……弱すぎないか?
「ふふふ……はははは……。はーっはっはっはっは!」
漆黒のオーラを携えたユーマオスが、勝ち誇ったかのように笑い声をあげる。
「驚いて言葉も出ぬか! そうであろう! レベルという概念を扱える者は――この世にわずかしかおらぬからな!!」
「い……いや……」
なんだろう。
ユーマオスがこんなにテンション上がってるのを見ると、非常に指摘しづらくなるな。
鑑定結果を見るに、たいしたステータスを持っているようには見えないんだが――もしくは俺には気づいていない《なにか》があるということか。
(まあ……なんにせよ、油断するわけにはいかないしな)
そう判断した俺は、引き続き剣を構える。
――聖剣レヴァスタイン。
ほとんど剣の心得がない俺でも、これを握るだけで《使い方》が身体に馴染むというか……
伝説の剣聖たるパルア・ヴァレスタインの構えが、自然と脳内に浮かび上がってきていた。
「ぬっ……」
そんな俺を見て、まさかたじろいでしまったのだろうか。
ユーマオスは一歩だけ後ずさったが――その後、意を決したように鞘から剣を抜いた。
「ふん……。禁忌なる力を持つ者といえど、しょせんは我が領地の貧民。私が負けるいわれはないな」
なるほど……
噂には聞いたことがあったが、やはりユーマオス自身も剣を握るようだな。
いわく、凄腕の冒険者でさえ魂消るほどの実力者。
いわく、多くの剣士を一瞬で蹴散らすほどの実力者。
せいぜい創作じみた偉人伝だと思っていたが、これなら納得の腕前といえるだろう。
問題があるとすれば、奴自身のステータスが、想像していたより強くないということ。これほどの武勇伝があるくらいだし、たぶん、まだまだ実力を隠しているんだろうな。
であればなおさら、油断するわけにはいかない。
「ユーマオス・レクドリア。領主たるあなたと戦うのは本意ではないが、戦いが終わったあと、話してもらいたいことが山ほどある」
言いながら、俺は剣の切っ先をユーマオスに向けた。
「ゆえに、ユーマオス・レクドリア。《勇者》として……おまえを、監禁の罪で拘束させてもらおう!」
「ふん! 生意気な小僧めが!」
ユーマオスは憎々しげに表情を歪めると、同じく剣の切っ先を俺に向けた。
「そこまで言うならわからせてやろう! 才能の差というものをな!」
ユーマオスはそう叫ぶや、俺に突進をかましてきた。
そのスピードはさすがのもの。
数メートルは開いていたはずの距離が、一気に詰められ――
(は……? なんだこれは……?)
――てはいかなった。
(なんだ? 偉そうに啖呵を切った割には、随分と遅いようだが……)
そう。
〇・〇〇〇一秒経っても。
〇・〇〇〇二秒経っても。
依然として、俺とユーマオスの距離は大きく縮まらない。
ここまで大胆に時間を無駄にするとは……よほど余裕があるようだな。
もちろん油断は禁物なので、俺も攻撃に転じなければならない。
「ぬおおおおおおおおおっ!!」
俺は大声とともに地を蹴り、疾駆した。
瞬時にしてユーマオスとの距離を縮めていくが……不思議なことに、ユーマオスは俺の動きにまるで気づいていない。
どういうことだろうか。
余裕の表れだとは思うが、それにしても時間を無駄にしすぎている。
〇・〇〇〇三秒後。
ユーマオスはまだ俺の動きに気づいていない。
〇・〇〇〇四秒。
ユーマオスはやっと、俺が目前に迫ったことに目を見開いた。
そして〇・〇〇〇五秒後。
どういうわけだか、ユーマオスは「きゃっ」と女の子のような悲鳴をあげた。
……もちろん、ここまできて攻撃を止めることはできない。
ドォォォォォォォォォン!! と。
俺の振り下ろした剣が、見事にユーマオスの胴体を捉え。
気持ちいいくらい盛大に、ユーマオスは近くの壁面にまで吹き飛んでいった。
「……あらあらあら」
エリがユーマオスに半分呆れた表情を浮かべているのが、なんとも印象的だった。