勇者として
後には静寂だけが残された。
俺も……そして他のメンバーも、なにも言わない。
ただただ、遠くで立ち上っている火柱を眺めるのみだった。
――あの火柱が上がっている場所こそが……まさしくフェミア街だ――
先ほどユーマオスが発していた言葉が胸に突き刺さる。ずっとレクドリア家に虐げられ、それでも日々を懸命に生きてきた父さん。外れスキルを授かってもなお、明るい表情で俺を受け入れてくれた母さん。
そして幼い頃から苦楽をともにしてきたユリシア。
他にも知り合いは沢山いる。
その全員が、あの炎のなかに呑み込まれたと――
「あ……あの。アルバート……」
そんな俺に向けて、後ろからルリスに声をかけられた。
「え……と、フェミア街にはいまから軍を派遣するわ。急ぎで行ってもらうから、だから……」
「ありがとう……ルリス。でも大丈夫だ」
「え……?」
――俺は勇者になった。
もちろん最初のうちは戸惑いしかなかったし、こんな俺に勇者が務まるのかと不安にもなった。
だけど。
俺はずっと、夢見てきたはずだ。
フェミア街のみんなが、平和な毎日を送っていることを。
父や母とともに、将来を心配することのない、明るい日々を過ごしていることを。
――だったら。
ここで立ち上がらずして、なにが勇者だろうか。
「俺も行く。魔王だかなんだか知らないが……みんなで力を合わせれば、きっと勝てるはずだ」
「ア、アルバート……」
「うむ。よくぞ言ったアルバート。それでこそ勇者だ」
そう言ってきたのは歴戦の戦士バルフレイ。
「まだ街の状況が詳しくわかっていない以上、悲観しているのも違うだろう。各地にいる勇者らも集め、至急、蘇ったという魔王を討伐しにいこう」
「はい……!」
父さん。母さん。ユリシア。
俺が必ず助けにいく。
どうか、どうか無事でいてくれよ……!
そんな決意とともに、俺は自身の両頬を叩くのだった。
★
「こ、これは……!」
フェミア街に到着した俺は、思わずその場に立ち尽くしてしまった。
――地獄絵図。
そうとしか表現できない大惨事が、目の前に広がっていたからだ。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ……‼」
「だ、誰か、助けてくれぇえええ……!」
人々の悲鳴が、叫び声が、助けを求める声が。
街のそこかしこから聞こえてくる。
各所で火柱もあがっていることから、被害を受けているのは町民だけではない。
俺が半生をともにしてきたフェミア街は――見るも無残な《火の海》になっていた。
「くっ……!」
無意識のうちに、両の拳を強く握り締めてしまう。
「父さん、母さん、ユリシア……!」
先に冒険者や軍関係者らが駆け付けているはずだが、この分ではまともに機能していないっぽいな。
地面のあちこちで剣士らしき男たちが倒れていることからも、それこそ大勢の戦士たちがやられてしまったんだろう。
「ひ、ひどい……」
同じく馬車を降り立ったエリも、自身の口元を覆って絶句している。
「まさか……これほどとはな……」
バルフレイも同様の感想を抱いているようだな。
いままで多くの経験を積んできたはずの剣士でさえ、フェミア街の惨状には言葉が浮かばないようだ。
「…………」
だが、かといって怯んではいられない。
俺は勇者。
大事な故郷を守れずして、なにが勇者だというのか……!
「ルリス。やっぱりここは危険だ。ここから遠く離れて……みんなの避難誘導を頼めるか」
「うん、もちろんよ」
馬車の窓から、ルリスが顔だけを覗かせてきた。
王族が来るにはあまりにも危険すぎる場所だが、だからといってルリスも引くことはなく。せめてできることはやりたいと、避難誘導役を買って出てくれたわけだな。
「もし、アルバートのご両親らしき人を見かけたら教えるから。だから……絶対に死なないで。生きて帰ってね」
「ああ……。もちろんさ」
ルリスの切なそうな表情に対し、俺は親指を立てて返事をする。
――違うわよ。設定なんて関係ない――
――正真正銘、私はあなたのことが好き。だから戻ってきてほしい。……ただ、それだけなの……――
つい先日、ルリスから想いを告げられたことを思い出す。
相手が誰であろうと関係ない。
彼女のためにも。両親や幼馴染のためにも。そして街のみんなのためにも。
ここは絶対、引いていられない――!
「行きましょう、皆さん。相手は手強いですが、俺たちならきっと勝てます。どうか力を貸してください……!」
「はいっ!」
「ふ、任せるがよい……!」
頼もしい返事をする二人だった。
――――
【全自動レベルアップ】によってアルバートのレベルが急速に上がりました。
レベル:902
攻撃力:80002
防御力:70032
魔法攻撃力:73221
魔法防御力:61983
速さ:97632
神域覚醒まで:あと88
使用可能なスキル一覧
・【鑑定】
・【闇属性魔法】
★覚醒の時に入っています。
平常時よりレベルアップの速度が増しています――
―――
※新作投稿しました!
外れスキル《0ターンキル》で、俺は戦う前から勝利する ~ゴミスキル扱いされて実家を追放されたけど、これは敵を即死させる最強スキルでした。世界を創った女神に溺愛されていて今更戻れない~
https://ncode.syosetu.com/n2390hu/
かなり力を入れて書いていますので、ぜひお越しください……!