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金貨3枚で許されるなんて

「な……なんだ?」

「いまの変な悲鳴は……レオン様か?」


 レオンの情けない悲鳴を聞きつけて、通りすがりの人々が目を丸くした。いつもは《怖くて恐ろしい領主の息子》に苦しめられているだけに、いまの「きゃっ」という悲鳴は、人々に相当インパクトのある瞬間だったのだろう。


「…………え? あっ」


 人々の視線に晒されて、レオンは自分の醜態にいまごろ気づいたのだろう。


 ヒソヒソ話される最中さなかで、「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!」と怒り狂ったように叫びだす。


「てめぇアルバート! 許さねぇ! おめえのような奴は税金2倍どころじゃねえ……20倍だっ!」


「…………」


 横暴もここまでくると清々しいな。

 自分の機嫌を宥めるためだけに、ここまで人を苦しめられるとは。


「20倍だって……。ヴァレスタイン家も終わったな……」

「お気の毒に……」


 周囲の人々の声が、嫌でも俺に届いてくる。


「あああああ! お待ちくださいレオン様! そ、それだけはっ!」

「20倍になってしまったら、私たち、生きていけませんっ!」


 そう言ってレオンに泣きじゃくる両親。


 ――本当に、ひどいもんだ。

 こんな奴の機嫌が、自分たちの生活を左右してしまうなんて。

 許せない。本当に。


「へ、へ、はははははっ」


 泣き叫ぶ両親に、レオンの留飲もすこしは下がったらしい。さっきまでの怒りはどこへやら――今度はいやらしい笑みを俺に向けた。


「どうかなぁー? アルバートがせめてもの誠意を見せてくれねぇと、全っ然納得できねぇなぁー」


「せ、誠意……?」


 そう呟く父に、レオンが嫌らしい笑みを浮かべた。


「金貨3枚。それで手を打ってやろう。それだけくれりゃ、向こう一年は税金取らないでいてやるよ! ひゃはははははははははははははは!!」


「そ、そんな……! そんな大金、うちにありません……!」


「じゃあ無理だな。きゃはははははははははは!」




「――そうですか。金貨3枚で手を打っていただけるんですね」




「……えっ」


 俺の発言に、一瞬だけレオンが固まった。


 彼だけではない。両親はもちろんのこと、通りすがりの人々も同様のようだ。


「……それではこちらで手を打ちましょう。これだけで許してくださるなんて、さすがはレオン様ですね」


 そう言いつつ、俺は懐から金貨3枚を取り出し、それをレオンに手渡しする。


 手痛い出費だが、まあ、これで向こう一年は税金取らなくなるみたいだし。

 両親を救う意味でも、悪い金の使い方ではあるまい。


「え……? えっ?」


「ありがとうございます。これで家は安泰ですね」


 そう言う俺に、レオンはしばらくの間、目をぱちぱちしているだけだった。


 



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