なんで顔を真っ赤にしているのか、それがわからない
ドォオオン! と。
王都への道すがら――
馬車がいきなり停車し、車内が激しく揺れだした。
「わわっ!」
「ああああっ!」
あまりの衝撃に、俺とルリスは前につんのめってしまう。
――が、俺はどういうわけか、あのデスワームをも倒してしまった身。
足腰だけは一般人より強いのか、馬車の揺れにもなんとか耐えることができた。
しかし、さすがにルリスはそうはいかず……
なんとか踏ん張る俺に向けて、勢いよく身を投げ出してくる形になった。
「っとと……!」
女性特有の甘い香りが鼻腔を刺激し、女性特有の柔らかな感触が肌を通して伝わってくる。
「む、むぐぐ……」
あまりの心地良さに意識が飛びそうになってしまうが、勇者たる者、ここで屈してはいられない。強靭な精神力を駆使して意識を繋ぎ止め、できるだけ力強くルリスを抱える。
「だ、大丈夫か? 怪我してないよな?」
「…………ぁ」
俺より少し身長の低い第二王女は、俺の胸のなかですっかり顔を赤くしていた。肌を通して伝わってくる鼓動が、どういうわけか少しだけ早い。
「……ル、ルリス? どうした?」
「う、ううん……。なんでもないの」
そう言ってモジモジするルリス。
いったいどうしたことだろう。明らかに様子がおかしい。
――あ、いや、そうだ。
俺たちは一応、恋人関係のはず。もちろん偽物の恋愛ではあるのだが、レオンとの婚約破棄を狙っている以上、中途半端な演技では意味をなさない。
――まったく、どうしようもないな俺は。
こんなことにも気づけないなんて……いままで異性経験がなかったツケが、こんなところで現れてしまうとは。
「大丈夫だ……ルリス」
俺は第二王女の頭を優しく撫でると、できるだけ優しい声音で呟いた。
「君だけはなにがあっても守る。なんとしてでも」
「~~~~~~~~~~~っ!!」
いったいどうしたことだろう。
ルリスはさらに顔を真っ赤っかに蒸気させると、びっくりしたように俺の腕から離れていった。
「な、なに、この胸のドキドキ……。私たち、本当に付き合ってるわけじゃないのに……」
そうブツブツ呟いているものだから、俺としてはなにがなんだかわからない。
「す、すまない。いまの発言はちょっと不適切だったかな? できるだけ言葉を選んだんだが……」
「え? い、いや。なんでもないの」
ルリスは慌てたように首をぶんぶん振ると、どういうわけか俺の左腕にぎゅっと腕を絡めてきた。
「う、うげっ……」
柔らかな感触が押し当てられてきて、俺はまたしても意識が飛びそうになる。
これでも健全な18歳の男だからな。
こういうのは本当に弱い。
「ル、ルリス……? もう揺れは止まったじゃないか。もう掴んでる必要はないと思うが……」
「い、いいんです! 恋人ってこういうものでしょ!?」
「そ、そうなのか……?」
まあ……そうなのかもしれないな。
異性経験のない俺にはよくわからないが、たしかにそういうものかもしれない。
「とにかく、いったん御者のところに行こう。いまの急停車……ちょっと、普通じゃない」
仮にもプロである御者が、あんな乱暴な急停車をするとは考えにくいからな。
しかもいまだ動きだす気配がないし、なにかが起きたとみるのが妥当だろう。
「ルリス……。念のための変装を。姿を隠すとき用の服は持ってるんだよな?」
「うん……。一応」
「じゃあ、それに着替えてくれ。なにか――不吉なことが起きているかもわからない」
俺がそう言うと、ルリスはこくりと、驚くほど素直に頷くのだった。
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