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第16話「ペア発表とマーカスの思惑」

フィリスと一緒に寝るようになってから20日が経った。

舞踏会まであと10日だ。


あれからフィリスは毎晩、私の個人練習に付き合ってくれた。

初めは冷たい人なのかと思ってたけど、なんのかんのと世話を焼いてくれる。本当に感謝だ…


一緒に寝ることにも随分と慣れた。

…と言いたいところだけど、やっぱりそれはまだまだ慣れない…


男性への耐性をつけるなんて、私には無理なのではないだろうか…


そんな日の夜。

私はいつものようにダンスレッスンと入浴を済ませて、フィリスの部屋のベッドに入る。


「今日で20日目だね。」

後からベッドに入って来たフィリスがそう言った。


「あと10日でまた別々の部屋になってしまうんだね。この生活に慣れちゃったからちょっと寂しいな…」

フィリス様が長いまつ毛をふせて笑う。


「そうですね…でもフィリス様なら他にいくらでも一緒に寝てくださる方はいるでしょうから…」

私も一緒になって愛想笑いをする。


「うん、まあね。」

そこ肯定するんかい。


「まあでも…正直言うと、ここまで何もしないで過ごせたのは自分でも驚きだったよ。」

フィリスは肩肘をついてシスティーナを眺めた。


………ん?


「実は女性とベッドに入って何もなかったことなんて、今まで一度もなかったから、正直自分がいつまでもつか分からなかったんだよね〜!」

と素敵な王子様の笑みを浮かべて宣った。


………え………っ!?


そんな危険な見切り発車の作戦だったんですか……!?

てことは今まで結構危ない橋を渡ってたんじゃ……?

ちょちょちょちょっとぉーーーーっ!!!



「そそそそそうですか………っ!」


今さら聞かされるフィリスの爆弾発言に、急に震えが止まらない…

バレないようにゆっくりと後ずさる。



「クスクス…冗談だよ。」

妖しく笑うフィリス。


…いや、絶っっっ対本当ですよねっ!?



寝る間際にそんなことを言われてしまい、今日もまた変な緊張感の中、逞しいフィリスの腕の中で夜を明かすのだった…




ーーー



翌朝。


いつものようにエリオットを除いた4人で朝食をとっていると、執事のマーカスがみんなの前で話し始めた。


「さて、花祭り及び宮廷舞踏会まで後わずかとなりました。本日は午後に4人でのダンスレッスンを行いますので、時間厳守でお願いします。」

マーカスがいつもの薄ら笑みを浮かべて言った。


……4人…?


マーカスの言葉を疑問に思っていると、隣でフィリスが耳打ちしてきた。

「エリオットは基本的にこういう集まりはボイコットしちゃうから、いつも王子は僕たち二人だけしか参加しないんだ。」


……えっ!?そんなこと許されるの…!?

確かにああいった騒がしい会は苦手そうだけど。

さすがエリオット様……


「だからこの4人で、エスコートとファーストダンスを踊るペアを決めるんだろうね。」


ペアって言ったって…


もはや分けるまでもなく、決まっているような気がするが…


チラリとフィリスを見返す。

「?」

ここ20日ほど、みっちりフィリスと練習を重ねてきた。少しずつフィリスの動きにも慣れて、滑らかに動けるようになってきたと思う。

マーカスには相変わらず、まだまだだと言われているけど…


今さらリードベルと踊るなんて考えられない…

あんな風に手と手を触れ合わせることを考えるだけでも気色悪い…

まあ、マナー的にも虫除け的にも、奴とも最低一回は踊らなければいけないのだろうが…

近寄ったらまた喧嘩が始まりそうだ…




ーーー



朝食の後は、いつものように中庭へ行ってルルに餌をあげ、その後は部屋に戻って侍女が手配してくれた舞踏会用のドレスを試着して、最終的に細かい部分のサイズを調整したり、宝飾品の確認を行なったりした。


侍女達が考えてくれたドレスは、艶やかな生地で作られた濃いワインレッドのドレスで、胸元はハートの形にカットされている。腰から広がるスカートの後方にはドレープがいくつも付けられて大きな薔薇のようである。

内側のスカートは白い生地に、赤や黄色や紫などの色とりどりの花が刺繍されていて、その上に白いレースがかかっていて、全体的に大人っぽく、それでいて春にぴったりの華やかな仕上がりになっている。

身につける装飾品は、本物の金とダイヤモンドで、これ以上なく豪華絢爛だ…


これがまた悪役令嬢のシスティーナの豊満ボディによく似合う…

このドレスを見た時、侍女達のセンスに感動してひたすら褒め称えたのだった。

赤っていうのもエリオット様の瞳の色と同じなのがまたいい!推し色ドレスだ!!

金色は私の瞳の黄色に近い色だし…なんかすごくいい…!


ドレスの準備が整い、いよいよ待ちに待った舞踏会が始まると言う感じがする。




ーーー



その日の午後、大ホールにて。


マーカスとパウルと私のいつものメンバーの他に、今日は二人の王子とマイラがいた。

最近ダンスレッスン漬けの毎日だったため、リードベルとマイラとは食事以外では久々に会った気がする。

だからたぶん毎日穏やかに過ごせてたんだな、うん。



マーカスが全員集まったのを確認して話し始める。

「さて、いよいよ宮廷舞踏会が近づいてまいりました。今日はそのペアの発表とペアでのダンス練習を行います。」


「会場では、基本的にその方と行動を共にしていただき、もちろんダンスもその方と一番多く踊っていただきます。間違っても他のご令嬢とたくさん踊ってしまうことがありませんように…」

そう言ってチラリとフィリスを見た。


フィリスも

「はーーい。」

と軽く返事をする。

…怪しいな。




「では、ペアを発表いたします。」



「1組目、リードベル様とシスティーナ様。」



……


……えっ!?



えーーーーーっ!!?



え?え?聞き間違いだよね?何かの間違いだよね???


驚いてフィリスを振り返ると、フィリスも目を見開いて驚いた顔をしている。



……本当なんだ……!!


ようやく現実だと分かり、すぐさま反論する。


「いやです!」

「いやだ!」


ちょうどタイミングよく声が重なったのは、リードベル様。


「こんな女とずっと行動を共にするなんて嫌だっ!そもそもコイツはフィリスとデキているんだろ!?」


「なっ…!?」


「まあね〜♪」

そう言ってガシッとフィリスが私の肩を引き寄せる。

おもわずドキッとして顔が赤くなる。

これじゃ肯定しているみたいだ、はずい…!


「だから、僕としてもリードベルと彼女が一緒にいられたら気が気じゃないんだけど…?」

そう言ってマーカスを見る。


マーカスはニコリと笑って

「フィリス様はそれくらいの方が、他の方に気がいかなくて丁度良いのでは?」

と宣った。



つえぇえぇぇ!この執事っ!!!



フィリスもニッコリと笑う。

「……なるほどね。」


ピッキーーーン


この場が凍りつく…



「今回はダンスの相性で決めました。直情的に踊るリードベル様とシスティーナ様、官能的に踊られるフィリス様とマイラ様。」


…なるほど、ダンスには性格が出るのね…


「…でも、僕とシスティーナも毎晩二人で練習してかなり形にはなってきたんだよ?」

フィリスが言う。


「ええ、このところお二人は毎晩頑張っておられるようですね、体にあざを作るほど…」

マーカスが意味深に笑う。



「!!///////」


せっかく忘れ去られてきたキスマーク事件をまた掘り起こす。


「まあね〜♪」

「!?」


さっきからなぜ意味深に肯定するんですか、フィリス様っ!!


「だから、僕としてはシスティーナをパートナーにしたいんだけど…」


「わ、私も…リードベル様が…いいです。」

猫を被ったマイラも控えめに進言する。



「ふふ…今回は二人のご令嬢にも別の男性を知っていただくいい機会になるかと思います。」

マーカスは一切譲る気はない様子で、笑顔のまま答えた。


リードベルのことなんか知りたくない、一つも。

リードベルも同じようで、苦々しい表情を浮かべている。


「それでは、婚約者候補として、あと10日間でダンスとお互いの関係を良好なものにしていただきますよう、よろしくお願いしますね。」


………ん?婚約者候補……?



「…まあ、状況によってペアが変わるかもしれないので、まだ公には出来ないのですが…」

マーカスがいつもの薄ら笑みを浮かべる。


……うん、やっぱり最低だ、この設定……



「それでは、2組目のフィリス様とマイラ様もよろしくお願いしますね。」

マーカスが笑いかける。


「………」

「………」


お互いに笑顔を貼り付けてはいるものの、纏う空気が怖い…


やっぱり似たもの同士だ、この二人っ!!



少し遅れて気持ちを切り替えたらしいマイラが

「よろしくお願いします!フィリス様!」

と言って腕に手を巻き付けるが、フィリスはスッと手を抜き取り笑顔で

「うん、よろしくね。」

と返す。


「………」

「………」

二人の間で笑顔の重い沈黙が続く…


怖い怖い怖い…




「はっ…」

後ろでため息を吐く声が聞こえた。


「まさかお前とペアになるとはな…」

リードベルがうんざりした顔で言った。


……いや、こっちのセリフだけどな!!?


「せいぜい皆の前で恥をかかないように気をつけるんだな。」


「オホホホ…!それはお約束できませんわね〜!!でもダンスをフォローするのは男性のお役目なのではなくてぇ〜!?」

なぜかコイツ相手には、悪役令嬢らしい言葉がスルスルと出てくる。


「くっ…!いけしゃあしゃあと…!」



「それでは、それぞれのペアでダンス練習をお願いします。時間などはペアで決めてその都度行ってください。」


そう言ってマーカスは退室していった。

パウルは残ってくれた。恐らく私のためだろう。

現に私達ペアの前にいる。


「それでは組んでみましょうか。」

パウルが明るい笑顔で進行してくれる。


渋々と二人で近付く。

…本当はコイツの近くの空気なんて吸いたくないんだが…

無意識に息を止めて手を取り合う。

ぎゅむ…


ふんわりと優しく手に触れてくれたフィリスと違って、コイツは握りが強い。どんだけ握力強いんだよ。

手もフィリスと違ってゴツゴツと硬く、何もかもが違和感でしかない。


「いいですね、後はお二人とももう少し笑顔で…」

見事に仏頂面の二人が手を取り合っている様は滑稽に見えただろう…


「システィーナ様はまだダンスに不慣れなご様子なので、リードベル様がリードをよろしくお願いします。」

パウルが代わりにお願いする。

「承知した。」


パウルの合図で音楽が鳴り始めると、リードベルが強引にシスティーナの手を引く。

「うわっ!」


まるでコーヒーカップのように、遠心力でぐるぐると回る。

途中足がもつれて何度もリードベルの足を踏んでしまう。

それもシャレにならない回数を…


さすがのシスティーナも青くなった…



「なるほどな…」


曲が鳴り終わった後、表情の読めない顔でシスティーナを見た。

そしてパウルを見る。


「こいつはかなり練習が必要なようだ。」


ぐぅ…

本当のこと過ぎて、何も言えない…


それにしても、足を踏みまくったこと、絶対罵倒されると思ったのに、そのことは何も言わないんだ…

紳士かよ!

調子狂うじゃないのさ…!



パウルも人の良さそうな笑みで言う。

「お二人のダンスのタイプは似ていらっしゃいますが、なに分、岩と岩と言いますか、思い切り反発し合っていらっしゃいますので、どうぞ練習を重ねて角と角を削るようにお互いの形を作っていただければと思います。そう、夫婦のように…」


夫婦ですか…


冗談じゃない!

コイツとお互いの形なんか作ってたまるかっ!!


私を何かと疑ってる奴だよ!?

コロッとマイラに騙されるようなアホだよ!?

またいつどんな難癖つけられるか分かったもんじゃないっ!!


遠くでは、フィリスとマイラが、遠目でこちらの様子を伺っている。

どうやら、二人は一曲踊っただけで終了したらしい。


「オホホホ…私は今の二人の形が十分気に入っておりますの…だからもう練習は…あぁっ!!」


リードベルに有無を言わさず手を引かれる。

「余計なこと言ってないで練習するぞ。」

「なっ…!!」

お前こそ余計なことを…っ!!

リードベルの顔を見上げて睨むも、リードベルは正面を見てダンスを始めようとしている様子。


「……!!」

こいつやる気だ…っ!!


そうして2回目のコーヒーカップが始まった。


うぅ…

なんでこうも相手が違うと違うんだろう…

それでもさっきよりはこちらに合わせるように踊ってくれた感じはある…

でも全く合っていない違和感は依然としてある。

まるでタイミングの合わないシーソーのようだ。


私は相変わらず戸惑って足を踏みまくってしまったが、またしても奴は表情も変えず、何も言ってこなかった…

…おかしい…

コイツのキャラ的におかしい…

いつもギャンギャンと犬のように吠え立ててくるのに。

安全靴でも履いてるのか、コイツ…?



訝しげにリードベルを見つめるが、相変わらず表情は読めない。

「次っ!」

「えっ…ちょっと休憩いぃぃいっ!!」


その後、休むことなく5曲ほど踊り倒し、慣れない疲労でヘロヘロになった。

パウルが有無を言わさず、侍女を呼んでティータイムにした。

パウルも立っているのが疲れたのだろう…

フィリスとマイラは、気付いたらいなくなっていた。



「はあああ…」

つっかれたぁ〜〜っ!!


椅子に寄りかかるようにもたれかかる。


「行儀悪いぞ…」

涼しい顔で紅茶を飲むリードベルが嗜める。


うるせーやいっ!

こっちはお前みたいに山ほど体力があるわけじゃないんじゃっ!!


そこに笑顔のパウルが軽めに言う。

「こんなに踊っても一向に改善が見られないのは困りましたね〜。」


「むしろ踊りの技術というよりは、お二人の相性の問題かもしれませんね。」

もの凄く核心をついたことをパウルが言った。


おっしゃる通りです!!


「だから、ペアは私達ではなくて…」

「ああ、良いことを思いつきましたよ!」

「うわぁっ!?」


いつの間にか後ろに立っていたマーカスに驚く。


「二人のダンスの相性を良くするためにも、まずはお互いを知っていただかないと。」

「ちょうど明日街で買い出しをする予定がありましたので、よかったらお二人で買い物デートをしてきて下さい。」


よかったらとか言いながら、断る余地がない圧のかかった微笑みで言う。


えぇぇぇ……

すんごい嫌だ…


あんたもいつものように騒ぎ立てなさいよっ!!

援護射撃を期待してリードベルを見遣ると、

彼は無表情のまま

「…分かった。」

と言った。




………HAAAA!!!!?



お前いまなんと…っ!?



「じゃあ決まりですね!早速準備致しますので!」

ルーカスは私の意見など聞く気もなく、素早くどこかへ消えていった。



……ああああ……

何でそんなことに……っ!?






ーーー



その夜。


「え、明日リードベルと街へ?」


いつものようにフィリスの腕に抱かれながら、今日のダンスの様子を話した。そこから明日の話になったのだ。


「…俺とも行ったことないのに…」

フィリスがまた不貞腐れたように口を尖らせる。

その様子が可愛くてまた笑いそうになるが、笑ったらとんでもないことになるので、必死に堪える…


でもそんな風に自分と行きたいと思ってくれる気持ちが嬉しくなっておもわず微笑む。

「いつかフィリス様とも一緒に行きたいです…」

こんな超絶美形と外出なんてしたら、大変なことになりそうだけど…


「いつかじゃなくて、すぐがいい…」

とシスティーナをぎゅっと抱きしめる。


甘えてくる超絶美形のヤンデレ王子…これはおもわずときめいてしまう…!

おもわず揶揄いたくなってしまう危険ルートは脳内で回避しつつ、代わりに

「そうですね、すぐ行きましょう。」

と約束して微笑んだ。


そうしてまた今夜もフィリスに抱きしめられながら、温かい腕の中で目を閉じた…


恋人がいたら、こんな風に夜を過ごしたりするのだろうか…?

私にはまだ想像の域でしかないけど…


そんなことを考えながら、今夜も心地よい腕の中で眠りについた…










お読みいただきありがとうございます!

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