ドキンッと心臓が飛び跳ねた。
…それは、前の世界の私の名前だった…
私は驚愕の色を隠せないまま、目を見開いてリードベルを見返した…
リードベルは私を探るように見ている。
息をするのを忘れてしまいそうだ…
「お前の名前は、たきかわ ひな。」
「っ!!!!」
言い知れぬ恐怖に全身が粟立った。
どうしてリードベルが、私の前の世界の名前を…っ!!?
全身に嫌な汗が滲んできた…
私の反応を見たリードベルが、口の端を上げた。
「ふっ…やはりあの時の奴か…」
「…っ!!?」
リードベルの言っている意味が分からなくて、全身が緊張した。
…コイツは私の知らない何かを知っている…っ!!
「…そんなに警戒するな。取って食いはしない…」
そう言いつつも、右手で私の顎に触れて顔を上げた。
「……っ」
そして不意に切なげな表情で言った。
「……俺はお前を待っていた…ずっと…」
「……っ!!」
心臓がドクドクと痛いくらいに激しく胸を叩く…
「な、何を言って…!」
「わ、私は、システィーナよ!それ以上でもそれ以外でもないわ…っ!」
震える声で必死に否定する。
それを無言で見つめるリードベル。
「そうだな…」
今にもキスされそうなくらいに顔を間近に近付けられて、おもわずドキッとする。
…えっ…!?
…まさか、またキスしたりしないよね…!?
なんて内心警戒していたら、徐に私の両頬を両手でびよーんと引っ張り始めた。
「ふがっ!」
「な…っ!な…っ!」
「何すんのよーーっ!!!」
おもわず思い切りリードベルの腰に蹴りを入れた。
「いてぇなぁ…何すんだよ。」
「いや、それこっちのセリフだしっ!!」
「淑女に何するのよっ!!」
「すまんな、淑女がどこにいるのか分からなかった。ここにはじゃじゃ馬しかいないもんでな。」
リードベルがニヤリと笑う。
くっっそ、ムカつくっ!!!
私が赤い顔で拳を振り上げると、リードベルが手を差し出した。
「…さあ、お美しい淑女様、そろそろダンスフロアへ戻りましょうか…」
それはまるで絵本の世界の王子様のような美しい所作だった。
…くっ…リードベルのくせに…
淑女と言われたらしょうがない…
私は渋々振り上げた拳を下ろして、差し出された手に自分の手を乗せた。
一旦先ほどのことは忘れて、舞踏会に集中することにした。
何せリードベルとのダンスノルマがあと2回も残っているのだから…
システィーナは苦笑いした。
ダンスフロアへ戻ると、私への様々な視線が飛び交った。
既に先ほどのマイラとの出来事は広まっているようだ…
私はため息をついた。
リードベルは顔を近付けて私の耳元で囁いた。
「周りの奴らのことなど気にするな。今日はお前達のお披露目の日だ、存分に楽しめ。」
そう言ってまた不敵に笑う。
「……!」
楽しむ…か…
こんな状況でそんな風に考えたことなかったな…
やはりリードベルは眩しい…
まるで昼間の明るい太陽のようだ…
…でも確かにこんな機会滅多にないもんね…
暗い気持ちで臨むのと、楽しんで参加するのとでは全く過ごし方が変わってくる。
どちらかというと、私は前者で過ごすことの方が多かったが、リードベルの後押しもあり、今日は思い切って楽しむと決めた。
笑顔でリードベルに向き合うと再び音楽が鳴り出した。
「今度はさっきよりも上手に踊ってみせますわ…っ!」
「ふん…いい度胸だ!転んで恥かくなよ?」
「あら、それをフォローするのが紳士のお役目ですわよね!?」
「ついでに足を踏まれるのも…」
「おいっ!!」
リードベルの反応に、オホホホ…!と声高らかに笑う。
踊り出した私はもう周りの視線も気にならなくなっていた。
ーーー
無事リードベルとのダンスも終わり、リードベルと手を繋いだまま軽食コーナーへ歩いて行った。
「リードベル様ぁ!!」
うっ…この声は…っ!
もしかしなくてもマイラだった…
マイラは遠くからリードベル目掛けて走り寄り、ピタッと腕に張り付いた。
「え…!てか、そのドレスはどうしたの…っ!?」
マイラはいつの間にか、新品の全身水色のドレスに着替えていた。
「ああ、これですか、いざという時のために用意しておいたんです…♡」
さっきの悲劇のヒロインから、打って変わってご機嫌なご様子。
よっぽどこの新しい水色のドレスが嬉しいらしい…
よく見ると、イヤリングもネックレスもフィリスのイメージカラーである水色の物にすべて替えられていた。
…うん、なるほどね…!
お前やっぱりさっきのわざとだったんだなーーーっ!!!
沸々と怒りが湧き上がった。
しかも替えのドレスやアクセサリーまで事前に注文しておくなんて、用意周到が過ぎる…!!
そうこうしている間にフィリスが戻ってきた。
「お待たせ、システィーナ!」
「フィリス様…っ!!」
マイラがすかさずリードベルの腕を離してフィリスに抱きつく。
「…!」
「君そのドレス…どうしたの…?」
さっきフィリスが私に買ってあげると言っていたような、まさしく全身水色のドレスを着ている女性がいて、心底驚いているようだ…
…やはり舞踏会では、こういう押し色ドレスは珍しいようだ…
うぅ…!!
マイラはシスティーナにドレスを汚されたことを、それはそれは儚げで悲しそうに説明したのだった。
「そうだったんだね…それは大変だったね…」
そう言ってマイラに優しく笑いかけた。
「…っ!!」
フィリス様…どうしてそんなにマイラに優しいの…っ!?
マイラもマイラで、さっきまでリードベルの腕にしがみ付いてたと思ったら、今度はフィリス様に抱きついてあんなにベタベタするなんて…!
なんかフィリス様もまんざらでもない感じだし…っ!!
私は先ほどのフィリスとの会話などすっかり忘れて、またマイラとフィリスに対して、嫉妬の気持ちが湧き上がってきた…
「………」
その様子をリードベルが無言で見ていた…
ーーー
その後、舞踏会を無事に終えて、全ての身支度を整えてフィリスの部屋を訪れる頃には、すっかり夜も更けていた…
「クスクス…ごめんってば!」
真っ暗な部屋にフィリスの笑い声がこだます。
「…まさか、わざと私が気にするようなことをマイラ様にしてたなんて…っ!!」
私は思いっきり口を尖らせて、ベッドの中でフィリスを睨み付けた。
先ほどのマイラに対する優しい態度は、私をわざと煽るためのものだったらしい…
「だって、もう一度君を妬かせてみせたかったんだもん…」
相変わらずフィリスは無邪気に笑っている。
…もう…なんて人なの…っ!?
フィリスがいつになく子どものようにケラケラと笑いながら、私に抱き付いてくる。
「!!」
その度に私の心臓が跳ね上がる。
そんな私を見て、フィリスがまたクスクスと笑い出す。
…もしかしなくても、フィリス様、結構酔われてますね…!?
…でもそんなフィリスをちょっと可愛いと思ってしまうのだから、私もどうしようもない…
「今日は俺、本当幸せだよ…」
「ようやく君を抱きしめられた…」
私の頭に自分の額を付ける。
「愛してるよ、システィーナ」
そう言って、優しく額にキスされた。
「!!」
突然の言葉に全身が火照る。
あ、愛してるだなんて…!
歌の中でしか聞かない言葉だと思っていたのに…
実際にこんな風に言われる日がくるなんて…っ!!!
聞き慣れない言葉を聞いて、恥ずかしくておもわず身を捩る。
そんな私をフィリスは笑いながらも優しく抱きしめて言った。
「いい夢見てね…」
「…ありがとうございます、フィリス様」
「おやすみなさい…」
「うん、おやすみ…」
久々にフィリスの腕の中で、私は幸せな気持ちで眠りに落ちたのだった…
お読みいただきありがとうございます!
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