07.
国王陛下のお言葉が終わり、ティアラの戴冠式に移る。爵位の高い順から始まり我が家は真ん中らへんだけど比較的すぐ順番が回ってきた。
「王国の太陽にご挨拶申し上げます、スティール伯爵家長子のハロルド・ラズ・スティールと申します」
「同じくご挨拶申し上げます、スティール伯爵家長女のミレイユ・ラズ・スティールと申します。本日陛下にティアラを戴冠されることを光栄に思います」
丁寧にお辞儀すると陛下の家臣に「頭を上げて下さい」と声をかけられてゆっくりと顔を上げる。
「うむ、エドワード。この令嬢で違いないか?」
「はい、父上」
なんの、話だろう。一瞬ぶつかった無礼についてお叱りをうけてしまうかと思ったけど雰囲気的にそんな感じでは無さそうだ。
「時にミレイユ嬢、婚約者は居るのかな」
「い、いえ。いませんが……」
ああ、この流れは……。
チラリと兄様の顔を見ると、兄様もこの先の展開が見えたようで冷や汗を流している。
「王太子妃選びを兼ねた茶会に招待させてほしい」
一体全体、どうしてこんな流れになったのだろうか。
王太子にぶつかってしまった時だって特段何かあったわけじゃない、ただ無礼を詫びて許してもらっただけだ。
「光栄で御座います、国王陛下」
兄様は頭を下げた。この場で断られるはずもなく私も頭を下げる。
「茶会を楽しみにしているぞ」
国王陛下はにこやかに笑いながら私にティアラを被せた。
「有り難きお言葉に御座います、」
ティアラを被せてもらった頭を上げると王太子殿下に小声で「綺麗だよ」と言われてしまった。そんなことを男性に言われたことが無くてまた顔が真っ赤になってしまう。
ゆっくりとその場を立ち去るが、心臓はバクバクと音を鳴らしている。
信じられないような気持ちのまま階段を降り切ると、兄様は私の手を引っ張り会場の端に連れていく
「す……凄いことになってしまったな、ミレイユ」
「兄様、あの時本当に特別な事など無かったのですよ!なのに何故……」
「良く聞くんだミレイユ、これはとても光栄なことだよ。だが兄様は可愛い妹が王太子妃候補達の争いに巻き込まれることだけはさせたくない」
王太子妃候補、一体何人いるのだろう。
不安定な立場の王太子殿下には婚約者は居なく、産まれたときから何名かの候補はいるが派閥などの問題がある為に一人に決めるのは難しいと昔メイドに聞いた事がある。
「……選ばれるなんてことあり得ませんよ、家柄が違いすぎます」
「それでも第一関門を突破してしまった」
光栄なこと、と言いながらも兄様は頭を抱えている。当たり前だ、伯爵の娘が王太子妃候補になったと知られたらどんなシンデレラストーリーがあったのかとパパラッチや貴族達だけじゃなく国民からも関心を買ってしまうだろう。
「兄様、ごめんなさい……」
「謝るなミレイユ、これは本当に栄誉な事なんだ」
優しく頭を撫でられると、少しだけ泣きそうになってしまった。
「ミレイユ!」
兄様としんみりしていると、フィルが遠くからやってきた。その顔は少し険しそうにしていて、不機嫌を顔に出している。
「フィル、迎えにきてくれたの?」
「……ハロルド兄さん、ミレイユと少し話してきてもいいですか」
そうフィルが聞いても兄様が頷く様子は無い。
「フィル、たった今ミレイユは王太子妃候補になった」
「……!」
「ファーストダンスは諦めてくれ、変な噂は持たせたくないんだ」
フィルは驚いている様子だったけど、すぐに目を細めて私を見てきた。どういう感情なのかは読めないけど、私を見定めているのだろうか。
「わかりました、兄さん。でも話だけ……すぐ終わるので」
「……俺が居ては駄目そうか」
「お願いです兄様、少し話させてください」
意図はわからないけど、フィルは私だけに伝えたいことがあるのだろう。私からもお願いすると、兄様は渋々了解してくれた。
フィルは私の手を引きながらも、何も話さない。
気づけばバルコニーまで連れていかれた、賑やかな会場とは違い急に静かになる。
少し肌寒くて身体をぶるりと震わすとフィルは自分の上着をそっと私の肩にかけてくれた。
「王太子に見初められたのか……よかったな」
「わからない、なんで急に私なんだろう」
いくら思い返してもわからない、私は他の令嬢に比べて特に美人なわけでもないし髪色も眼の色だって珍しいわけじゃない。一目惚れこそあり得ない話だ。
会話だって形式に沿った話ししかしてないのに……
でも、そんなことよりもフィルに”よかったな”と言われたのが凄く悲しかった。
俯いていると不意に両手を握られ、
その握る力が強くて顔を上げると目を逸らされた。
フィルはすぐに手をゆるめてホールのほうに目を向ける
「……幸せになれよ、ミレイユ」
それだけ言い残してフィルは舞踏会のホールに戻ってしまった。
私は肩にかけられた上着を手に取りぎゅうっと抱きしめる。
「(大好きだったよ、フィル……)」
また約束を果たせないまま、私たちは本当の意味で終わってしまったのだ。
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