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レグドリア家の失墜

 一方、その頃――


「くそったれが……‼」


 ひとり家についたレオン・レクドリアは、周囲に悪態を撒き散らしながら自宅に戻った。


「レ、レオン様……?」

「い、いったいどうされたのですか……⁉ 護衛の者がついていたはずでは……?」


 屋敷の出入り口の両脇で、見張りの兵士に声をかけられる。


 こちらの様子を心配してくれているだろうが……正直、大きなお世話でしかない。


「うるせぇっ!」


「お、おおっ!」

「レオン様⁉」


 レオンは兵士たちを突き飛ばすと、そのままふらつく足取りで屋敷に入る。


 本音を言えば、もう他人のことを考えている余裕はなかった。


 昨夜の事件が終わったあとは、ひとまず護衛たちと近隣の宿に泊まり。

 そして翌朝、その二人を置いて――レオンひとりで宿を出た。


 ……耐えられなかったのだ。


 ユーマオスが失脚する可能性が高い現在、レオンの立場はとても危ない。護衛の剣士たちも、どこか複雑そうな態度でレオンと接してきたことが……彼のプライドを、ことごとく傷つけたのだ。


「くそ、アルバートの馬鹿野郎……! 余計なことをしやがって……‼」


 なかば八つ当たりのように、レオンは自室の椅子を蹴っ飛ばす。


 バリィィィィィン! と。

 騒音とともに部屋のなかが荒れ果ててしまったが、もはやそれにさえかまっていられない。


「あいつが余計なことしなきゃ……! あいつさえ、この世から消え去ってしまえば……!」


 アルバート……

 アルバート……

 アルバート……‼


 その名が脳内に浮かぶ度に、たとえようのない憎悪が込み上げてくる。


 第二王女たるルリスと結婚さえできてしまえば、あんな奴、簡単に国外追放にでもできるのだが。


 本当に父が謎の事件に関わっていたとすれば、レクドリア家の信用も地に堕ちる。そうなってしまえばもう、結婚どころの話ではなくなる。そしてそれは、あのアルバートに一生復讐できないことを意味する。


 それだけは阻止せねばならない。絶対に。


「そうだ……父上の、部屋に……」


 そしてふと、レオンは|あること【・・・・】を思い出す。


 普段はほとんど屋敷にいない父だが、屋敷にいるときは決まって、自身の書斎にこもっていたのだ。なにやら国家機密に関わるほどの重大な書類があるらしく……息子のレオンですら、その書斎には一度も入ったことがない。


 ――いや。それだけではない。


 その書斎のみならず、レオンは父のことをなにも知らなかった。


 ほとんど召使いによって育てられ、なんでも言うことを聞いてくれる人に囲まれて。《全魔法の使用可》という最強スキルを授かっても、父はほとんど無反応だった。


 そう。

 息子のレオンのことよりも、書斎にこもることのほうが大事みたいに。


「父上……」


 この書斎の内部がどうなっているのか、レオンはなにも知らない。


 だが幼い頃、父が一度だけ話してくれたことがあり――それによると、書斎には王国そのものを左右しかねないほどの情報が眠っているとのこと。


 これだけ聞けば大げさな話だが、レオンはそれを嘘ではないと思っている。あの父は、下らない話や冗談をなによりも嫌う男だった。


 そんな父が言うことだ。


 たぶん――いや、絶対に大事な情報が眠っているはずだ。

 そこまでの思索を巡らせたレオンは、荒れた自室を後回しにして……父の書斎に向かっていくのだった。


  ★


「…………」


 案の定、書斎への扉には鍵がかかっていた。


 しかもどうやら、複数の鍵が必要になるようだな。差込口の違うカギ穴が、ドアノブの上下に設えられている。


 この徹底した危機管理――

 やはり重大な情報が、このなかに秘められている可能性が高いな。


「レ……レオン様? なにをされているのですか?」


 近くを通りかかった召使いが、おそるおそるといった表情で声をかけてきた。


「恐れながら、そちらはユーマオス様の書斎。いくらレオン様といえど、立ち入ることは――」


「うるせぇっ!」


 そう叫びながら、レオンは扉に向けて、スキル《全魔法の使用可》を発動する。


 ――今回使う魔法は、水属性の中級魔法ウォーター・レディエーション


 使用者の片手から強烈な水流が放たれ、標的をまるごと飲み込む大技である。レクドリア家の屋敷にも甚大な被害をもたらしかねないが、もはや構っていられなかった。


「きゃっ!」


 召使いが悲鳴をあげるが、それさえもレオンにとってはどうでもいい。


 バギィィィィィィィィィイイン! と。

 盛大な音をたてて、とうとう書斎への扉が崩壊した。


 すぐには壊れなかったのを見ると、この扉自体にもなんらかの仕掛けが施されていたのかもしれない。用心深い父のことだから、なんらかの防御魔法でもかけていた可能性がある。


 そんな思索を巡らせながら、レオンは先に進んでいく。


「レ……レオン様。なりません。その先は……」


 尻餅をついた召使いが必死に訴えてくるが、やはりレオンにはどうでもよかった。


 ――アルバート……!

 ――アルバート……!


 あの憎き男を倒すことだけが、いまのレオンを突き動かしていたから。






 書斎は思ったよりも広かった。


 壁面に設置された本棚に、所狭しと並べられている書物の数々。さらには床にまでうずたかく本が積まれていて、正直足の踏み場がない。


 そしてよく見てみると、それらの書物にはある共通点があった。


 フェミア街の歴史。

 魔王に関する文献。

|レベル【・・・】に関する書物。


 それら三点に関する書籍が、ところ狭しと並べられているのだ。


「父上、どうしてこんなものを……」


 思わずそう呟いてしまうレオン。

 レベルというのはよくわからないが、少なくとも《魔王》と《フェミア街》には、なんの関連もないはずだ。


 いつも書斎にこもっているかと思えば、こんな意味不明の本ばかりを読んでいるとは。


 ――ココダ、ココダ……


「…………っ!」


 ふいに何者かに呼ばれ、レオンは身を竦ませた。


「な、なんだいまの声は……⁉」


 低くドスのかかった声は、まるでこの世のものではないような。

 まるで魔王そのものであるかのような。


 そんな嫌な予感を、レオンは無意識のうちに抱いてしまうのだった。



 ――コイ。オマエニトッテモ悪イ話デハナイハズダ――



 その瞬間、ドス黒いオーラがレオンの全身を包み込み。


「ああ……わかった。いまいく……」


 そんな覚束ない声を発してから、レオンは声の招く方向へと歩み始めるのだった。

※新作投稿しました!


外れスキル《0ターンキル》で、俺は戦う前から勝利する ~ゴミスキル扱いされて実家を追放されたけど、これは敵を即死させる最強スキルでした。世界を創った女神に溺愛されていて今更戻れない~


https://ncode.syosetu.com/n2390hu/


かなり力を入れて書いていますので、ぜひお越しください……!

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