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アドミニストレーター


「…………」


 ここにきて初めて、俺は自分の甘さを呪った。


 ――全自動レベルアップ。


 最初こそ外れスキルだと思ったが、蓋を開けてみれば最強にも等しいスキルで。

 デスワームやブラックタイガーを代表とする強敵たちにも、このスキルのおかげで乗り越えることができた。


 だから今回も、なんとか戦いにはなると思っていたが……まるで詰めが甘かった。


 伝承で語り継がれる魔王の前には、いかに【全自動レベルアップ】を用いても、敵うわけがなかったのだ。


「フフフ……ソノ程度カナ?」


 レオン改め魔王ベルファルトは、醜悪な笑みとともに俺ににじり寄ってくる。

 さっきまでは理性の欠片もない叫び声をあげているのみだったが、すこしずつ知能が身につきつつあるようだな。


 いや――正確には、レオンが魔王に呑み込まれ始めていると言うべきか。


 いわく、存在するだけでこの世のすべてを破壊し尽くす魔王。

 いわく、その存在そのものが災厄となる魔王。


 そんな史上最悪の化け物が、俺の目の前に立ちふさがっていた。


「マダ諦めるニハ早イノデハナイカナ? 人間よ」


 そう言うなり、魔王は俺の首を掴み上げると。

 そのまま力づくで、宙に持ち上げた。


「く……ぉ……!」


 ――息もできず、助けを求めることもできず。

 器官が潰されるかのような激痛に、俺は両足をジタバタさせるしかなかった。


「ぬぉおおお……!」


「ケハハハ、いいねいいね! その苦しソウな表情、最高ダヨ……!」


「く……そ……」


 俺は……ここまでなのか。


 せっかく勇者になったのに。

 せっかくフェミア街のみんなを救えると思ったのに。

 俺が魔王を倒そうとするなんて……結局、夢物語だったのか。


 ――だから……絶対に死なないで。生きて帰ってね――



 絶望に染まりきった俺の脳裏に、ふいにルリスの言葉が蘇った。



 ――違うわよ。設定なんて関係ない――


 ――正真正銘、私はあなたのことが好き。だから戻ってきてほしい。……ただ、それだけなの……――


「ル……リス……」


 ひょんなことから始まった、《仮初の恋人》の関係。


 けれどその関係はいつしか仮初ではなくなり。

 俺の心には、いつしかある感情が芽生えていたのだった。


 守りたい。

 学もなくて、たいした経歴もなくて……こんな空っぽな俺だけれど。


 それでも人ひとりくらいは、この手で守ってみたいと。


 きっとかつての剣聖パルア・ヴァレスタインも同じ気持ちだったのだろうかと、とりとめのない思考が浮かんだ――そのとき。


「ぬおおおおおおおおっ‼」


 絶叫をあげ、こちらに突進してきた人物がいた。


 ――バルフレイ・シュガーマ。

 彼自身も深手を負ったはずだが、さすがは勇者というべきか。


 バルフレイ渾身の突進により、魔王は小さく吹き飛んでいった。


「アルバート! 無事か……⁉」


 そして地面に落ちかけた俺を、バルフレイが優しく受け止める。


「こ……ほ、こほ。すみません。お手数おかけします……!」


「よかった……。無事なようだな……!」


 そう言って、バルフレイはポーションを俺の口に流し込んだ。


 エリクサーほどの即効性はないが、少しずつ体力を回復させてくれる万能薬だな。


 数秒後……俺はなんとか立ち上がれるくらいには立ち直ることができた。


「すみません、助かりました……」


「いやいや、無理もない。あの突き抜けた強さは……さすがに私も予想外だったからな」


 そう言いつつ、バルフレイは魔王の飛んでいった方向を見やる。


 残念ながら――いまの突進もほとんど効いていないっぽいな。瓦礫のなかを、魔王はさもなんでもなかったかのように立ち上がっている。


 バルフレイも歴戦の戦士であるはずなのに、この圧倒的な戦力差。


 さすがに絶望を感じてしまうな。


 だが――もちろん諦めるつもりは毛頭ない。


 俺が勇者になったのは、そもそもここフェミア街を守るためだ。こんなところで諦めてしまっていては――笑い話である。


「ふふ……。良い目をしておるな、アルバートよ」

 そんな俺に向けて、バルフレイがふっと笑みを浮かべる。

「その意気だ。いかに絶望的な状況であろうとも、できるだけ喰らいつく……。それが私たち《勇者》の務めだ」


「――もちろん、私にも助太刀させてください!」


 再び聞き覚えのある声が響きわたり、俺はまたしても肩を竦ませる。


 考えるまでもない。この声の主は――


「エ、エリさん……!」


 ぎょっと目を見開く俺に対し、エリは「あはは」と言って後頭部を掻いた。


「ごめんなさい。やっと応援の冒険者たちが駆け付けてくれまして……くるのが遅くなってしまいました」


「…………」


 まるで《来るのが当たり前》だとでも言いたげな様子に、俺は驚きを隠せない。


 言うまでもなく、魔王はこれまで以上に危険な相手。


 下手したら一瞬で命を奪われかねないほどの強敵だ。


 それでもこうして駆けつけてくれるなんて……こんなにも頼もしいことがあるだろうか。


「大丈夫です。|魔王【あいつ】の強さは私も見てましたけど……私たちが力を合わせれば、きっと勝てるはずです。だから一緒に頑張りましょう」


「ククク、ははは。それは聞き捨てならぬな。この私を、貴様らごときが倒せると?」


 魔王はゆっくりこちらに歩み寄りながら、大きく両腕を左右に広げる。


 その気になればいつでも俺たちを攻撃できるはずなのに、それをしないということは――まさか遊んでいるのか。


「ならば思い知らせてやろう! 貴様らが行おうとしていることが……いかに無謀なことであるかをな!」


 そして次の瞬間。

 魔王の全身から、見るもおぞましいエネルギーが続々と放たれた。


 ドォォォォォオオオオオ! と。


 魔王の放つオーラそのものが漆黒の雷となり、周囲の建造物に襲いかかっていく。その雷に巻き込まれた建物たちが、瓦礫の山に姿を変えていく。


 まさに化け物。

 存在しているだけで街そのものを破壊しかねないほどの、恐るべき存在である。


「あはは……。あれはさすがにやばいわね……!」

 さすがのエリも一瞬だけ恐怖を感じたようだが、すぐに決意のこもった表情に戻る。

「アルバートさん。実は私にひとつだけ……考えがあります」


「え……? 考えですか?」


「ええ。ユーマオスはさっき、《負の感情》が魔王の糧になると言ってました。であれば、それと逆のものをぶつければ……きっと魔王だけにダメージを与えられるかもしれません」


「それと逆のもの……」


《負の感情》が怒りや憎悪などのネガティブな思考なのであれば、《正の感情》はそれとは逆……。喜びや幸せといった、ポジティブな思考ということか。


「うむ。その見立てで合っているだろう」

 バルフレイも一歩前に踏み出しながら、決然たる表情で言った。

「旧【ふる】き伝承にも記されている。人々の心がひとつになったとき、魔王の力は徐々に弱体化していったとな」


「なるほど……。人々の心をひとつに……」


「ああ。ここフェミア街の人々にとっての希望は、私でもエリ殿でもない。この街で生まれ育ち、この街の人々とともに苦楽をともにしてきた……アルバート。そなただけだ」


「あ…………」


 そうだ。

 そうだよな。

 俺はずっと願い続けてきたはずだ。


 両親の幸せを。フェミア街の幸せを。みんなが希望を持って、明日を迎えられるということを。


「アルバートよ。私とエリ殿とで魔王の隙を作る。トドメの一撃は……頼んだぞ」


「は、はい……!」


 俺の返事に、バルフレイは頼もしく親指を立てると。


 超スピードでもって、魔王に突っ込んでいった。


 数秒遅れてエリが突進し、二人して勇敢に魔王に戦いを挑んでいる。


 下手すれば自分の命が危ないのに、本当にすごい人たちだよな。


「ハハハ、愚か者めが! この私に勝てると思っているのか⁉」


 だが恐ろしいことに、魔王の強さはその上をいっていた。

 猛攻を仕掛ける二人に対し、魔王は一歩も引くことはない。


「ぐおっ!」

「ああっ!」


 バルフレイは魔王の右手に。

 エリは魔王の左手に。


 それぞれ腹部に強烈な殴打を見舞われ、大きく吹き飛んでいってしまう。


「まだまだ……っ!」

「諦めませんっ……!」


 それでも必死に立ち上がり、果敢に魔王に剣撃を差し込もうとする二人。


 いまだに一撃も当てられてはいないが、懸命に戦いを繰り広げるバルフレイとエリは、魔王よりも強く見えた。


 それだけじゃない。


 ――頑張れ、頑張れ!

 ――私たちのフェミア街を、どうか守ってください……!

 ――応援していますよ……!


 なぜだろう。


 フェミア街の人々の思いが。

 両親の思いが。

 ユリシアの思いが。


 それぞれいっせいに、俺の胸に届いてきている気がした。


「これが……《正の感情》……?」


 俺がそう呟いた――その瞬間。


――――


 ★レベルが1000に達しました。


 神域覚醒します。神域覚醒します。


 1000レベルになったことで、アルバート・ヴァレスタインは「アドミニストレーター権限」を得ました。


――――



本作が10/7、いよいよ書籍化いたします!


番外編ではアルバートとルリスが温泉に行っています。

超面白くなるように書きましたので、ぜひお手に取りくださいませ!


下に表紙絵もありまして、クリックで商品紹介ページに飛べます。

よろしくお願い致します!

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