一生遊んで暮らせる金
「は……?」
いきなり呼び止められ、俺は困惑する。
この人は……さっき俺が助けた少女か。
やっぱりなんか、かなり身分の高そうな人だな。
見るからに高価そうな服を身につけているし、綺麗に透き通った金髪は、普段のケアをしっかり行っていることを想起させる。
さらにスタイルも抜群に良く、特に大きな胸部に目が……
って、いかんいかん。
そうじゃない。
「あなたは……逃げろと言ったじゃないですか。どうしてこんなところに……」
「いいえ。逃げるわけにはまいりません。それが私の使命ですから」
は……? 使命?
訳がわからんのだが。
しかもやはりこの少女……どこかで見たことあるんだよな。俺に女の子の知り合いはいないし、そんなはずはないんだが。
「アルバート・ヴァレスタインさん。あなたはきっと、我が国を救ってくださる《救世主》でありましょう。どうか王城に来ていただき、国王様にお会いしていただけませんか?」
「…………は?」
少女の言葉を、俺はなかば思考停止状態で聞いていた。
救世主? 国王様?
いったいなにを言ってるんだ、この女は。
(ちょ、アルバート様)
先ほどの冒険者が、俺の腰を突っついてきた。なぜか《様付け》されているようだが――そこに突っ込みを入れる前に、とんでもない発言が耳に飛び込んできた。
(そのお方はレベルオン王国の第二王女様……ルリス・ラ・レべルオン様ですよ。まだ表にはあまり出ていませんから、知らないのも無理はありませんが)
「へっ……?」
おい。
おいおいおいおい。
嘘だろ?
この少女は王族で、しかも第二王女?
そんな話、いきなり信じられるわけがないじゃないか。
(ちょっと待ってください。本当に王女様だったら、なんでこんなところにお一人でいらっしゃるんですか?)
小声で訊ね返す俺に、冒険者も同じく小声で応じてくれた。
(おひとりではありません。護衛の兵士たちもいたのですが、デスワームにやられてしまいまして……)
(えっ……)
そうか。
たしかに巨大ミミズ――否、デスワームと戦う前、動かなくなった男たちを見た気がする。
あれがまさか王女の護衛だったってことか……?
王女の護衛を務めるくらいだから、相応の実力者だとは思うんだが……。
ってことはまさか本当に、たかがミミズではなかったということか。
いや。いま考えるのはよそう。
目の前にいるのが本当に王女様だとしたら……ひとりでウジウジ考えている場合ではない。
「あ、あのー。ルリス様? 王城に招待するっていうのは、どういう……?」
「決まっているではありませんか。王国を救済する勇者様として、あなたをもてなすんです」
「ゆ、勇者……!?」
今度こそぎょっと目を見開く俺。
「な、なにをおっしゃるんですか……! こんな俺が、勇者なんか務まるわけないでしょう」
――勇者。
それは強者だけに与えられる称号であり、王国最高の名誉とされている。
それこそ「バレス兄さん」や「ネーニャ姉さん」でさえ軽く飛び越してしまうほどの、驚くほど名誉な称号なのだ。
もちろんそれだけに、多くの危険が伴う。
最近なぜか大量発生している魔物と戦ったり、その元凶と噂されている“魔王”なる存在の調査したり……
常に死と隣合わせともいえるのだ。
そして言うまでもなく、報酬も王国で最大級。
一生遊んで暮らせるほどの、莫大な報酬をもらえると聞いたことがある。
だからいまのルリスの発言は、本当に突拍子もないことだ。こんな戦闘経験もない俺を、名誉ある勇者に抜擢しようというのだから。
しかもたしか、現代の王国では、勇者は三人ほどしかいなかった気がする。
そんな名誉な称号なんて……もらえるわけがない。
お読みくださり、ありがとうございます!
今後の更新のモチベーションにもなりますので、ぜひ【評価】と【ブックマーク登録】をお願い致します……!
評価はこのページの下(広告の下)にある「☆☆☆☆☆」の箇所を押していただければ行えます。
数秒の操作で終わりますので、少しでも面白いと感じていただけましたら、【評価】してくださいますととても嬉しいです!
よろしくお願いします……!