幼馴染
「く、暗いな……!」
地下階段を降りた先は、なんとも陰鬱な光景が広がっていた。
洞窟、とでも言うべきだろうか。
横幅が大人三人分くらいの通路が、目を凝らす限り続いている。
壁面には等間隔で蝋燭が備えつけられているものの、火の明かりが弱すぎて、あまり視界の確保には役立っていない。かろうじて先が見えるくらいだ。
それに……
「感じますか、バルフレイさん……」
「ああ……。この邪な気配、アルバートでなくとも感じ取れるであろう……」
俺の問いかけに、《勇者》たるバルフレイも神妙な表情で頷いた。
そう。
この洞窟の奥から、なんとも邪悪な気配が感じられるのだ。
油断していると一瞬で命を刈り取られそうな――そんな気配さえする。
もしかしたら、これは本当に《当たり》かもしれないな。
王国の各地で魔物が増え、多くの国民が困り果てている元凶を……ついにここで発見できるかもしれない。
そうすれば《勇者》として名をあげることもできるし、フェミア街の人々を助けることもできる。俺の両親だって……
そう思うと、俄然、身が引き締まるのだった。
「ふふ……アルバートよ。そなたなら本当に、王国そのものを救えてしまえるかもしれないな」
俺の様子をどう思ったのか、バルフレイが「ふっ」と優しげな笑みを浮かべた。
「よかろう。突発的にではあるが、《勇者》二人と、そしてSランク冒険者……。我ら三人で、この先に潜むものを倒しにいこう。なんとしてでもな」
「「はいっ……!」」
威勢よく返事をする俺とエリだった。
★
「あ、あれは……!?」
……五分ほど進んだだろうか。
警戒しつつ洞窟の通路を探索していると、ふいに、見覚えのあるものを目撃したのである。
「ハ、ハンカチ……? ですか……?」
地面に落ちているそれを、エリが不思議そうな表情で拾い上げる。
可愛いピンク色をしているそのハンカチは、禍々しい洞窟内にあって、明らかに浮いていた。
しかもあのハンカチ……どこか見覚えがあるような……
「アルバート・ヴァレスタイン……って、書いてありますよ……!?」
そのハンカチを確認していたエリが、素っ頓狂な声をあげる。
「ア、アルバートさんのハンカチ……? じゃ、ないですよね……?」
エリが自信なさげに確認してくる。
そりゃそうだ。こんな洞窟内に俺の持ち物があるなんて、明らかにおかしいからな。
「ええ。俺の物ではないですが……見覚えはあります。同じ街に住んでいた幼馴染……ユリシアの物かもしれません」
「ユ、ユリシア……?」
「ええ。昔は彼女と仲が良くて……歳を取るにつれて、関わる機会も減りましたけど……」
まあ、思春期特有の行動変化だよな。
幼い頃は普通に話せていた異性と、ある時期から少し話しづらくなる。
ユリシアとはそんなに家も近くなかったし、歳を重ねるにつれて、もうほとんど話すことはなかったけれど……
間違いない。
このハンカチは昔、俺がユリシアにプレゼントしたものだ。
俺の名前が刺繍されているハンカチなんて、絶対いらないだろと思っていたが……ユリシアがどうしてもそれがいいと言うのだ。
「ユリシア……どうしていまだに昔のハンカチを……」
よくよく見ていると、何度か縫われた形跡があるな。時間の経過とともに劣化していくハンカチを、ユリシアはいまのいままでずっと使ってきたわけだ。
「ユリシア……。変な事件に巻き込まれてなければいいが……」
先の通路を見据え、俺はぽつりとそう呟くのだった。
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