まるで別人のように畏まる領主の息子
「ち、父上……!?」
さすがに驚いたのだろう。
いつもは横暴なレオンでさえ、彼の父――ユーマオスの登場には怯えの表情を見せていた。
そしてそれは周囲の人々も同様だったようだ。
なかにはずっと頭を下げたまま、ずっと固まっている者もいる。
レオンも大概嫌われ者だが……その父ユーマオスとなると、格が大きく変わるということか。彼が登場しただけで、場の空気が一気に凍りついた気さえする。
「レオン。なにをしている」
ユーマオスの野太い声が、静まった場に大きく響きわたった。
「い、いえっ。レクドリア家の跡継ぎとして、街の様子を眺めようと思いまして」
ピンと背筋を伸ばしてそう告げるレオン。
こりゃすごいな。
めちゃくちゃ緊張してるじゃないか。
「ほう。ではなぜ、その領民から金を巻き上げていたのだ。私はその許可を出した覚えはないが」
「えっ、そ、それは、そのう……」
「返せ。いますぐにだ」
「は、はいっ!」
再び背筋を伸ばしてそう返事をすると、レオンは震える手で、さっきの金貨3枚を返してきた。
……こいつ、本当にレオンか?
素直すぎて怖いんだが。
「……ふむ」
金の返却を確認したユーマオスは、まずは俺の父親に歩み寄って行った。
「うちの倅が迷惑をかけたな。心からお詫び申し上げる」
「……い、いえ……そんな……。とんでもありません」
「せめてもの迷惑料として、さっきレオンが言っていた《向こう一年分は税金を取らない》というのは適用のままとしよう。申し訳ないが、これで手を打っていただきたい」
「は、はい……! ありがとうございます……!」
そう言ってぺこりと頭を下げる父親。
――ユーマオス・レクドリア。
一見すると物分かりのいい男に見えるが、実際はそうではない。そもそもフェミア街の税金が高すぎるのは変わらないわけだし、それに……所有している奴隷の扱いも、相当ひどいと聞いたことがある。
向こう一年分の税金を免除してくれたのも、おそらくは自身の対面のため。いかに評判の悪い領主といえど、いきすぎた言動は不評を買い、ゆくゆくは地位を失いかねないからな。
ユーマオス自身の利益のためにも、ここは優しさを見せたのだろう。
それに加えて……なにか変なのだ。
ユーマオスの周囲から、なにやら闇色のオーラが見えるような……
かつて戦ったデスワームやブラックタイガーと、まったく同じオーラがまとわりついているような……
「なんだ。アルバート殿。私の顔になにかついているかね」
その視線に気づかれたのだろう。
ユーマオスは俺をちらりと見やると、相変わらずのポーカーフェイスでそう訊ねてきた。
「……いえ、なんでもありません。失礼をしました」
「ふふ……なに。そう畏まることはない」
ユーマオスは片頬だけを吊り上げ、固い笑みを浮かべた。
「そなたの活躍は私も聞いていてな。我が領地から勇者が生まれたこと、心より嬉しく思っているぞ」
「……ありがとうございます。身に余る光栄です」
「うちの倅ともども、今後ともよろしくお願いしたい。――おいレオン、帰るぞ」
「は、はいっ…………!」
そう言って素直に動き出すレオン。
父に呼ばれたときはやけに行動が早いな。
――このようにして、一連の騒動は決着を見るのだった。
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