第20話「翌朝の大騒動」
翌朝。
結局しばらくリードベルと無言で朝焼けを見てしまい、一睡もできないまま朝食に臨んだので、今頃になってうつらうつらし始めてきた。
そのまま朝食をすっぽかして寝たかったが、マーカスの顔が浮かび、変な詮索をされるくらいならと、眠い身体を引きずりながらパーラーへ向かうことにした…
ーーー
「……ティーナ…」
「…システィーナ?」
ハッ!!
「どうしたの、システィーナ?」
隣でフィリスが心配そうな顔をしている。
…どうやら、朝食中にちょっと意識が飛んでいたようだ…
マイラとマーカスもこちらを見ている。
授業中の居眠りに気付かれたようで、気恥ずかしい気持ちになる。
「…まさか、まだどこか痛むの?大丈夫…?」
フィリスが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
フィリス様…
それだけで胸がきゅんと痛くなる…
「あんな時間まで起きてるからだ。」
唯一こちらを見ずに黙々と食事をとっていたリードベルが口を開いた。
全員がリードベルの発言に注目した。
「…あんな時間まで…!?」
あ、バカ!
「…どういうことですの!?まさか昨晩、二人は一緒だったのいうの…!?」
「…僕も聞き捨てならないな、君は昨日体調が悪いと言って一人で寝たんじゃなかったの…?」
「おやおや…今度はリードベル様とですか…お盛んなことで…」
途端にその場が炎上し始めた。
あいつ…余計なことを…っ!!
「…眠いので失礼します。」
私はすべての責任をリードベルに託して退出することにした。
…まさか昨日のキスの件までは言わないだろうと信じて。
そそくさとパーラーを後にすると
「ちょっと待って!」
と後を追いかけてきたフィリスが私の手を掴んだ。
「!!」
「今のどういうこと…?説明してよ…」
「リードベルと会うために、僕に嘘をついたってこと…?」
フィリスが困惑した表情で見つめる…
…フィリス様…
「……ちが…」
「フィリス様ぁ〜!!」
「!!」
マイラがフィリスの元に走り寄る。
当然のように、フィリスの腕に手を回すマイラを見て、胸がどうしようもなく痛くなる…
「システィーナ様!ちゃんと説明してください!」
フィリスの腕を掴みながら私を睨む。
仲睦まじく見える二人に、猛烈に黒い感情が湧き上がる。
「……お二人には関係ないじゃないですか……」
「システィーナ…?どうして…!?」
戸惑うフィリスの声に胸が痛んで、まともに顔が見られない…
「……今夜ちゃんと説明してくれるよね…?」
「………」
「……もうあなたの部屋には伺いません…。私は…」
フィリスの腕を掴むマイラを見遣る。
「……遊び人の方は苦手なので……」
そう言って、逃げるように階段を駆け上がった。
「待って!システィーナ…!」
追いかけようとするフィリスをマイラが止める。
「お待ちになってください!システィーナ様は今はまだ体調が回復しておらず、少し混乱されているだけです。今はそうっとしておいて差し上げましょう。」
フィリスはシスティーナのいなくなった方向を驚愕した顔で見つめて立ち尽くした。
マイラは人知れず口の端を吊り上げた。
…これはチャンスだわ…っ!!!
ーーー
バタンッ!
部屋に入ったシスティーナはベッドに倒れ込んだ。
侍女達には眠いから一人にしてもらうように頼んだ。
ああ…
私はなんてことを…
フィリス様を傷付けるつもりじゃなかったのに、酷いことを言ってしまった…
“……遊び人の方は苦手なので……”
どの口がそんなことを言うのかと、自分で自分を殴りたくなる。
あんなに優しく親切にしてくれた人を傷付けてしまった…
でもマイラと一緒にいるフィリスを見ると、胸が苦しくなり、自分でも考えられないような嫌な感情が湧き上がってきてしまう…
まるで自分が自分じゃないみたいだ…
こんな気持ちを味わったのは、生まれて初めてだった…
本当はもっと素直になりたいのに…
前みたいに笑って話したいのに…
なんでか急にそれができなくなってしまった…
それが自分でもとても辛い…
システィーナはベッドに顔を埋めながら涙を一つこぼし、そのまま寝入ってしまった…
ーーー
目覚めたら昼過ぎだった。
昼食はもう過ぎたようだ。侍女が対応してくれたのか、マーカスも呼びにこなかったようだ。
まだベッドの上でボーッとしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「…僕だけど。」
フィリスの声だ!
私の心臓がドキリと跳ねた。
私は急いでベッドに潜り込み、侍女に頼み込んでまだ寝ていると伝えてもらった。
しばらくして、フィリスが部屋へ戻る足音が聞こえた。
はぁ…と深いため息を吐く。
本当…どうしちゃったんだろう、私…
再びベッドの上でボーッとしていたら、またドアをノックする音が聞こえて身体を硬直させる。
「…俺だけど…」
「!!」
その声を聞いて、急いでドアに駆け寄る。
ガチャッ
…そこにいたのはエリオットだった。
ーーー
「…なんかあんたの部屋、いい匂いがする…」
システィーナの部屋の椅子に座って、キョロキョロと部屋を見回すエリオット。
珍しい来客で、おもわず部屋へ招き入れてしまった。
立ち話をしているのをフィリスに見られるのも嫌だったのもあるけど…
「それで…どうかされましたか…?」
「…いや、今日珍しくルルの餌やりに来なかったから、どうしたのかなと思っただけ…」
侍女に出された紅茶を飲みながら、ほんのり頬を染めながら素っ気なく答えるエリオット。
色白の肌に毛先の跳ねた金髪の髪、赤い瞳の彼は今日もとても美しい。
「朝も昼も食べてないみたいだったから、お腹がすくと思って…」
そう言って、昼食の残りを持ってきてくれたのか、パンを私に差し出してくれた。
エリオット様が私のために…!
心がジーンと温かくなった。
「ありがとうございます…!!…実はお腹ぺこぺこでした。」
そう言って笑いながらパンを受け取り、口に入れた。
その様子を見たエリオットが柔らかく微笑んだ。
「…よかった…元気そうで…」
ーーー
「…無理しないで。」
私がパンを食べ終えたのを見届けると、エリオットは速やかに部屋を去って行った。
パタン…
久々に心が穏やかになれた瞬間だった…
…でもその時、別の場所で大騒動が起こっていたことを、その時の私は知る由もなかった…
ーーー
夕食は再び体調不良を理由に、部屋に運んでもらった。
いつものようにお風呂に入り、寝る準備を整えていると、部屋をノックする音が聞こえた…
「……」
その音に私はため息をついた。
フィリスだった…
侍女に言って、今日も体調が悪いから一人で寝ることを伝えてもらった。
フィリスが部屋に戻る足音が聞こえると、私の胸も軋むように痛んだ…
それから3日間、私は極力部屋から出なくなり、フィリスもそれ以来私の部屋を訪れることはなかった…
…明日はいよいよ舞踏会だ。




