当たりすぎてやばい
「アルバートっ!」
「どわわわわっ!!」
馬車に戻った瞬間、ルリス第二王女から勢いよく抱きしめられた。
「お、王女殿……いや、ルリス……!!」
《仮初の恋人》という設定を一瞬忘れかけてしまったが、なんとか思い出すことに成功する。
「い、いきなりなにすんだよっ……! 当たってる当たってる……!」
ルリスもまた、抜群のスタイルを誇る女性だからな。
その……当たっているのだ。
二つの柔らかい感触が。
しかも俺の制止を聞き入れることなく、さらにぎゅっと抱き着いてくる始末。
「ルリス……さすがにやりすぎじゃないのか……?」
「え……?」
「だって俺たちは、その……あくまで《仮初》じゃないか。なのにこんなに抱き着かれたら――」
――本物のカップルみたいになってしまうぞ。
そこまでを言いかけて、俺ははっと息を飲み込んだ。
ルリスの潤んだ瞳が、まっすぐに俺を捉えたからだ。
しかも顔も真っ赤になっており、これは《仮初の恋人》だからという演技ではなく――まるで俺を本当に心配していたかのような。本心で俺の帰りを待ちわびていたような――そんな気さえするのだ。
――どういうことだ? こ、これも演技なのか……?
突然の展開にしどろもどろになりつつも、さすがにこの状況で突き放すわけにはいかない。俺は両手を彼女の背中にまわすと、あらん限りの語彙力を駆使して呟いた。
「いや……なんでもないよ。ごめんな、心配かけすぎてしまったか」
「そうだよ……! ずっと心配してたんだから……っ!」
マ、マジか。
これも演技なのだろうか。
すごすぎるんだが。
「アルバートが強いのはわかってる……。だけど、あんまり心配かけすぎないでね」
ちゅっ、と。
頬っぺたに唇をあてがわれ、俺は今度こそパニックになった。
「!?!?!?!」
なんだ。
ここまでやるか、普通。
そもそもが、レオン・レクドリアとの婚約破棄を狙って《仮初の恋人》を演じることにしたはずなのに……
ここまでしてしまっては、さすがにまずいのではなかろうか?
本当のカップルならともかく、俺は貧乏人、相手は第二王女。
立場がなにもかも違いすぎるのだから。
――それに……まだ抱き着いてきているな……
ルリスの意図は、正直全然読めないけれど。
だけど俺は勇者として、彼女の《仮初の恋人》をも承諾した身だ。ここはとことん付き合うのが道理だと捉え、今回は特になにも突っ込まないことにした。
「わかった。心配かけてごめん……」
「うん……」
またしてもぎゅっと抱きしめてくるルリス。
「本当に、好きになっちゃったかも……」
「え?」
「あ、なんでもない! なんでもないんだからね!」
慌てたようにそう突っ込まれるのだった。
ちなみにだが、その後に御者のおっさんが「あのー……もう出発してもよきですかね?」と気まずそうに話しかけてきたのは、また別の話。
かくして俺たちは、王国でも最大規模の町――
王都レベルオンに向かうこととしたのである。
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