外れスキル所持者、美少女に詰め寄られる
「お、終わった……のか?」
目を見開いたまま、俺はぴくりとも動けない。
――おい。おいおいおい。
嘘だろ? 巨大ミミズの奴、もう倒れたのか?
いくら弱い魔物といえど、俺は戦闘経験の欠片もないド素人。そんな俺が攻撃したところで、たいしたダメージにはならないはずだが……
「おい、おーい……」
恐る恐る巨大ミミズに近づいてみるが……やはり死んでいるようだ。
声をかけても全然動かないし、触ってもビクリともしない。
「か、勝ったのか……? マジで?」
とうてい信じがたいが……これ以上、うじうじ考えるのはよそう。
俺が一発殴った結果、この巨大ミミズはぴくりとも動かなくなった。それは間違いのない事実なのだから。
「おいおい、マジかよ……」
「あいつ……今度は一発でデスワームを倒したぞ……」
「Aランク冒険者でもそんなことできないよな……? あいつ、Sランク冒険者とか……?」
うはぁ。
なんかヒソヒソ話をされてるぞ。
帰りたい。
ものすごく帰りたい。
いや……しかし家に帰ったら帰ったで、居心地が悪いもんな……。これも全部、【全自動レベルアップ】とかいう、訳わからんスキルのせいだ。
――と。
「すまない、街の者! すっかり遅くなった!」
俺が戸惑っていると、武装した男たちがどこからともなくぞろぞろと押しかけてきた。
ざっと三十人ほどか。
なにやら全員、決死の表情を浮かべているようだが……いったいどうしたのだろうか。
「さあ出てこいデスワーム! 我ら栄誉ある《Bランク冒険者》の名に懸けて、なにがなんでも貴様を倒してやる!」
一番体格のいい男がそうまくし立てているが――なにを言っているのだろうか。
デスワーム? そんな強そうな魔物はここにはいない。
「な、なあ、あんた……」
微妙な空気が流れるなか、町人のひとりが冒険者に声をかけた。
「よく見てみろよ。デスワームならそこで死んでるじゃないか」
「な、なに……?」
ぎょっと目を見開く冒険者。
「そこにいる少年が倒してくれたんだよ。すっげえ強さでさ」
「そ、そんなはずはない。デスワームは念入りな打ち合わせがあって初めて勝利できる魔物だ。その怪物をひとりで倒すなど、Sランク冒険者でも不可能だぞ……!?」
「いやいや。じゃあ確かめてこいよ」
町人に背中を押され、冒険者がおそるおそるといった様子でこっちに歩み寄っている。まさか怖がっているのか、両肩をブルブル震わせている始末だ。
「…………?」
なにを怯えているのだろう。
たかがミミズを相手に。
「し、死んでる……。本当に……」
数分後。
地面に座り込み、巨大ミミズの様子を念入りに確認した冒険者は、信じられないという様子でそう呟いた。
そして全身をブルブル震わせたまま、ゆっくりと俺を見上げてきた。
「まさか、本当におまえが……いや、あなた様が……」
おい、なんだ《あなた様》って。
「そんなに恐縮しないでください。たかがミミズを倒しただけじゃないですか」
「た、たかがミミズ!?」
ぎょっとしたように目を見開く冒険者。
いや――彼だけではない。
他の大勢の冒険者や、戦いを見守っていた町人でさえ――衝撃を受けたような表情をしている。
「あ、あれはたかがミミズではないですよ!? あなた様も本などで知っているはずです! デスワームという、世にも恐ろしい魔物なのです!!」
「いえ……。本なんて買えるほど、うちは裕福じゃありませんでしたから……」
そう。
近くの川から水を汲んできたり、食料を探してきたり……
同年代の多くが《勉強》や《遊び》に興じている傍らで、俺はひたすら両親の手伝いだけを行ってきた。そうするしかなかった。
だからデスワームとか言われても……よくわからない。普通の人なら知っているはずの知識を、俺はまったく持ち合わせていないのだ。
実際にも、冒険者や町人たちは、いまでもシーンと黙りこくっている。きっと俺の言動が気持ち悪すぎて、ドン引きしたのだろう。
――きゃはははは! 貧乏人なんかとは話す価値すらねぇんだよ! 消えな!――
かつて領主の息子レオンに言われた言葉が、脳裏のなかに響きわたる。
「すみません。俺、ここにいないほうがいいですよね。消えます。失礼しました」
「えっ!? ちょ、待ってください! せめてあなた様の名を……!」
そのまま退散しようとする俺を、冒険者が慌てたように追いかけてくる。
――優しいな。
こんなどうしようもない俺を引き留めてくれるなんて。
……と、次の瞬間。
「ちょ――っと待ってください! アルバートさん、あなたの強さは拝見させていただきましたわ」
先ほど助けた美少女が、俺の前に現れるのだった。
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