第12話「リードベルという男」〜リードベル視点〜
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黒髪に金色の目をしたリードベル・モウブレーはこの国の第一王子だ。
整った顔立ちをしているが、三白眼の瞳のおかげでフィリスやエリオットに比べると、やや目つきが悪い。
というか、かなり悪い。
それでも乙女ゲームの主人公らしく、綺麗な肌と整った目鼻顔立ちで、他の2人と共にイケメン王子として世の女性達の人気を博していた。
今朝の彼は、そんな顔をいつも以上に険しくさせて、昨晩のことをずっと思い返していた…
“ 私が行った時には、既に箱の中に服はありませんでした…”
白々しい嘘を平気で言ってのけたのは、俺と同じく吊り目で目つきが悪く、いかにも性格の悪そうな顔をしている公爵令嬢のシスティーナだった。
彼女は事あるごとに俺に噛み付いてきた。
そして唯一の同性であるマイラにも…
この屋敷に来て早々、あろうことか彼女の手を切りつけ、ワインを振りかけた。
今まで公爵令嬢と男爵令嬢として関わることもなければ口も聞いたこともなかったとマイラが言っていた。
個人的な恨みがあるならまだしも、日も浅いうちから平然とそういうことをやってのけるなんて、常識的に考えてあり得ないことだ。
マイラの話によると、「3人の王子達はすべて自分がもらうから、お前は誰にも手を出すな」と脅されたそうだ。
なんという自分勝手な理由だろうか…
リードベルはそれを聞いた時、怒りで震えた。
その後もあの女は俺の目の前でマイラを階段から突き落としたり、マイラのスカートを引き裂いて嫌がらせをしたりしていた。
彼女は反省するどころか、叱責する俺を睨み付けてきた。
恐らく、次期王妃という立場に目が眩んでの行動なのだろう…
地位にしがみつく、なんという愚かな女なのだろうか…!
そんな女を間違っても俺が選ぶわけがない。
たとえ言い寄ってきたとしても、こちらから願い下げだ。
そう思っていた矢先、今度は盗みにまで手を出し始めた…
“ ……仮に私が物を盗むような人間だったとしても…”
“…エリオット様ならともかく、あんたの物なんか誰が盗むか!!お前こそ思いあがんなっ!!!”
昨日のシスティーナの言葉を思い出して、思わず青筋が立つ。
……こっちだって願い下げだと思っていた奴に、なんでそんなことまで言われなきゃいけないんだ……!
思い出すだけでもムカつく…あの女…!
もはや公爵令嬢としての気品など皆無だった。恐らくあれがあの女の本性なのだろう…
まあ、元々気品なんて存在しなかったが…
“ なによ!?殴るの!?殴りたきゃ殴りなさいよっ!!どうせ最初からロクに調べもせずに私が犯人だって決め付けてたんでしょ!?もううんざりなのよ!あんたの態度にっ!!この脳みそ筋肉の差別野郎がっ!!”
思い出せば出すほど額に青筋が増えていくが、あの女の言った“差別野郎”と言う言葉が胸に引っかかった。
…今まで散々、自分より身分の低い男爵令嬢のマイラを虐げてきたくせに、どの口が俺を差別野郎だと言うのだ…
俺が一番嫌いな言葉が差別だ。
身分による差別を俺は許せない。
だから、システィーナのことも許せない。
なのに…
俺もあの女を差別していただと…!?
罪を犯した奴を裁くのを差別とは言わない。
あの女はそれを自分の都合のいいように解釈しているだけなのだ。
きっとそうだ…
リードベルは、胸の中に湧き上がる違和感を無意識に押し込めた。
“ レディに手をあげるだなんて、王子にあるまじき行為じゃないの…?それともあんたはまたそういう世界を作ろうとしてるの…?”
止めに入ったフィリスの言葉が胸に刺さった。
…確かにあれは俺が悪かった…
たとえどんなに極悪非道でどうしようもない人間だったとしても、仮にも相手はひ弱な女性だ。
怒りに任せて暴力を振るおうとしていたのは良くなかった。
その件については謝らなければならない…癪だが。
俺が作ろうとしているのは、暴力のない平和な世界のはずなのに…その理想を自ら壊してしまうところだった。
ーーそれにしてもフィリスの奴は、すっかりシスティーナに心酔しているようだ。
マイラの話によると、システィーナは女の武器を使って、手当たり次第そこら中の男に手を出しては、相手を虜にさせてしまう魔性の女なのだそうだ。
どちらかというと、フィリスも似たようなタイプだったはずなのだが、さすがのフィリスもシスティーナには敵わなかったということだろうか…
そして今度はエリオットにちょっかいをかけ始めた。
彼の服を盗んだのもその計画の一端なのだろう…
そういえば、以前はクッキーを持って部屋の前で座り込んでいたが、あれも作戦の一つだったのだろうか。
「……クッキー……」
…生意気なやつだが、クッキーだけは美味かった…
思い出すだけで、唾液が反応する。
…いやいやっ!!
あの中に何か媚薬でも入れられているかもしれないから、今後は誰の口にも入れないように指示しなければ…っ!!
リードベルは頭の中のクッキーの味を必死に追い払う。
「……だが…」
「……すべてが変わってしまったのに、あの味だけは昔と変わっていないのだな……」
静まり返った部屋でリードベルは悲しげに一人呟いた。
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