闇の軍勢
しばらく時間が止まった……ような気がした。
ルリスの告白はあまりに突然で……だからこそ、あまりに現実味がなくて。
その発言が本心なのか《設定》を貫いているだけなのか、即座に判断することは叶わなかった。
ガタッ……と。
馬車が動きを止めたのはそのときだった。
横目で窓の奥を覗いてみれば、すぐそばに広大な森林が広がっているのが見える。
ウェスタン森林。
多くの魔物が現れたという、その現場だろう。
「……ルリス。じゃあ……そろそろ行かないと」
「うん」
そう言ってぎゅっと俺の手を握るルリスは、とうてい《演技》をしているようには見えなかった。
「……絶対無事に帰ってきて。約束だからね」
「ああ。わかってる」
そう言いながら、俺はルリスの頭を優しく撫でる。
間違いなく、王族に対する不敬そのものであるが――
「えへへ……」
ルリスは嫌がるふうでもなく、嬉しそうにはにかむのだった。
――そうだ。
自分のためだけじゃない。俺はルリスのこの笑顔のためにも、もっと頑張んなくちゃいけないんだ。
「……じゃあ、行ってくる」
そう言って、俺は急ぎ馬車を出るのだった。
★
ウェストン森林。
その内部は、聞いた通りに地獄絵図が広がっていた。
そこかしこに出没している魔物たちに、激戦を繰り広げている戦士たち。以前のブラックタイガーのときのように絶望的な状況ではないとはいえ、負傷している者も多く、いつ戦況が傾いてもおかしくない状態だった。
――そしてなによりの特徴は、魔物たちを取り巻いている《闇色のオーラ》か。
初代国王の言葉を借りるのであれば、これも《闇の軍勢》の仕業だということだろう。
「あ……! アルバートさん!」
戦場に訪れた俺を、エリの明るいが出迎えてくれた。
「よかった……! 来てくれたんですね……!」
「エリさん! 無事でしたか……!」
「はい……! 以前のブラックタイガーには遅れを取ってしまいましたが、これでも一応はSランク冒険者ですから」
そう苦笑を浮かべるエリは……うん、本当に無事そうだな。
身体の各所に「かすり傷」を負ってしまってはいるようだが、戦闘に支障はないだろう。他の冒険者たちも、重傷までは負ってなさそうだ。
「それにしても……すごい数ですね。ゴブリンにウルフに……魔物自体はそこまで強くはなさそうですが……」
「そうなんですよ……。いつもは苦戦しない魔物たちなんですが、なんだか様子がおかしくて……」
ゴブリン。そしてウルフ。
教養の俺にもわかってしまうくらい、この二体の魔物は弱い。
冒険者はもちろんのこと、そこいらの「腕自慢の男」でも勝ててしまうくらいには弱かったはずだ。
にもかかわらず……
「ギュアアアアアアアアアアアアッ!」
ゴブリンもウルフも、斬られても魔法を撃たれても、絶命することなく、ひたすらに起き上がってくる。まるで何者かに取りつかれているかのように。
――闇の軍勢。
さっき初代国王から聞いた言葉を、否が応でも思い出してしまう。
詳しいことは不明だが、かつての剣聖や国王でさえ苦戦した強敵が、現代によみがえっていると――
ひとつだけたしかなことは、このままでは埒が明かないこと。
俺もできるだけ力になったほうがよさそうだな。
「よし……じゃあ、いくか」
俺はそう呟きつつ、腰かけていた剣を抜いた。
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