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第13話「二人の謝罪」

盗難騒動の翌朝。


私は改めて昨日のことを思い返していた。


マイラに嵌められたとはいえ、エリオット様の入浴現場に二度も足を踏み入れ、その上全裸のエリオット様に対して「お手伝いに来た」とか、どんだけサイコパスだよ、私っ!!

かなりの痴女じゃん!最悪っ!!


思い出すだけでも恥ずかしくて、ベッドの中で足をバタバタさせて悶える。


あーもう、恥ずかしくて死にたいよぉ〜〜っ!!


食事になんて行きたくないっ!!

エリオット様に合わせる顔がない…っ!!

ついでに他の連中にも会いたくない!!


心配する侍女達をよそに、布団をかぶって朝食をボイコットしようとしていたら、しばらくしてニコニコと薄ら笑いを浮かべた執事様が迎えに来た…


はい、そうですよね…

行きます、行きますよぉ

行けばいいんでしょぉ〜〜っ!?

グスン…

私は涙目で渋々ベッドから出た。


ベッドから出るや否や、デキる侍女達の高速準備のおかげで、なんとか朝食の時間に間に合ってしまった。

うぅ……


項垂れて廊下へ出ると、ドアのすぐ脇に大男が立っていた。


リードベルだった。

「うわっ!ビックリしたぁっ!!」

思わず公爵令嬢らしからぬ声が出てしまった。



リードベルが眉に皺を寄せた顔で無言でこちらを睨んでくる。


私は昨日彼に胸ぐらを掴まれた痛みを思い出して、おもわず後ずさり、ファイティングポーズをとる。


「…なんだその構えは。」


リードベルは表情も変えずにこちらを見ている。


「また胸ぐらを掴まれないように…」

「……」

リードベルは無言でこちらを見る。


昨日とは打って変わって大人しい彼の様子を不審に思い、彼の視線の先を辿ると、視線が私の胸元に向いていた…


昨日の寝間着と違って、今日は朝からバッチリ真っ赤なドレス姿だ。掴む胸ぐらなどなく、むしろ豊満な胸元はうっすら谷間が見えるくらいだ。


「……えっ!?」


……まさか胸見てたの…!?


「へ、変態ーーっ!!!」


咄嗟に胸を隠して叫ぶ。


「…ん?ち、違うっ!!俺は断じてそんな所見てない…っ!!」

「嘘よ!じっと私の胸を見てたじゃないっ!!」


「違うっ!俺はいま考え事をしていて…」

「人を前にして何を考えるって言うのよっ!!痴漢はみんなそう言うのよっ!!」

「なっ…!!」


「そ、そうやって勝手に決め付けるのは良くない事だぞ!」

「どの口が言うんじゃ、ボケナスがっ!!」

「!!」

もはや公爵令嬢どころか、女性としての言葉も崩れようとしていた。


私は変質者を見るように、リードベルに蔑みの目を向けた。

「………っ!」


「違うんだ、そうじゃない…!そもそも俺はお前を女として見ていない。」


否定しながら、サラッと失礼なこと言いやがったコイツ!!

許さねぇ!こっちこそお前なんか意識してねーわっ!!



「そのあれだ…俺は昨日のことを謝りに来たんだ…っ!」

もの凄く気まずそうに切り出す。


「………は……?」

予想外過ぎる言葉に、一瞬脳が停止する。



「昨日は…手を出そうとしてしまって悪かった…胸ぐらを掴んだのも…たとえお前が犯人だとしてもあれは行き過ぎた行為だった…」

リードベルが悔しそうに頭を下げる。

最後の一文は余計だがな。


「…私以前にもあなたに首を絞められたこともございますが…」

私もすかさず畳みかける。

この機を逃してなるものか。

こっちだって、ちゃあんと根にもっておりましたのよ、伊達に悪役令嬢じゃないんだから、オホホホ…


ぐぅ…と、リードベルが悔しそうな声を上げて

「あの時も…すまなかった…」

と声を絞り出すように謝った。

ふふん、当然じゃいっ!!

わたしゃ“過去のことは水に流して…”みたいな心の清いヒロインじゃないのよ!

やらかした分はキッチリ謝ってもらいますからねっ!!

ふんっ!(鼻息)


少しだけ胸の内がスッキリとしたシスティーナだったが、

「…だが…」

と続くリードベルの地の這うような声に耳を疑う。


「…俺は昨日のことは全てお前の仕業だと思っている。必ず証拠をつかまえて、しかるべき処分を下してやる…」

そう言ってシスティーナを睨み付けた。



……はあぁああ!!?


じゃあお前なんでいま謝ったんだよ!?意味わかんね!!


システィーナもそこで堪忍袋の緒がプッツリと切れた。


「オホホホ…!脳みそ筋肉のあなたにできるかしらねぇ〜〜〜!!楽しみだわぁ〜〜〜!!」

私は悪役令嬢らしい顔を最大限に活かして、リードベルを小バカに見下したように盛大に笑ってやった。

ははん!キマったわ…っ!!


「くっ…!人が下手に出ればつけ上がりやがって…っ!」


どこのチンピラのセリフだよ。

リードベルが屈辱的に睨み付けるのを私も負けじと睨み返す…


ーー結局、私達の仲は一つも改善されないまま、時間だけを無駄に費やして終わったのだった…


本当なんだったんだよ、アイツ…っ!






ーーー



朝食の後…



重い足取りで向かったのはエリオットの部屋だった…


「はぁ…」

すごく気が重い…


自分で相当やらかした自覚があるだけに、すごく会いづらい…


でもちゃんと謝らなくては…このまま気まずい思いでいるのだけは絶対に嫌だ…っ!!


「すぅーー、はぁーー…」

深呼吸をしてからノックする。


コンコン…


…返事がない。


…え、まさか私だと分かって無視されてる…!?

そんな訳ないよね!?

気持ちが沈みそうになるのを抑えて、もう一度ノックする…


コンコン…


……やはりいないようだ……



……もしかして、ルルを連れて外に行っているのかもしれない…

きっとそうだ!


私は急いで中庭に向かった。




ーーー



今日は天気も良くて風も気持ちいい…

背丈よりも高い生垣が青々と茂っていて、落ち込んでいた心も癒される。



私はいつものガゼボがある辺りまで来てみたが、やはりそこにエリオットはいた。

いつものように生垣に向かってしゃがみ込んでいた。



エリオット様……



……よしっ!!


私は意を決して声をかけることにした。



「あの、エリオット様…」


私の声にピクリと反応すると、険しい表情でこちらを見てきた。


「なに…?」



うぅ…つらたん…



「あの…昨日は本当に申し訳ございませんでした!!」


カーテシーではなく、日本仕込みの平伏で全力で詫びる。


「!」


「……つまり、昨日のことを認めるってこと…?」


「いえ!昨日の話に嘘はありません。でも実際に二度もエリオット様のご入浴をお邪魔してしまった事実には変わりませんので、今日はそちらの謝罪に参りました…っ!」


…きっと、風呂を覗いたのがフィリスだったのなら、ここまで問題にならなかった。

たぶん、リードベルが相手でもここまで気にしなかった…(私が)


よりによってこういう問題に一番繊細なエリオット様をターゲットに選ぶなんて…!


マイラのやつ、マジで許さねぇ…



「…あんたがやったんじゃなければ、誰がやったっていうの?」


「それは…」

マイラだ…


そう心の中で呟いたが、さすがに証拠もないのに目測だけでそんなことは言えない…

私だって腐っても公爵令嬢だ。


私は口をつぐんだ…


「………」

エリオットはため息を吐いた。


「…マイラはあんたがやったって、はっきり言ってたけど…」


…マイラが…!?


マイラならそういうだろう、やった当の本人なんだから。


…それよりも一体いつの間にエリオット様と話なんて…!!

そっちの方が気になってしまった。


昨日の夜?今朝…!?

途端に私の中で猛烈に黒い感情が湧きあがった。


私のことはいまだに「あんた」呼ばわりなのに、マイラはちゃんと名前呼びなんて…マイラは特別扱いなの!?

胸にミサイルをぶっ刺されたみたいなショックを受けた…


再び心がやさぐれ始めた…



「…エリオット様は結局マイラの味方なんですね…」


「…別に味方ってわけじゃ…」


「結局みんなマイラの話だったら聞くんですよ!私も吊り目じゃなくて可愛くて優しい顔してたら、みんな私の話を聞くんでしょ!?きっとそうなんでしょうね…!」


謝りにきたはずなのに、結局また逆ギレしてエリオット様に八つ当たりしてしまった…最悪。


「…じゃあ、あんたじゃないってこと…?」


「……だから、最初からそう言ってるじゃないですか…!なんで誰も信じてくれないんですか……」


ポロポロと涙が溢れてきてしまう…


こんな風にエリオットにマイラばかり贔屓されるのは、どうしようもなく悲しい…



「………」

エリオットはそんな私を冷静に見つめる。

公爵令嬢である私がこんなに人前で泣くなんてはしたない真似をして、さぞかし呆れているのでしょうね…

でももう我慢することに疲れてしまった…

私は何もしてないのに、みんなマイラの言葉ばかり信じて…


前の世界で体験した嫌な思いとかもいろいろ思い出してしまって、私は今まで溜め込んでいた悲しい気持ちを爆発させて泣き続けた。



その様子をエリオットは黙って見ていた…




ーーー



しばらくして涙も枯れ果てた頃…

「落ち着いた?」

と少し離れた所からエリオットが徐に声をかけた。


「はい…またお見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした…」

と少しバツが悪そうに俯く。


「……」


「…泣きたい時は、すっきりするまで泣いた方が楽になるから…」


「…!」



じゃあ、敢えて私が泣き止むまで、黙って待っててくれたんだ…



「…ありがとうございます…またしてもエリオット様に失礼なことを申し上げてしまいました…」

またも深く深くお辞儀をする。


「もういい…慣れた。俺こそ、また勝手に決め付けた…本当ごめん…」



鼻にかかるエリオットの低い掠れ声が耳に心地よく響く…


「…もし今回のことがあんたのせいじゃないのなら、今までのことは全てマイラの仕業ってこと…?」



「!?」

顔を上げると、綺麗な赤い瞳が真摯にこちらを見つめていた。



私は決心をして頷いた。

「……はい。」


「すべては、私を陥れるための彼女の自作自演です…」



「…そうなんだ…」


エリオットは俄には信じ難いというような表情で、押し黙っていた…



「…マイラはどうしてそんなことを…?」


「……分かりません。でも私が他の王子達と親しくするのが気に入らないようでした…」


「そうなんだ…」


「例の跡継ぎ問題のことが関係してる…?」


「そうかもしれません…私は別に王妃の座なんて狙ってないのに…」


「………」


ルルが蝶を追いかけて、あっちこっちで転げ回っている。

その様子を無言で二人で眺めた。


「…俺にはまだ判断できないけど、あんたが嘘を言っているようにも思えない…なんか不器用そうだし…」


「!」


「あんたとマイラが…」


「システィーナです!」


「?」


「……私のこともどうか、システィーナとお呼びください…」

そう言ってふてくされたように口を尖らせて頬を膨らませると、目を丸くしたエリオットが、少ししてクスクスと笑い出した…


「あんた…じゃなくて、システィーナって…本当変わってるね…」


ニコッ…



「……っ!!!」



風で長いまつ毛と綺麗な金髪のクセ毛がふんわりと揺れ、赤い瞳を細めてはにかんだように笑う色白のエリオット様のお顔は、この世のものとは思えないほど美しかった。


やばいっ!!イケメン光線で目が潰れるっ!!!


しかもエリオット様の名前呼びーー!!

尊い…っ!!


はぁ、もう大好きですーーっ!!



脳内で大暴れする私を余所に、エリオットは遠くを見つめる。



「…きっと時間が経てば、どっちが本当のことを言ってるか分かるはず…」


「そうですね…そう信じたいです。」


そう言ってエリオットの横顔を見つめた…


二人の間を優しい風が駆け抜けた。



ーーー



「……あ、そういえば、私午後にカンパーニュとスコーンを焼こうと思っているのですが、エリオット様が食べられる物はありますか?」



「………」



「……?」



「………スコーンなら…食べられる……」

少し頬を染めて恥ずかしそうに答えた。


「!!」


スコーンお好きなんですね!!


照れたお顔がまた可愛らしくてキュンとしてしまう…っ!!

今回も最高のスチル頂きましたーーっ!!!



「では午後のティータイムの時間にお持ちしますね!」

心のエネルギーが満タンになった私は、元気よく宣言した。


「…うん…」

エリオットは照れながらそっぽを向いて答えた。


そんなエリオット様にキュンです…!






ーーー




午後には約束通り、カンパーニュとスコーンを焼いてエリオットとフィリスの元へ持って行った。


途中、運悪く廊下でリードベルと遭遇してしまった。

なんでお前がこんなところに…


近衛兵の訓練の後なのか、また騎士のような格好をしていた。


「………」

「………」


朝の言い合いの後で、すごく気まずい…



「ごきげんよう…」

「待て!」


サラッと通り過ぎようとしたところで肩をガシッと掴まれる。


「…何か……?」

目付きの悪い悪役令嬢顔でおもいきり凄む。


…私も悪役令嬢が板についてきたわ〜



「お前それを誰に渡すつもりだ!?」


「あなたには関係ないでしょう?」

ツーンと顔を背ける。


「…媚薬など入ってないだろうなぁ…!?」


「…はい!?」


何そんなファンタジーなこと言ってんのコイツは。


「脳みそお花畑かよ…」ボソッ


「何か言ったか…?」


「いいえ〜〜?」


そんなもんあったら、とっくにマイラが使ってるだろ。



「残念ながら、そんなおかしな物を入れた覚えはありませんわ〜!あなたに作るのでしたら毒でも入れるんですけどね〜!オホホホ…」


悪役令嬢らしく高笑いでもしてみる。


「なんだと…っ!?」

リードベルが険しい表情になる。


「とにかく、怪しいものが入っていないか一度調査する!」

そう言って私のパンを没収した。

「あ…っ!」


出来立ての今が一番美味しいのに…!!


調査って言ったって科捜研があるわけでもなし、時間だけ無駄に取られて終わりそうだ…


エリオット様には今日渡すって約束したのに…!!

このまま素直に渡してなるものか…っ!!


「…分かりました!じゃあ、あなたが今ここでこれを食べて中身を確認してください。」


「!!」

驚いて顔を赤らめるリードベル。


…なんだ食べたかったのかよ。赤ら顔やめろや、気持ち悪い!



「…だが、もし媚薬が入っていたら…!」


「媚薬くらい、近衛兵を統率しているリードベル様なら効きませんわよね〜!?それとも私のこと好きになっちゃうのかしらぁ〜??」


見下すようにリードベルを嘲笑う。


「なんだと!?そんな訳ないだろっ!!現にお前のクッキーを食べても俺は何ともなかったし…!」


じゃあ大丈夫だろーよっ!!

てか、そんなもんどこで調達できるのか、逆に教えてもらいたいわっ!!


「では、今回もそのやり方で確かめて頂けますか…?」

私は薄ら笑みを浮かべてリードベルにパンを差し出す。

これじゃまるで、やってる奴の顔だ…


「……!」


ゴクリ…


リードベルが恐る恐るスコーンを口にする…


パクリ…


「…っ!!」


「!?」



「……ん……っ!!」

スコーンを口に入れた瞬間、リードベルが突然うずくまった…


「…へ!?」


まさか本当に毒入ってた!?

まさかマイラがまた何か…!?


さすがの私も一瞬慌てた。



「………ん……」



「………うまい……っ!!」




………


………うまいのかよ………



紛らわしい反応やめろや。




自分でも咄嗟に出てしまったようで、口を押さえて顔を赤くして押し黙る。


男の赤面がこんなに気色悪いとは…

エリオット様とは大違いだ。



「……それで、媚薬は入っていましたか…?」


顔を赤らめた男に対して冷静に尋ねる。



「……それは、一口だけでは分からない…」

そう言って噛み締めるようにもう一口食べ、また一口食べ…と、遂には野球ボール程の大きさのスコーンを丸々一個食べ切ってしまった。


しーーん


「………」

「………」



気まずい空気が流れる。



「それで……私のことを好きになりましたか…?」



「そんな訳ないだろっ!!」



テメェっ!!!


スコーン返せよーっ!!




またしても無駄な時間が流れた…







本日もお読みいただき、ありがとうございます!

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