第11話「風呂場で大騒動!」
ファーストキスを奪われた衝撃の日の翌日、
私はすっかり回復して、みんなと朝食を食べられるまでになった。
昨日の事件の後は、さすがにフィリスも宣言通りにそれ以上は何もして来ず、真面目に看病してくれていたのだが、私が元気になるや否や、再びちょっかいを仕掛けてくるようになった。
今日は朝食を食べに、フィリスの部屋から一緒にパーラーへと向かったが、私はまた変なことをされやしないかと内心ヒヤヒヤしていたので、フィリスに触れられるだけで驚いて身体が飛び跳ねた。
私のその反応を楽しむように、毎回忘れた頃に仕掛けてくるのだ…
本っっ当、タチが悪いったらありゃしない…っ!!
恨めしそうに隣に座ったフィリスを睨むが、フィリスは楽しくてたまらないと言った様子で微笑み返すので、おもわずそのキラキラ光線で目が潰れないように慌てて目を逸らす。
相変わらず超絶イケメンの顔面は攻撃力が高い…
「それじゃあ…」
どうにか朝食を食べ終え、フィリスの部屋の前まで来たところで別れを告げる。
これまで執務以外はずっとフィリスと一緒に過ごしてきたが、もう風邪も治ったし、フィリスの部屋で過ごす必要性はなくなったのだ。
「三日間、大変お世話になりました。」
そう言ってお辞儀…じゃなかった、カーテシーを丁寧に行った。
顔を上げようとした瞬間に、顔を胸にぎゅっと押しつけられて抱きしめられる。
「……っ!!」
「…来たい時は、またいつでも遊びに来ていいからね。」
「は、はい…」
優しい声で言われて、心臓がドキドキと早鐘を打つ。
やがてゆっくりと解放されると、
「それじゃあね」と今度こそ別れて、フィリスは部屋に戻った。
バタン…
ドアが閉められると、システィーナはなんだか急に寂しくなって、胸の奥がほんの僅かにチクチクと痛んだような気がした…
システィーナは急に鉛のように重くなった身体を引きずるようにして自分の部屋に戻った。
ドアを開けた瞬間に、三人の侍女達が並んで
「お勤めご苦労様でした!!」
と一糸乱れぬ動きで挨拶してきた。
「………」
その後も侍女達に身体を綺麗に磨かれながら、またもや質問攻めにあったのだった…
…まあ、ファーストキスのことは内緒にしといたけど…
おかげで今日もルルとエリオット様に会いに行けなかった。
でも今日だけはなぜか、エリオット様の顔を見たいと思えなかった。
どうしてかフィリスの顔ばかり浮かんでしまう…
……まさかこれが「ボロ雑巾のように捨てられる女」の心理なのだろうか……?(違う)
……まさか、これが恋というやつ……?
……だとしたら相手がマズい…非常にマズい。
相手は百戦錬磨の恋のスペシャリストだ。
まず手を繋ぐことから始めたい私みたいな素人は、すぐにクシャクシャポイされるに違いない…
それは嫌だ。
ヤンデレ系彼氏と二人で闇堕ちっていうルートも限りなくバッドエンドのにおいがする…
……うん、忘れよう。
この三日間に起こったことは全て夢だ。
ファーストキスも誰にも奪われてないし、私は誰も好きになってない……
よし、オッケー!
私は自分に言い聞かせた。
ーーそしてそこでデジャブを感じた。
……確かずっとずっと昔にもそうやって何かを忘れようとしたことがあった気がした……
あの時も誰かが私を看病してくれたっけ…
あれはどうしてだったんだっけ……?
薄れかけた記憶を呼び戻そうとしているところで声をかけられた。
「システィーナ様。」
気付いたら執事のマーカスが部屋に来ていた。
ーーー
「花祭り…ですか?」
「ええ、毎年春に行われるイベント…いえ、行事です。」
…いまイベントって言った!?
「花祭りの開始を告げるオープンセレモニーが王族主催で取り行われ、その後、街中でパレードなどが開催されます。夜は宮廷では舞踏会が行われます。システィーナ様とマイラ様にはその舞踏会に参加していただきます。」
「はぁ…」
花祭りイベント…ダンスパーティ…
そういえば、エリオット様のイベントでもそんなのがあった気がする…!
「…つきましては、そのためのドレス選びとダンスレッスンをこれから行いたいと思いまして。」
「まあ、マイラ様はともかく、システィーナ様は公爵令嬢ですから、ダンスの方は問題ないと思いますが。」
マーカスはニッコリと黒い笑みを浮かべる。
「おほほ…」
それはどうでしょうねぇぇ…
マイラは4ループ目だから、なんてことないだろうけど、問題は私よねぇ〜
本物のシスティーナの記憶が身体に残ってればいいんだけど…
顔を青くして笑っている私を見てマーカスはいろいろと察し、
「それではダンスは明日からでも講師をお呼びしましょう。」
と粋な決断をしてくれた。
ナイスマーカスッ!!!
ドレスは侍女と相談して決めるということなので、マーカスが部屋から出て行った後に侍女達を振り返ると、既に目を輝かせながら「システィーナ様は絶対に赤が似合うから、そこは譲れない」だの「アクセサリーは金色か黄色のどっちがいいか」だの既に熱い論議が交わされていたので、それはそっくりそのまま三人に任せることにした…
ーーー
午後になり、私は久々にエリオットの部屋を訪れた。
コンコン
「はい…」
私はそっとドアを開けた。
エリオットは床に座り込んでルルと遊んでいたようだった。
さすがに執務の後ということで、髪の毛の跳ねは少しおさまっている。…とはいっても、所々ツンツンしてはいるのだが…
「…もういいんだ…?」
私の姿を見ると、関心のない表情で言った。
どこかで私が寝込んでいた話を聞いたらしい。
「はい、すっかり元気になりました!」
「そう…」
そう言うなり、また視線をルルに戻す。
「…ルルは元気になりましたか…?」
「…だいぶ。そろそろ外に戻しても大丈夫そう。」
ルルもエリオットの持っている毛糸で元気よく遊んでいる。
「…よかった…!」
私も心底ホッとして微笑む。
エリオットの隣に座ってルルを撫でる。
ルルは突然出てきた私の手に狙いを定めて飛びつき、アグアグと甘噛みし始めた。
「ふふっ可愛い…」
そんな様子をエリオットは無言で見守っていた。
ーーー
その後はまた調理場を借りてフィリスのためにカンパーニュの生地を練った。
今度は明日までしっかり発酵させる予定だ。
今回はスコーンの生地も作ってみた。
スコーンは初めて作ったけど、割と上手くできた。
よしよし、順調!
帰る頃には夕食の時間になっていたので、そのまま晩餐室で夕食を済ませてから部屋に戻ったところ、ドアの下の部分に手紙が挟まっていた。
「……手紙……?誰かしら……」
一瞬フィリスの顔がよぎったが、書いてあったのはエリオットの名前だった。
「……エリオット様から……っ!?」
意外な名前にびっくりして急いで手紙の中身を見る。
手紙の内容はシンプルだった。
『今夜22時過ぎに湯殿の間に来て。』
エリオットらしい細くて綺麗な字で書かれていた。
湯殿の間とは風呂場のことだ。
この屋敷には湯殿の間が一つだけあるので、みんな夜の時間にタイミングをずらしながら入るのである。
もちろん女性達も同じ場所を使う。
元々この屋敷は王子達のために作られた別邸なので、女性のための施設はないのだ。
女性陣が湯殿の間を使う時には、事前に侍女達が場所を確保して準備して待っていてくれるので、ダブルブッキングする恐れもない。
一方男性陣は、基本的に専属の侍女はついておらず、自分の身の回りのことは全て自分で行うので、お風呂も空いている時に一人で入っているようだ。
…それにしても、どうしてエリオット様から湯殿の間にお誘いなんか…?
先ほど部屋を訪れた時も晩餐室で食事をした時も、そのようなことは何も言ってなかったけれど…
…というか、食事中にエリオット様が喋っているのを見たことがないけど…
…あ!
もしかしてルルをお風呂に入れるのかな…?
そろそろ元気になってきたから外に出すって言ってたし。
体力が付いてきたところで一度お風呂に入れて、体をキレイにするつもりなのかもしれない。
なんだ、ルルのお風呂か〜!
わーい、楽しみ♪♪
私は侍女にお願いして、タオル2枚と短い寝間着を用意してもらった。
ついでに自分のお風呂も先に済ませておく。
約束の22時になったので、準備をして湯殿の間に向かう。
中からはお湯を使う音が聞こえた。
…あれ?もう先に始めてるのかな…?
まさか別の人が入ってるんじゃないよね…?
そう思って念のため脱いだ服を入れる箱を見てみるが、何も入っておらず、タオルが置いてあるだけだった。
よかった…
安心して中の扉を開ける。
……そこには裸のエリオットがいた……
「………」
「………」
………えっ!?
「ええぇぇえぇぇっ!!?」
目を見開いたエリオットが驚いた様子でこちらを見ていた。
「しししし失礼しましたぁーーーっ!!!」
勢いよくドアを閉める。
湯気で都合よく大事な部分は見えなかったものの、完全なる裸だった…
…どういうこと!!?
まさかあの格好でルルを…!?
…でも私のこと呼んだんだよね!?
…ってことは、服着てるとか着てないとか、そういうのあんまり気にしない人なのかな…?
だとしたら、せっかく待っててもらってたのに出てきちゃって悪かったかな…?
どうしようか迷った挙句に、再びドアを開けてみることにした。
「あの…エリオット様…」
「……っ!?」
エリオットは再び振り返ってギョッとした顔をする。
「あの…お手伝いに来たんですけど…」
「!?」
「何もないから出てって…!!」
少し声を荒げて言う。
「え、でも……」
バシャッ!!
顔にお湯をかけられた。
「…うぷ……っ!」
なんで〜〜!?
だって手紙くれたじゃん〜〜〜っ!!!
私は状況がよく分からないまま、濡れた服でトボトボと部屋へ戻った。
おっかしいなぁ……
手紙書いたこと忘れちゃったのかなぁ…?
濡れた寝間着を侍女に着替えさせてもらったところで部屋を誰かが激しくノックする。
ドンドンッ!!
「はーい!」
返事をしてドアを開けると
「おい、俺の服…!」
そこには上半身裸で腰にタオルを巻いたエリオットが立っていた。
「……っ!!?」
「ええええエリオット様っ!!!?」
突然のエリオットのあられもない姿での登場で、侍女達も慌てふためいている。
「一体どうなさったのですか!!!?」
「…お前、俺の服とっただろ!?」
「えっ!?服!?」
そういえば、湯殿にあった箱に服が入ってなかったことを思い出した…
「私が行った時には既に服は置いてありませんでしたが…」
「嘘をつくな!」
エリオットが顔を赤くして語気を強める。
「嘘なんてついてませんけど…」
システィーナも困惑した表情で答える。
「どうした!?」
そこへリードベルがやってきた。
エリオットの格好とシスティーナの顔を交互に見て眉根を寄せた。
あ…また絶対私のせいだと思ってるな、こいつ。
「…俺の服をこいつにとられた。」
エリオットが少し落ち着きを取り戻して言った。
それを聞いてリードベルがシスティーナを睨む。
「お前またか…っ!」
何がまただよ…!
お前こそ、またかよ…っ!!
「ちょうど俺も自分の剣がなくなって探していたところだ。」
「…お前の部屋、探らせてもらうぞ。」
そう言って、ズンズン私の部屋の奥に入っていく。
「ちょっとっ!!勝手に女性の部屋に入るなんて失礼よっ!!」
後ろから追いかけるが、リードベルは構わず私のクローゼットをガラガラと開けていく。
本っ当最低〜〜〜っ!!!
「そんな所にしまうわけないでしょっ!本当いい加減にし」
「あったぞ」
「…へ?」
リードベルが開けたクローゼットの中に、入れた覚えのない長剣とエリオットの服が入っていた…
「………っ!?」
「これはどういうことだ…?」
リードベルがシスティーナを睨み付ける。
私も訳がわからず侍女達を見遣るが、侍女達も顔を青くして首を横に振る。
……だよね……
「……私にもよく分かりません……」
正直に言った。
「ふざけるなっ!!」
こんな状況でふざけられるメンタル持ち合わせてないわっ!!
「…貴様はマイラをいじめるだけでは飽き足らず、盗みまで行うとは……とことん性根が腐っているようだな…」
リードベルが心底システィーナを蔑むような目で見下ろす。
マイラ…?
あ、マイラ…っ!!
それを聞いてすべてが繋がった。
そうか…またこれもあいつの仕業か……っ!!
「私は何もしておりませんっ!私は何者かに嵌められたのです!!」
「ふざけるなっ!!」
そう言って胸ぐらを掴まれて壁際にドンッと押しつけられる。
「げほっげほっ!」
いったぁ…!
もう暴力反対っ!!
ふざけるなって何回言うんだよ!ボキャブラなさ過ぎだろ!この脳みそ筋肉男がっ!!
隣で私の侍女にガウンを着せられたらしいエリオットまでもが、私に蔑みの目を向けてくる…
うぅ…私じゃないんですよ〜!そんな目で見ないで〜エリオット様ぁ〜っ!!
切ない…
私は肩を落として弁解する。
「…あなたの剣のことは存じ上げませんが、エリオット様の件については、今日の午後にご本人の名前が書かれた手紙を頂き、22時に湯殿の間に来るように言われたので伺ったまでです。」
「でも私が行った時には、既に箱の中に服はありませんでした。」
「そして、あなたの剣のことは知りません。」
大事なことなので2回言っといた。
「ふざけるな!そんな都合のいい言い訳が通用するか!!」
私だってそう思うけど、事実なんだよー!!
胸ぐらを掴んだ拳が胸にググッと食い込んで痛い…
ぐぅ……っ!
跡になったら覚えてろよなーーっ!!
「俺はそんな手紙出してない…」
エリオットが冷たく言い放つ。
「ほら見ろ!」
リードベルが強気に言う。
「で、でも本当にもらったんです…!」
私も負けじと食い下がる。
「だったらその手紙を見せてみろ。」
「もちろんいいですよ。その机の上にあるので…」
そう言ってベッドの脇のテーブルに目をやると…
「あれ…手紙がない…っ!?」
テーブルの上に置いておいたはずの手紙が跡形もなく消えていた。
侍女達も分からないようで、困惑の表情だ…
……うわぁあ……これはヤバい……
完全に嵌められた……
ここに来てようやくこの状況の悪さを理解して顔が青ざめる…
「………っ!!」
「ほら、やっぱりないじゃないか!適当なことを抜かすな…っ!!」
エリオットの視線も冷ややかだ…
ダメだ…完全に詰んだわ…
でも……
これだけは伝えなくては……っ、
「……仮に私が物を盗むような人間だったとしても…」
「!?」
「…エリオット様ならともかく、あんたの物なんか誰が盗むか!!お前こそ思いあがんなっ!!!」
「!!!」
シーーーーン
その場の全員が静まり返った…
あ、こいつ死んだなという雰囲気が流れた。
「な…」
「なんだと貴様ぁ…っ!!」
少し間を置いて、怒りを露わにしたリードベルが震える拳を上げた。
「なによ!?殴るの!?殴りたきゃ殴りなさいよっ!!どうせ最初からロクに調べもせずに私が犯人だって決め付けてたんでしょ!?もううんざりなのよ!あんたの態度にっ!!この脳みそ筋肉の差別野郎がっ!!」
カッとなったリードベルをなだめなくてはいけないのに、それどころか火に油を注ぐような言葉をおもわず言ってしまった。
それはもう春の小川のように、サラサラと自然と口から流れ出てきた。
もう完全に死んだわ、コイツ。という雰囲気の中、
「てめぇっ!!」
と更にカッとなったリードベルが拳を振り上げたので、システィーナは目をつぶって思い切り歯を食いしばって覚悟をした。
歯だけは折られませんように…!
歯だけは折られませんように…っ!!
「………」
……なに?まだ…
油断させたところを殴る計画……?
それとも走馬灯……?
それにしても間が長すぎる…
私は恐る恐る目を開けてみた…
するとそこには、リードベルの拳を握りしめるフィリスがいた…
「……何してるの……?」
その目は、見たこともないほど激しい怒りが溢れていた。
「レディに手をあげるだなんて、王子にあるまじき行為じゃないの…?それともあんたはまたそういう世界を作ろうとしてるの…?」
また…?
「……しかし、コイツは……」
「しかしじゃないよ、早くその汚い手を離して。」
フィリスの目が見開かれ、鋭く光る。
その顔は、これ以上抵抗したら何するか分からないと言った警告と狂気さを帯びていた。
リードベルもようやく冷静になり、システィーナの服を離す。
フィリスは解放された私の腕を引っ張り、守るように自分の背に隠した。
「何か問題があるなら、王子なら暴力ではなく話し合いで解決しなきゃ…」
「ねぇ、義兄さん?」
フィリスが深い笑みを浮かべる。
「そう…だな…」
脳みそ筋肉のリードベルは、フィリスに言いくるめられて何も言えなくなる。
ざまぁ。
胸ぐらを掴まれた辺りはまだジンジンと痛いけど、ちょっとだけ胸がスッとした…
そこへ執事のマーカスが登場し、詳細がはっきりするまでは、無闇にシスティーナを犯人だと決めつけないということで終わった。
リードベルはもの凄く不服そうな顔をして部屋を出て行った。
エリオットはいつの間にか服を回収していなくなっていた…
とりあえずその二人は、私が二人の私物を盗んだ犯人だと思い込んでいるようだった…
まあ、状況証拠的にも私が一番怪しいのだが…
というか、私しか怪しくない……
こんな状況で信じてくれと言う方が難しいのかもしれない…
はぁ…やってくれたな…あのマイラの奴…っ!!
よりによってエリオット様を巻き込むなんて…!
ルルの餌事件に続いて、本当許すまじ…っ!!
マーカスも「あなたは話題に耐えない人ですね…」
と不敵な笑みを浮かべながら去って行き、
部屋に残ったのはフィリスだけとなった…
「…また、とんだことになっちゃったね…」
フィリスは肩をすくめて笑う。
「…本当、頭が痛いですよ…」
「まさかリードベルの剣を盗むほど、彼のことが好きだったなんてね…」
「…だから、それは…っ!」
「“君の仕業じゃない”……でしょ?」
「……っ!?」
驚いてフィリスの顔を見上げる。
「……信じてくれるの……ですか…?」
「もちろん。」
「君がリードベルの剣を盗んだって、百害あって一利なしだもんね。エリオットの方は分からないけど。」
「そっちも違いますっ!!」
勢いよく否定する。
「ははっ分かってるよ。」
フィリスは綺麗な顔を綻ばせて笑った。
その顔に後ろの侍女達が息を呑んでいる。
…もう、からかわないでよっ!!
顔を赤くしてフィリスを恨めしそうに睨む。
「クスクス…可愛いなぁ…」
そう言って私を包むように抱きしめる。
「大丈夫…僕だけはいつでも君の味方だからね…」
ちょっ……っ!!!
「ちょっ…!フィリス様!今は侍女達が見ていますので…っ!!」
後ろで侍女達が色めき立っている。
「そうだね、次は二人きりの時にするね…」
フィリスが私の耳元で囁く。
ちっがーーっう!!
そういう意味じゃないっ!!
そんな意味で言ったんじゃない…っ!!
「それはともかく…!」
フィリスから離れて顔を見上げる。
「…先程は助けて頂いてありがとうございました…!」
スカートの裾を摘んで、ちょこんとカーテシーをする。
「気にしないで。さすがに女性への暴力プレイは見るに堪えないからね…」
とフィリスが素敵な笑みを振りまく。
…プレイではないと思うが…
「…それにしてもあのゲス女、やってくれたね…」
フィリスが途端に暗い表情で笑う。
げ、ゲス女って…
すごい言い得て妙だけど…
…フィリスは今回のことがマイラの仕業だと分かっているようだ…
「どうする…?」
フィリスが暗く妖しい顔で尋ねる。
ど、どうするとは……!?
殺っちゃう?的な!?
「……恐らく証拠となるような物は残していないと思われるので、いくら調べても皆さんを納得させるのは難しいと思います…」
「……このまま泣き寝入りするってこと…?」
「……そうなりますかね…とりあえず今は」
もちろん私だってずっと嵌められてばかりじゃいられない…
必ず反撃のチャンスを狙って、今までの汚名をすべて挽回するつもりだ…!
「…ふぅん、なんだつまんない…」
つまんないってあなた!
本当に何するつもりだったんですか…っ!!?
「とりあえず今日はもう遅いからそろそろ部屋に戻るね。」
「…不安なら今日も僕の部屋に泊まってくれてもいいけど?一緒のベッドで良ければ…」
そう言ってフィリスが妖艶な笑みを向ける。
「だ、大丈夫ですっ!!お気持ちだけで…っ!!」
別の不安要因が増えるだけなのでっ!!
「クス…そう、残念。」
フィリスは悪戯げな笑みを浮かべて、おやすみと言ってシスティーナの頬にキスをすると、そのまま部屋を出て行った。
システィーナはその瞬間、顔から火が出たように赤くなり、奇声を上げる侍女達に囲まれて、その夜は遅くまで質問攻めという名の女子トークに付き合わされるのだった…
明日はエリオット様にちゃんと話をしに行かないと…
そう人知れず心に決めた…




