領主の息子、全力でイキる
一方その頃。
レクドリア家にて。
「きゃはははははははははっ! 聞けよおまえら!」
領主の息子――レオン・レクドリアは、唾を吐き散らしながら大声を発した。
「俺様の授かったスキルは――《全魔法の使用可》だ! 出世は確実――国中の大賢者様でさえ、俺をスカウトしにくるだろうなぁ!! ひゃひゃひゃひゃ!!」
「…………」
レオンの話を黙って聞いているのは――領内でもとりわけ貧しい若者たちだ。
それも、本日のスキル信託で《外れスキル》を授かった者ばかり……
みなが絶望に陥っているなかで、レオンはいきなり彼らを招集にかけたのだ。
――自分の優越感を、満たすためだけに――
「ううう……!」
「ひどい……っ」
対して若者たちは、たったいま《外れスキル》を授かったばかり。両親の家計を助けることもできず、落ち込んでいる真っ只中に、レオンの自慢話を聞かされているわけだ。
もちろん、それを無視することもできない。
下手にレオンに逆らったら、両親がなにをされるかわからないからだ。
「あぁん……? なんだ、アルバートの奴ぁ来てねえのか?」
ふと、レオンが若者たちを見渡してそう言った。
「おいおいあの野郎、俺様の招集を無視しやがって……。いい度胸してるじゃねえかよ……!」
レオンにとって、アルバートは良くも悪くも特別だった。
端的に言うならば、アルバートだけはいじめ甲斐がないというべきか……
レオンがいくら意地悪を吹っかけても、アルバートだけはどこ吹く風。それよりも、どこか冷静に親の仕事を手伝っていたような……そんな気がするのだ。
だからレオンも、アルバートにはとりわけキツく当たっていたのだが……
「よぉし決定。あいつの家だけ税金倍だな。とことん絞り取ってやる……!」
ニヒヒヒヒヒ、と一人笑いを浮かべるレオンに、若者たちがぞっと鳥肌を立てた。
「おぉん……?」
そんな若者のひとりに、レオンが目を留める。
「なんだぁあんた。めちゃくちゃ可愛くね?」
「へ……?」
呼び止められた少女が、怯えたように身体を震わせる。
「そんな顔すんなよ。悪いようにはしねぇからさ。おめぇ、なんつう名前だ?」
「ユリシア……。ユリシア・カーノです……」
「ユリシア……。へぇ、聞いたことねぇな」
日頃から遊び呆けているレオンに、領民のことなどわかるわけもない。彼にとって領民たちは、自慢相手かいじめ相手にしかすぎないからだ。
「あ、あの……!」
そのユリシアが、意を決したように声を張った。
「いまの話、本当ですか……? アルバート君の家だけ、税金を上げるって……?」
「あん……? なんだおまえ、あいつの知り合い? まさか彼女ってわけじゃねえだろうなぁ?」
「い、いえ、彼女だなんてそんなっ」
慌てて頬を赤くするユリシアに――レオンは、身体の底から憎悪が込み上げてくるのを感じた。
アルバート・ヴァレスタイン。
あいつは貧乏人だし、スキルも貧相な落ちこぼれ。
そんな奴が女に惚れられているなんて――到底おかしい。
自分は第二王女と婚約しているほどの大物だ。であればこそ、すべての女が自分に惚れていないとおかしい……!
――はあ、そうなんですね。さすがはレオン様――
ふと、アルバートの冷たい反応が脳裏に蘇り。
「しゃらくせぇぇぇぇぇえええ!」
「きゃああっ!」
気づいたとき、レオンは思い切りユリシアの頬を叩いていた。
「ユリシア・カーノ……。その名、絶対忘れねぇ。おまえの家も税金二倍だ」
「っ! そんなっ、レオン様!」
「どけっ!」
「ああっ……!」
すがりついてくるユリシアを跳ね除け、レオンはその場を後にした。
――アルバート・ヴァレスタイン。
あいつだけは許さない。
近いうち、痛い目を見させてやる……!
ひとり、そう心に決めるレオンだった。
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