遥かなる高みへ
「なんだ、これは……!」
俺が目を見開いたのも束の間、身体の底から言い知れない力が湧き起こってきた。
ドォォォォォォォォォオオオオ! と。
他の誰でもない俺自身から、圧倒的なまでの暴風と轟音が鳴り響き。
周囲の瓦礫が。
魔物たちが。
いっせいに吹き飛ばされていった。
――――
【全自動レベルアップ】によってアルバートのレベルが急速に上がりました。
レベル:1000
攻撃力:譛?蠑キ譛?蠑キ譛?蠑キ
防御力:譛?蠑キ譛?蠑キ譛?蠑キ
魔法攻撃力:譛?蠑キ譛?蠑キ譛?蠑キ
魔法防御力:譛?蠑キ譛?蠑キ譛?蠑キ
速さ:譛?蠑キ譛?蠑キ譛?蠑キ
★「アドミニストレーター権限」を得ました。
管理者ツールの開放まで、しばらくお待ちください。
―――
「…………?」
どういうことだろうか。
各種ステータスがすべて「譛?蠑キ譛?蠑キ譛?蠑キ」になっているが、読み方がまったくわからない。
他にもアドミニストレーターやら管理者ツールやら、全然知らない言葉だらけなんだが。
「な……貴様。その変化は……!」
それに対し、遠間から魔王が驚きの声をあげる。
「そうか……! 貴様が忌々しきパルアの子孫かァ!」
なんと。魔王は俺の祖先の名を知っているらしい。
絶叫をあげつつ、俺に向けて駆け出そうとするが――
「させないわ!」
エリの会心の剣撃が、魔王の背中に直撃。
横一文字に薙ぎ払われた剣先が、見事に魔王の身体を捉えた。
「ぬうっ……! おのれ、小賢しい人間めがッ……!」
いかに魔王といえど、さすがにSランク冒険者の剣撃は痛いようだな。
怒り狂ったように目を血走らせながら、エリに攻撃の標的を定める。
――が。
「ぬおおおおおおおおおおああああっ‼」
この隙を見逃さないのが、歴戦の戦士たるバルフレイだ。
魔王に生じた動揺を的確に見抜き、魔王を背後から羽交い絞めにする。
「いまだアルバート‼ 攻撃だ!」
「はいっ……!」
勢いよく雄叫びをあげると、俺は魔王に向けて疾駆【しっく】する。
さっきまで恐ろしくて仕方なかった魔王だが――いまは、不思議と恐怖心が湧き起こってこない。
ただただ、はるかなる高みからいまの状況を俯瞰【ふかん】しているような。
そんな静かな感情だけが、俺のなかに広がっていた。
「おのれ人間めがぁぁぁぁぁぁぁあ! 調子に乗るでないぞ!」
魔王も絶叫をあげると、羽交い絞めをしていたバルフレイに向けて、強烈な裏肘を敢行。
「ぐおっ……!」
たまらず吹き飛んだバルフレイを尻目に、魔王はなにもなかった空間から闇色の大剣を出現させた。
紅と闇のエネルギーが刀身全体に迸【ほとばし】っており、一目で殺傷力の高さが伝わってくるような――そんな禍々しい大剣であった。
「小賢しいパルアの子孫めが! これにて死ぬがよい!」
その大剣を、突進している俺に向けて振り下ろす魔王だったが。
「なにっ……⁉」
今度は魔王が面食らう番となった。
「馬鹿な……! 我が聖魔剣を、指二本で……⁉」
――そう。
魔王が超スピードで繰り出してきた剣撃を、俺は指二本で受け止めていた。人差し指と中指で、刀身そのものを挟んでいる形である。
「ありえぬ……! これは人の身に触れているだけで、その生気を奪い尽くす聖魔剣だぞ……⁉」
「それが俺には効かない。それだけのことじゃないのか」
「ぬっ……!」
魔王は忌々しそうな表情を浮かべると、そのままバックステップを敢行。
いったん俺との距離を取ると、再び超高速で突進してきた。心なしか先ほどより速いのを見ると、そのぶん本気を出してきているのかもしれない。
だが、それでも関係ない。
魔王が繰り出してくる剣撃の数々を、俺は指二本だけですべて受け止めてみせた。
さっきと比べて、魔王の攻撃が止まって見えるというべきか――いまの俺にとって、奴の攻撃を受けきることは容易だった。
もちろん、それで油断するつもりは毛頭ない。
いかなるときも冷静に謙虚に……目の前の戦いに集中する。
剣聖と名高いパルア・ヴァレスタインの教えが、頭のなかで響いているようだった。
(これが、神域覚醒ってやつか……)
俺自身、どうして自分がこんなに強くなっているのかまではわからない。
ただこの【全自動レベルアップ】が、後世のために遺されたものであるというのなら。魔王が暴れているこの状況は、絶対に止めなければならない。
「な……なぜだっ! なぜ効かんッ!」
焦ったように剣を振るい続ける魔王。
「貴様は……貴様らはまた、レベルという概念すら超越するつもりなのか⁉」
「レベルという概念を超越……?」
なにやら尋常でない言葉が出てきたが、いまはそれに捉われている場合ではない。
相手は魔王だ。
いまは善戦できているとはいっても、その均衡がいつ崩れるかはわからない。
有利に立ち回れているいまのうちに、すぐにでも決着をつけなくては――!
「だぁぁぁあああっ!」
叫び声とともに振り下ろされた魔王の剣を、俺は紙一重でかわす。
攻撃をすかしたあとの、一瞬の隙。
俺はそれを見逃すことなく、パルアから授かった聖剣レヴァスタインを引き抜き。
――ヴァレス流、一の型。
――無限千光刃【むげんせんこうじん】‼
大きな雄叫びをあげながら、最高の一撃を魔王に見舞うのだった。
本作が10/7、いよいよ書籍化いたします!
番外編ではアルバートとルリスが温泉に行っています。
超面白くなるように書きましたので、ぜひお手に取りくださいませ!
下に表紙絵もありまして、クリックで商品紹介ページに飛べます。
よろしくお願い致します!