おい、それは言っちゃ駄目だろ
「え……? アルバート、これはどういうことだ……?」
真っ先に当惑の声をあげたのは、俺の父親だった。
ちなみにレオンといえば、間抜けな表情で立ち尽くしているだけ。不慮な事態に頭の処理が追い付かないのも、彼の特徴だった。
「父さん……ごめん。本当はもっと違った形で伝えたかったんだけど……俺、《勇者》になったんだ」
「は……? ゆ、勇者……?」
「うん。知ってるだろ? 魔王を倒すために形成された、凄腕の剣士集団さ」
言いつつ、俺は国王から渡された《証明書》を差し出した。
――第53代国王シャルル・ヴェ・レベルオンにおいて、この者が《勇者》となったことを認める――
そんな文言とともに、俺の名前と写真が添えられたカードだ。
もちろん今日の日付もばっちり記載されている。
「え……。ゆ、勇者……? アルバートが?」
さすがに驚いたのか、母親が立ち尽くしたまま動かない。
「うん。俺のスキル――【全自動レベルアップ】は、思ったより強かったようでね。その強さを、認められたみたいなんだ」
レベルとか、ステータスとか。
この概念については、レオンの手前で話すわけにはいかないけれど。
少なくとも《外れスキル》ではないはずだと、俺は思い始めていた。
「いままで世話してくれてありがとう、父さん、母さん。ずっと育ててくれた二人のために……俺、頑張るから」
「アルバート……。あなたって人は……」
涙声でそう呟く母親。
「なんていい息子なんだ……」
「勇者になっても、親への感謝を忘れていないなんて……」
そしてなぜか、通行人たちにもその感動が伝染してしまったらしい。
さっきまでだいぶ物騒だった周囲の雰囲気が……だいぶと、落ち着きを取り戻し始めていた。
ちなみに残りの金貨は、この騒動が終わったら両親に渡すつもりだ。
さすがに大勢の目の前で大金を見せつけるわけにはいかないしな。
「ありがとう、アルバート……。おまえは本当……自慢の息子だ」
父親もまた、俺の両手を力強く握りしめてくれた。
かつては頼もしく思えた父の手も、いまはもう、どことなく弱々しい。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」
と。
空気の読めない領主の息子が、我慢ならないと言ったように叫び声をあげた。
「ふ・ざ・け・ん・な! このままハッピーエンドで終わる気かよ!? 許さねえぞそんなの!!」
「レオン様……。あなたって人は……」
この後に及んでなにを言い出すのか。
「これ以上、なにをお望みですか? 見てくださいよ、まわりの空気を」
「え…………」
言われて、レオンはびくついたように周囲を見渡す。
白い目。怯える目。怒りの目。
一連の流れを見ていた人々は、それぞれネガティブな感情をもってレオンを見つめていた。
「金貨を3枚も取っておいて、さらになにかを要求するなんて……。レクドリア家の評判もさらに落ちてしまうのでは?」
「ぐうううううう! うるせぇ、うるせぇえんだよクソ野郎!」
ぐっ! と。
なにを思ったか、レオンが俺に向けて指を差してきた。
「勇者だかなんだか知らねえけどな! 調子乗んなよ! 俺にゃあ《全魔法の使用可》ってスキルがあるし……その上、第二王女のルリス様と婚約予定なんだっ!」
おいおいおい。
大丈夫なのかよ。
ルリスとの婚姻はまだ正式に決まったわけじゃない。それをおおっぴろげに公表するなんて……
「ルリス様と結婚したらな、俺は王家の名を継ぐことになるんだ! てめぇなんか国外追放――いいや、死刑にしてやるよ!!」
「そ、そうですか……」
その結婚相手は現在、こいつとの婚約破棄を狙ってる真っ最中なんだけどな。
まあ、それはさすがに言わないでおこう。
「だからおめぇなんか、いずれ俺が殺してやる! 覚悟しておくん――」
「……そこまでにしておけ、レオン」
と。
ふいに聞き覚えのある声が響き渡った。
「え、あのお方は……!」
「まさか……!」
と同時に、周囲の人々が驚きの声をあげる。
――そう。
ユーマオス・レクドリア――
レオンの父にして、この一帯を収める悪徳領主の親玉だった。
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