外れスキル所持者、無双する
「こ、これは……!」
戦場に辿りついた俺は、思わず目を見開いた。
――地獄絵図。
そうとしか言えない光景が、目の前に広がっていたからだ。
まず、無事そうな冒険者はひとりもいない。ほぼ全員が地面に突っ伏しており、残る数人も、身体のどこかを痛めてしまったようだ。
肩をおさえる者、足取りの覚束ない者……
ざっと見渡しても、もう負傷者しか残っていない。
「嘘……だろ……?」
信じられない。
さっき話した冒険者いわく、《Sランク冒険者》までも、この場所にいるはずなのに。Sランクといえば、冒険者のなかでも最高に位置するランクなのに。
なのに――この地獄絵図は、いったいどういうことだ……?
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!」
地獄絵図を引き起こした張本人――ブラックタイガーが、けたたましい咆哮を周囲に轟かせる。
「くっ……! まさかこれほどとは……!」
やばい。
これは冗談抜きでやばい。
見るからに禍々しいオーラをまとっているし、口腔からわずかに覗く牙は、一瞬ですべてのものを噛み砕きそうなほどに獰猛だ。
そしてなにより特筆すべきは――その巨体である。
なんと周囲の木々をも凌ぐほどの大きさで、こちらの本能的な恐怖心をこれでもかと駆り立ててくる。その四肢に踏みつけられたが最期……命はなさそうだ。
駄目だ。あの魔物は普通じゃない。
危険すぎる――!
「君……! どうして来てしまったんだ……!」
さっき話した冒険者が、突っ伏した姿勢で俺に声をかけてきた。すでに足に重傷を負ってしまったらしく、満足に立ち上がることさえできない様子。
それでもなんとか起き上がりながら、苦々しい声を俺に発した。
「も、戻れ……! ここは一般人が来ていい場所じゃない……!」
「っ…………」
そう。
たしかにそうだ。
正直、舐めていた。
いくら敵が強くても、こちらには多くの冒険者がいる……
その事実が、どこか危機意識を弱めていたことは否めない。
「任せておけ……。私とて、死ぬ気はない」
冒険者はふらつきながら、暴れまわるブラックタイガーに向き直った。
「私がなんとか時間を稼ぐ。だからせめて、君だけは生き残ってくれ……!」
「あなたは……」
死ぬ気だ。
この人は死ぬ気で俺を守ろうとしている。
なのに、俺は…………!!
と。
「――た、助け……て……」
ふいに弱々しい声が聞こえて、俺ははっとした。
そちらに視線を向ければ、ブラックタイガーの前足に、冒険者らしき女性が踏みつけられている。
弄んでいるつもりなのか……ブラックタイガーは少しずつ体重を女性にのしかけているようだ。
「やだ……。死にたくな……い……っ」
「――――っ!」
その声を聞いたとき、俺は咄嗟に駆け出していた。
戦闘経験がないとか、剣も握ったことがないとか――そんなのは関係ない!
俺は、俺は…………!!
――――
【全自動レベルアップ】によってアルバートのレベルが上がりました。
レベル:316
攻撃力:29980
防御力:28402
魔法攻撃力:38983
魔法防御力:32086
速さ:57950
神域覚醒まで:あと684
使用可能なスキル一覧
・【鑑定】
・【闇属性魔法】
――――
「おぉぉぉぉぉぉおおおおあああああ!」
視界に映り込む謎のメッセージに意識を向けながら、俺は思い切りブラックタイガーに向けて駆け出した。
(…………!? なんだ、このスピードは……!?)
かつてない速度で駆け出している自分に、思わず驚いてしまう。
よくわからないが、身体が以前より格段に軽くなっているような……
だが、いまはそれを気にかけている場合ではない。
油断しているのか、ブラックタイガーは俺の接近に気づいていないようだからな。
攻撃するなら、いまが絶好のチャンスだ……!
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
大声とともにブラックタイガーを蹴っ飛ばした、その瞬間。
「!? ギュアアアアアアアアッ!」
俺の何十倍はあろうかという巨体が、なんと勢いよく吹き飛ばされていった。
「……え?」
さっきの俺を引き返させようとしていた冒険者が、素っ頓狂な声をあげた。
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