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第21話「波乱の舞踏会(前編)」

舞踏会当日。


私は侍女に時間をかけて着せてもらった赤いドレスを着て、舞踏会場で呆然と突っ立っていた。


今は舞踏会のオープンセレモニー中。


私の隣にはリードベルが立っていて、一見すると仲睦まじい様子で腕を組んで立っている。


周りの温かい視線の中、私は今にも逃げ出したい衝動に駆られていた。


リードベル…あなた……



あんたも赤い衣装着てくるなら、そう言いなさいよーーっ!!!



二人で真っ赤な衣装に身を包んで、まるで意図的にペアルックにしたようで、死ぬほど恥ずかしい…


これなんて公開処刑ですか…?


もっと控えめな色だったらよかったのに、よりにもよって二人して赤なので目立ちまくる。



うぅ…


後で執事のマーカスに、赤はリードベルのイメージカラーなのだと聞かされた。


……マーカス、私が赤いドレス着ること知ってたよね!?

ドレスの手配は最終的に執事がやるもんね!?

知ってた上で黙ってたよね!?絶対!!


現に今日も私達の赤い衣装を見て、可笑しくてたまらないといった様子で、ずっとクスクス、クスクス笑ってたし…!!


あの腹黒執事めーーっ!!


図らずも私の初ペアルックもまた、こんな奴に奪われてしまった…


…奪われるも何も、一生経験しなくてもよかったくらいなのだが…


私はペアルックカップルを見るような周りの生温かい視線に耐え切れずに、おもわずリードベルに回している腕に力を込める。


「…おい、なんだよ…」

リードベルが笑顔を作ったまま、小声で文句を言ってくる。


「よりにもよって赤い衣装を着てくるなんて…!」


「…またその話かよ…しょうがねーだろ、赤は俺のイメージカラーなんだから。知らなかったお前が悪い。」


「ぐ…っ!」



……そうなのだ……


システィーナの記憶をさぐったところ、これは周知の事実だったらしい…


3人の王子には、それぞれイメージカラーがあった。

リードベルは赤、フィリスは水色、エリオットは青…

幼い頃に王子自身が決めた色で、公の場で着る衣装やパレードなどで乗る馬車の色などは、全てその色が使われている。


パレードや舞踏会などで、女性達は自分の好きな王子の色をしたアクセサリーや小物などを身に付けるのが、この国の流行りらしい。

いわゆる推し色ってやつね。


…まあ、乙女ゲームの世界だもんね、キャラクターのイメージカラーはあるわな、それは。


でも、赤、青ときて、次が緑じゃないのが、この制作者のひねくれたところでもある…

さすが、攻略難易度MAXにも関わらず攻略本出さない偏屈ゲームだ…



…でも…

…でもね…


イメージカラーとかあるなら先に教えてくれよーーー!!!

マーカスーーー!!!



まあ、事前にシスティーナの記憶探らなかった私も悪いけど、膨大な記憶から必要な情報だけ抜き取るとか、はっきり言って至難の業だからね!



今更知ったけど、皆恐れ多過ぎて、逆に王族が出席するパーティーでは、赤とか青とか水色のドレスは着ないんですってよ。


赤いドレスを選んだ私の侍女達!!

どこまで知ってたのかなー!?



…まあ、システィーナはシスティーナで、ゲームでは、普段でも舞踏会でもよく赤色のドレスを着てたから、もしかしてリードベル推しを全力でアピールしてたってことなのかな…?

なんて痛い奴…


でもね…システィーナが一番似合うのも赤色なんですよ…

ブロンズの髪に黄色の目で、これで黄色のドレスなんか着た日にゃ、遠くから全裸のように見えちゃうんじゃないだろうか…



つまりね…



「私のイメージカラーを取らないでよっ!」


そう第一王子に向かって無茶苦茶なことを言って噛み付く。



「はあ…」

リードベルが呆れてため息をつく。



「初めての夜会でもないだろうに…公爵令嬢のお前がそんなことも知らなかったとは信じられんな…」



「う…っ!!うるさいわねっ!!私が赤を着たいと言ったら着るのよ!あんた今すぐその服脱ぎなさいよ!!」


リードベルがチラリと私を見て舌を出す。


「…変態」


「なっ…!!」


「そういう意味で言ったんじゃ…!!」


「国王の話が始まるぞ、落ち着け。」


「……っ!!うぐぅ…」



顔を歪ませたくなるが、向かいにいる大勢の貴族達の前で変なこともできないので、能面の様に笑顔を貼り付ける。


ああ恥ずかしい…


既に心が折れそうである。



チラリと国王を挟んで反対側に立つフィリスとマイラペアを見遣る。



今日のフィリスは水色を基調とした衣装で、ところどころの白い縁取りや金色の装飾が美しい。彼の金髪と青い瞳によく似合っている。


マイラも淡い茶色の髪とピンクの瞳に似合うパステルカラーの淡いピンク色のドレスで、フィリスの衣装とよく合っている。



…フィリス様、数日ぶりに見たわ…


…ドレスの色といい、二人ともよく似合ってる…


舞踏会の前にマイラに言われた言葉を思い出して、また気持ちが沈んでしまう。


リードベルとフィリスの顔にはそれぞれ小さなあざがあった。

それは数日前に二人が殴り合いの喧嘩をした時のものらしいが、それは二人でマイラを取り合った末のことなのだと、マイラが言っていた。


…リードベルだけでなく、遂にフィリスまでもがマイラに落とされてしまったようだ…


「はあ…」


…もういいんだ、関係ない…



私は元々あの王子達と仲良くなるつもりなんてなかったし…


普通の貴族子息と出会って、普通の恋愛をするのが夢だったんだから…

だから、今日の舞踏会では素敵なお相手を見つけるのよ…!!


…そう思うのに、なぜだか気持ちが全然ついてこない…



「はあ…」



「…おい…、おい!」


「……へ?」


「なーにマヌケな顔してんだ、今からファーストダンスを踊るんだぞ?」


「えっもう!?」



いつもは国王と王妃のファーストダンスから始まるのだが、今夜は王子の婚約者候補(仮)のお披露目も兼ねて、私やマイラがリードベルやフィリスと最初に踊る手筈になっているのだ。


その場にいる全員の視線が突き刺さる。


「うっ…」

ヤバい…緊張してきた…


おもわず、お腹痛いとか言って、この場を逃げ出したい衝動に駆られた。


そんな私の心情を察してか、リードベルが私の手をぎゅっと握った。

「大丈夫だ、お前は何も考えずに俺にリードされていればいい。」


「…足踏んじゃうかも…」

不安のあまり、弱気な本音が溢れた。


「いつも踏んでるだろ、それでも止まらなければ大丈夫だ。」


「…なによ…あんた今日はちょっといい奴じゃん…」 


「あんたじゃねえ、リードベル様だ。」

そう言って不敵に笑う姿になぜだか元気付けられた。


私は初めてリードベルが眩しく見えた。


「…リードベル様もやっぱり腐っても王子なんですね…」


「…腐ってもは余計だ。腐ってるのはお前の方だろ。」


「…レディに、なんて口聞くんですか…」

私はムスッとして答えた。


「すまんな、本物のレディ相手にならそんな口聞かないんだが。」

そう言って意地の悪い笑みを浮かべて答える。


「はあん!?あんたこそエセ紳士のくせに…!!」



そうこうしている間にダンスが始まった。


私達のくだらない口喧嘩は、ダンスが終わるまで続いた。

外から見たら、終始見つめ合って何かを小声で囁き合っている姿は、もしかしたら仲睦まじい様子に見えたかもしれない。


そんな二人を他の貴族達と共に、フィリスとマイラも見ていたことを私は知らなかった…




ーーー




一曲目のダンスが無事に終わった。


二曲目からは、他の貴族達も参加できるので、途端にダンスフロアに人が入り乱れる。

二曲目は当初の予定では、私とマイラのペアを替えて、私がフィリスと踊ることになっていたが、私は今更フィリスと何を話していいか分からなかった。


向こう側から、マイラと腕を組んだフィリスが近づいて来る。

「……!」


私はたまらずリードベルに

「私トイレに行きたくなっちゃったから、フィリス様には他の方と踊るように言っといて!」

と言って中庭に駆け出した。


人混みをすり抜けながら、人気のない方へとどんどん走っていく。


渡り廊下を抜けて、誰もいない中庭のガゼボにたどり着いた。



はあ…はあ…はあ…


ここまでくれば…きっと大丈夫だ…


「システィーナ!」

「ひゃあっ!!」


気付けばすぐ後ろにフィリスがいた。


「…フィ、フィリス様…!」

「あ、あのその…私ちょっとお腹が痛くて…そのダンスが…その…っ!」

しどろもどろで言い訳をする。


フィリスはとても傷付いた顔をしていた。


「………」



「………ごめんなさい……」

嘘は意味がないと気付いた。




「……どうして僕を避けるの……?」



フィリスは悲しそうに顔を歪ませる。

その顔はとても苦しそうだった…


フィリス様にこんな顔をさせてしまうなんて…

それだけで胸が痛かった…


「……ごめんなさい……二人を見ているのが辛くて……」


私は逃げるのを諦めて正直に話すことにした。



「……二人……?」



「……マイラ様と……とても楽しそうにしていたから……」

「もうこれ以上、見ていられなくて……ごめんなさい……」



「…………」

フィリスが黙っていて答えない。


私は怖くてフィリスの顔が見られなかった。

フィリスの口からこれ以上マイラという単語を聞きたくなかった。

この場から再び逃げ出してしまおうかと考えていたら、不意にフィリスの口から言葉が漏れた。


「……ったの……?」


「……?」

言葉が聞き取れずに、不意にフィリスの顔を見上げると、フィリスが顔を赤くして手の甲で口元を押さえていた。


「……!?」



「……君はずっと、僕とマイラに妬いてたってこと……?」


「!!」


ズキッと心が痛んだ。

“僕とマイラ”という言葉が胸に突き刺さった。



「………」

返事も出来ずにおもわず俯く…



すると、ふわりとフィリスが私の身体を抱きしめた。


「……っ!?」


「フィリス様…!?いけません!マイラ様が見たらなんて言うか…!!」



「……知ってる?」


「僕が好きなのは君なんだよ。」



「…えっ!!!?」

予想だにしなかった言葉を突然言われて、心臓が飛び跳ねる。

頭が混乱して理解が追いつかない…


「だってフィリス様は、マイラ様のことがお好きなんですよね…!?」


「…どうしてそうなるの?バカなシスティーナ…」

そう言って私の頬にキスをする。



「…え!?……えぇっ!!?……ええぇっ!!!?」


「だって、フィリス様はいつもマイラ様と…っ!!」


「ああ、もう、マイラ、マイラうるさい。」

そう言って、両手で私の顔を包み込んで、唇にキスをした。

長い長いキスだった…


「……っ!!!!!?」


真っ赤になって見返すが、頬を染めたフィリスが艶っぽい笑みをシスティーナに向ける。

「ごめん、君があまりに嬉しいことを言ってくれるから我慢できなかった…」


あまりのことに、頭がついていかず、膝から崩れ落ちそうになるのを、フィリスが抱きしめて支えてくれる。


「………」



いまフィリス様が私のことを好きって言ったような…



「……これは夢ですか……?」


「…クス…そうだよ。だから好きなだけキスしてもいいよね…?」


「!?」

「ダメです!ダメです!夢でもダメ!!」


「なぁんだ、つまんない…」

そう言ってフィリスが悪戯げに笑った。


っ!!!!


……現実なんだ……!!


そう自覚した瞬間、全身が火照るように熱くなった。

そんな自分を気取られたくなくて離れようとするが、フィリスは益々きつく私を抱きしめた…



「はあ…突然俺のこと避け始めたから、嫌われたのかと思ったよ…」


「!」

辛そうな顔をしていたフィリスを思い出す。

きっと何度も私の態度や言葉で傷付けてしまった…


「……ごめん…なさい……」

悲しくなって、私の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「ううん…大丈夫…。違うって分かったから…それに…」

私を尚のことぎゅっと抱きしめて言った。


「俺にやきもち妬いてくれたの……すっっっごい嬉しい……」


いつもより低い声で耳元で囁かれて、顔から火が出そうなくらい熱くなり、おもわずフィリスの胸に顔を押し付ける。


やきもち……!?


これが……!?

この感情が……!?


やきもちって、こんなおどろおどろしいものだったの…!?


私は初めて経験した感情の名前に驚いた。


そんな…

じゃあまさか私はフィリス様を……!?


そこまで考えて、私は否定するように頭を振った。


……そんなこと…あってはならない……!



私は自分の感情を否定した。



フィリスは腕の力を緩め、今度は大事そうにシスティーナの頭を撫でた。


「…やっと君を捕まえられた…」


「もうこのまま、君を部屋へ連れて帰りたい…早くその服を脱がせたい…」



え…っ!?

突然のお持ち帰り宣言ですか!?

リア充怖っ!!


フィリスの言葉にぎょっとして、咄嗟にフィリスの腕から逃げようとするも、再び強い力で押し込められてしまう。


「…クスクス、変な意味じゃないよ…言ったでしょ、君の嫌がることはしないって。」


「脱がせたいって言ったのは、リードベルと同じ色のドレスをってこと。」


「あ、ああ…っ!!」

とんでもない勘違いをして、逆にそんな自分が恥ずかしくなる。



「…あのドレスを見た時、君はリードベルのことが好きになったんだと思って、すごくショックだったよ…」


「いや、全然です!!」

即否定。


「先日、君とあいつがキスしたことを聞いたばかりだったから尚更ね……」


「…っ!!」

あのバカ言いやがったのかっ!!



「それを聞いて、おもわずあいつのこと殴っちゃったんけど…」

そう言って笑うフィリスの口元にも青あざがまだ残っている。


マイラが言っていた殴り合いのケンカって、このことだったの…!?


「あれは…そういった意味合いはなくて、ただのもらい事故みたいなもので…っ!」



「……正直、それ聞いた時…胸が張り裂けるかと思った…」


「……!」


「こんな気持ちを経験したのは生まれて初めてだよ…」


フィリスが私に寄りかかるように肩に頭を乗せて甘える。


「もう俺を避けたりしないで……辛いから……」


それを聞いて、システィーナの目から再び涙が溢れた。


「……はい……たくさん傷つけてしまってごめんなさい……」

フィリスをぎゅっと抱きしめ返した。



「……今日は夜までずっと一緒だからね……」


「ふふ…はい…」


いつもより甘えん坊なフィリスがなんだか可愛くて、つい笑ってしまった。




不意にフィリスが私の首に触れた。

「切り傷…さすがに治らなかったね…」


「ああ…」

リードベル達に付けられた跡をフィリスが撫でる。


もう既に痛みはなくなっていたので、自分としてはすっかり忘れていたほどだったが、フィリスはずっと気にしてくれていたようだった。


「…本当はこれを最初に渡したかったんだけど…」


そう言ってポケットからチョーカーを取り出した。


「!」


白いベルトの真ん中に大きな水色の宝石が付いている。


「綺麗……!」


「本当はこれを舞踏会前に君と街へ買いに行く予定だったんだけどね。」

そう言いながら、私の首につけてくれる。

ちょうど首の傷も隠れるサイズだった。


首の中心で水色の宝石がゆらゆら綺麗に輝く。

「僕の色を君に身につけてほしいと思って。」


「…まさかこんな真っ赤なドレスを着てくるなんて夢にも思ってなかったけど。」

クスリとフィリスが笑う。


「…もうっ!それは言わないでくださいっ!!」

私も顔を赤くして怒る。



笑いながらフィリスは再び私を抱きしめる。


「………そろそろ戻らなきゃね…」


「…はい…」


フィリスが名残惜しいとばかりに私の髪に顔をうずめる。


「リードベルなんかよりも、僕との方がダンスの相性がいいってことを周りに見せつけなくちゃ。」


「あはは…よろしくお願いします。」


笑い合った私達は軽くなった心と共に、会場へ戻っていった。








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