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こんな俺でも、役に立てることがあるのなら

「よっ……と!」


 小さなかけ声とともに、俺は思いっきりベッドにダイブする。


 ふと壁面の時計を見上げれば、もう夜中の三時を過ぎていた。


 ――疲れた。さすがに疲れた。


 部屋があまりに豪勢すぎて、さっきはうまく寝付けなかったが……さすがにいまは別。ベッドに身を放り出した瞬間、どっと眠気が襲いかかってきた。


「色々あったな……マジで……」


 知らず知らずのうちにそう呟いてしまう。


 俺が勇者の仲間入りを果たしたと思ったら、今度はユーマオスの不祥事が発覚するわけだからな。いろんなことが立て続いている気がする。


「だが……これで。フェミア街の暮らしも、少しは楽になるはず……」


 父さん。母さん。ユリシア。

 みんなが、もっと良い暮らしを送れますように。


 そんな思考を巡らせているうちに、俺の意識は徐々に遠のいていった。


 その夢のなかでは、フェミア街全体に活気が溢れ返っていた。


 父も。母も。もちろんユリシアも。

 レクドリア家の圧政に怯えることなく、のびのびと暮らしていた。


 その幸せそうな輪のなかで、俺は……


  ★


 翌日。


 深い眠りから目を覚ました俺の目前に……ルリスがいた。

 しかも薄い部屋着をまとったまま、ぐっすり眠っているではないか。


「…………」

 俺は数秒間、思考停止に陥り。

「……は?」


 思わず、そんな素っ頓狂な声を発した。


「い、いやいやいや。待て待て待て」


 昨晩、いったいなにがあった?


 俺はすぐに眠りについたはずだし、そもそもこの部屋には俺しかいなかったと記憶している。どう転んでも間違い・・・が起こるわけがないのだが、しかし、この状況は……!!


「あ……アルバート? おはよ~」


 対するルリスのほうは、呑気に寝ぼけまなこをこすっている。


 たったそれだけで、薄い肌着がゆさっと動き。俺としては、目線の向け場にどうしても困ってしまう。


「あれ? どうしたの? そんなに目をパクパクさせちゃって」


「な……な……」

 そして朝っぱらから、意図せず大声を出してしまった。

「なにやっとるんだ、おまえは‼」






 事の経緯はこういうことらしい。


 昨夜、俺たちが解散した後、ルリスがめちゃくちゃ寂しくなり。

 連戦で疲れていたのか、俺が部屋の鍵を忘れていたらしく。


 しめしめとばかりに、ルリスは俺の隣で眠ることにしたと。


「とまあ、こういう経緯だね♡」


「いやいやいや……」


 横たわったまま悪びれもなく笑うルリスに……俺は思わず呆れてしまう。


 ここは紛うことなきレベルオン王国の王城。

 王族をはじめとして、身分の高い人々が集まる場所だ。


 そんなところで王女が男性と同じ部屋で過ごす……仮に誤解でもされたら大惨事になると思うんだが。


 そう問いかけても、

「いいんじゃない? 誤解されても」

 と言うんだから始末に負えない。


 しかも、冗談でもネタでもなく、本気で言っているようだしな。


 たしかにレクドリア家が失脚しかけているいま、レオンとの婚約は明らかに絶望的。その意味では問題ないのかもしれないな。


 それに……


 ――違うわよ。設定なんて関係ない――

 ――正真正銘、私はあなたのことが好き。だから戻ってきてほしい。……ただ、それだけなの……――


 昨日ルリスに投げかけられた言葉が、いまでも克明に思い起こされる。


 あれはたぶん……告白ってことでいいんだよな?


 恋愛経験に疎い俺でも、さすがにあれくらいはわかる。あのときのルリスは演技でもなんでもなく、本気であったと。


「アルバート……。昨日のこと、気にしてる?」


「……え?」


 切なげな瞳で俺の手を握ってくるのは、俺たちが《仮初の恋人》だからか。


 もしくは……


「ふふ、ごめんね。困らせちゃった?」


 ルリスは名残惜しそうに俺から手を離すと、くいっと上半身を起こしながら言った。


「わかってる。いまはそんなこと話してる場合じゃない。ユーマオスが拘束されたことで、王国は大きく動くと思う」


「ルリス……」


 そう。そうなのだ。


 ユーマオスは侯爵家というだけあって、おさめていた領地も広大そのもの。フェミア街はもちろんのこと、他にも大勢の人々に影響が及ぼされるのは想像に難くない。


 その絡みで、色々と仕事が押し寄せてくる可能性もある。


「それだけじゃないわ。一般市民には知らされてないけれど、フェミア街って歴史的にも重要な場所でね。きっと、魔王に関する大切な情報も出てくると思う」


「ま、魔王の……!?」


 思わず目を見開いてしまう俺。


 そこまで話が飛躍するとは……さすがに予想外すぎるんだが。


 とはいえ、ルリスもエリも、昔からレクドリア家のことを探っていたようだしな。もしかしたら……それもなにかしら関係があるのか。


「うん。今日の正午あたりから、昨日のメンバーと国王様おとうさまをいれて、緊急会議を開きたいと思う。王国の命運を左右するなにかが……起こるかもしれないから」


「王国の命運を左右するなにか……」


 なんだ。おそろしく話が壮大だな。


 つい最近まで貧乏暮らしをしていた俺にとっては、まるで現実感のない話ではあるが――


「わかった。俺で役立てることがあるのなら……もちろん、力になろう」


 ルリスの真っすぐな瞳を、俺もまっすぐ受け止めるのだった。



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