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あと一歩

後書きに重要なお知らせがあります!

 不幸中の幸いというべきか、住人の死体を見ることは一度もなかった。


「あ、ありがとう……。アルバートさん……」

「いえいえ、あなたも無事でよかった……」


 そう言いながら、俺は腰を抜かしたままの少女に手を差し伸べる。


 魔物に取り囲まれていたところを、俺たちがすんでのところで駆け付けた形だな。


 ここ近辺に大勢の魔物は棲息していなかったはずだが――それもまた、以前のように《瞬間移動》でもしてきているのか。


「本当に……強くなっちゃって。勇者になったっていう噂は、本当だったのね……」


「はは……。いえいえ」


 後頭部を掻きながら、ほっと息をつく俺。


 あまりにも巨大な火柱が上がっていたものだから、街が跡形もなく崩壊しているのかと心配したが。


 現時点においては、そこまで考える必要はなさそうだ。

 周囲にも生存者の気配がちらほらあるし、みんな無事、うまいこと身を隠しているようである。


 ――そう。

 長い間ユーマオスの圧政で苦しんできた俺たちが、こんな簡単に負けるわけがないんだ。


「あっちのほうに、Sランクの冒険者が避難誘導しています。どうか早いうちに……避難してください」


 そう言って俺が手差しする先には――Sランク冒険者のエリ・ファーラス。


 戦線は俺とバルフレイに任せて、彼女も避難誘導を行ってくれている形だな。

 各所に手強そうな魔物が出没している関係上、中堅の冒険者たちもほとんど負傷しているのが現状だ。


「うん……。わかった」

 少女はそう言って俺の片手を強く握ると、なぜか頬を赤く染めながら言った。

「私、見直したよ。アルバートさんがこんなにかっこよくなるなんて……。絶対、生きて帰ってね」


「はい……。もちろんです」


 俺の返答に、少女はこくりと頷くと。

 避難誘導を行っているエリのもとに、一目散に駆けていった。




  ★



 ――フェミア街。


 バルフレイいわく、そこは「隠された歴史」の多い場所らしい。


 初代国王とともに戦場を駆け抜け、絶大なる功績を遺したという《剣聖》。その《剣聖》がフェミア街の出身だということはわかっているが、では誰が《剣聖》なのか――歴史では公にされていない。


 さらにもうひとつ。

 なんとこのフェミア街こそが、かつて魔王が打ち倒された場所だという。


《剣聖》に滅ぼされ、もう蘇ることがないよう、地下深くに封印された場所。


 それがこのフェミア街であると、道中でバルフレイが教えてくれた。


 ユーマオスがこの地で圧政を築いていたのは、きっとこのためなんだろう。魔王が封印されているこの地で、《負の感情》を集め続け。


 誰にも気づかれず、着々と――魔王復活のときを狙っていたに違いない。


 それもすべて、レベルオン王国そのものに復讐するために。


「アル、バート……! アルバー……ト……‼」


 そしておそらく、その魔王復活の最後のきっかけになったのが「彼」なんだろう。


 領主の息子にして、昔から俺にちょっかいをかけてきた幼馴染――


 ――レオン・レクドリア。


「アルバート……! アルバートォォォォォオオオオ……!」


 禍々しいオーラに包まれたレオンは、しかし完全に理性をなくしているようだった。


 茶色のおかっぱ頭だったはずの髪型は、おぞましい闇色に染まりきり。悪戯っぽかったはずの目は真紅に染まっている。


 ――まさに魔王。

 伝承に残された魔王のように、見境なく暴れまわっている。


「なるほど……」

 叫び声を上げ続けるレオンに対し、バルフレイは苦々しい表情を浮かべて言った。

「ユーマオスの言っていた《負の感情に囚われた傀儡》というのは……レオン殿のことだったか」


「ええ。……そのようですね」


 どこからどう見ても、いまのレオンは普通ではない。


 それはまさしく、魔王に憑依されているというべきか。


 ユーマオスが失脚したことで、あいつの精神はズタボロになった。おそらく、そこに付け入る隙があったのだと思われる。


 それを思えば、昨日ユーマオスが拘束されたのも狙ってのことだったのかもしれない。


 侯爵家という後ろ盾を失ったことで、レオンの地位は文字通り崩壊寸前だった。

 まさしく大きな《負の感情》を抱くにはうってつけの人材だったわけだ。


 仮にも自分の息子に対して酷すぎる仕打ちであるが、あのユーマオスのことだ。たとえ血の繋がった息子であろうとも、なんとも思っていない可能性がある。


「ッァァァァァァァァァァァァァァァアアア!」

 かくしてレオンは魔王となり、故郷たるフェミア街を壊滅させることになってしまった。

「アルバート! アルバートォ……!」


「くっ……!」


 そしてどういうわけか、俺は昔からレオンに嫌われていた。


 先日ユーマオスを捕らえたことも含めて、相当に憎悪を抱かれているのは想像に難くない。


「アルバート……。アルバァァァァァト!」


 そう叫ぶレオン――否、魔王の瞳が……ぴたと、俺に据えられた。


 ――来る!

 俺がかっと目を見開いたのも束の間、魔王がその場から消えた。


 そして瞬きを終えた頃には、なんと目前に迫ってきているではないか。


「なっ……!」


 慌てて剣を抜こうとするが、さすがに間に合わない。


「ダァァァァァァァァァァァァァアアッ!」


「ぐおっ……!」


 理性の欠片も感じられない、本能に身を任せたような殴打。


 それは異次元ともいえる速度と重量で、俺の腹部に襲いかかってきた。


 鋭い激痛が全身を襲い、俺はなすすべもなく後方に吹き飛ばされる。


 そのまま民家の壁面にぶつからなければ、はるか遠くまで飛んでいってしまうところだった。


「アルバート‼」


 絶叫をあげるバルフレイだが、ここで冷静さを失わないのはさすがというべきか。


 まずは剣を引き抜き、高速で魔王との距離を縮めるが。


「キカヌナ……」


「な、に……⁉」


 刀身が首筋に直撃したにもかかわらず、魔王はどこ吹く風。


「我は魔王……。人間ゴトキの攻撃ナド、通じはセヌ……!」


 そう言いながら、魔王はバルフレイの右肩に殴打を敢行。

 ゴキッという破砕音とともに、バルフレイも激しく後方に吹き飛んでいってしまった。


「う、嘘だろ……」


 壁面にもたれかかったまま、俺は掠れた声を発してしまう。


 あれが……復活した魔王か。

 さすがに常軌を逸しているぞ……!


「スキル発動……【鑑定】」


 ぼそりと呟き、俺はレオンのステータスを確認する。


 そして次の瞬間に浮かんできた数字の列に、俺は絶望せざるを得ないのだった。



 ――


 魔王ベルファルト  鑑定結果



 レベル:2356


 攻撃力:325021

 防御力:221742

 魔法攻撃力:618054

 魔法防御力:716073

 速さ:512093


★管理者が一柱。これといった弱点はなし。


――



「う、嘘だろ……?」


 これはあまりにも絶望的すぎる。

 俺よりもはるかにレベルが高いし、各種ステータスも桁違いだ。


 これでは……勝てない。


――――


【全自動レベルアップ】によってアルバートのレベルが急速に上がりました。



 レベル:999


 攻撃力:81034

 防御力:70902

 魔法攻撃力:73921

 魔法防御力:62709

 速さ:98532


神域覚醒まで:あと1


 使用可能なスキル一覧


  ・【鑑定】

  ・【闇属性魔法】


―――


本作が10/7、いよいよ書籍化いたします!

番外編ではアルバートとルリスが温泉に行っています。


超面白くなるように書きましたので、ぜひお手に取りくださいませ!


下に表紙絵もありますので、よろしくお願い致します!

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