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06.




 言葉無いままフィルに手を引かれ、会場に戻ると私に気がついた兄様がかけよってくる。



「ミレイユ、何処に行っていたんだ!」



 そこまで言うと兄様は私の手を引いているフィルに視線を移した。

 その顔はゆっくりと涙目に変わっていく、



「フィルじゃないか、心配したんだぞ……無事でよかった」

「ハロルド兄さん、ご無沙汰しております。ご心配をおかけしたようで申し訳ありません……」



 そうだと、思った。


 私にはあんな風に言ったけど、内心は心配で仕方がなかったに違いないし私がいる手前、手紙も出せなかったのだろう。


 フィルの両肩に手を置き、兄様は項垂れた



「お前が無事だったなら、もうそれでいいさ。社交シーズンは王都にいるのだろう?少し話がしたい」

「はい……今更謝罪以外でお話することはありませんが、伯爵へのお目通りもしたいので是非」



 スティール伯爵家は王都に近いがフィルの住むカーランド侯爵家は領地も大きい為、社交界のシーズンは泊まり込みなのだろう。

 ミレイユ自身はデビュタント以外は小規模のお茶会しか参加予定が無いが、男の人達はそれなりに予定があるようだ。

 


「ミレイユはフィルを見つけて追いかけてたのか」

「うん、ごめんなさい。急に居なくなって」

「何事も無くて良かった……もうすぐティアラの戴冠式が始まるな。フィル、また後で」



 兄様はフィルともう少し話したそうな感じもしたが時間も迫ってきている為に足速にその場を離れた。

 ティアラの戴冠式は基本パートナーと一緒に参し、戴冠式が終わったらダンスパーティーが始まる。

 ティアラを授かる令嬢はそう多いわけではないのですぐに順番が回ってくるだろう。








「ミレイユには、ああ言っておきながらすまなかった」

「いいえ、なんとなくわかっていました」



 リーシャ様も弟君と来ていて既にその場には居合わせておらず、フィルが見えなくなってすぐに兄様は落ち込んだ様子で私に謝ってきた。

 ”ああ言って”というのは『舞踏会で顔を合わせても挨拶をし軽く会話を交わす程度でいいんだ』と言った事についてだと理解出来た。


 兄様にとってフィルは私の幼馴染なのと同時に弟のように可愛がっていたのも事実、婚約者が魔女で処刑されたことに何か影響が無かったか心配で仕方がなかったのだろう。

 まだ、何も無かったと言い切れるわけではないけど顔を見れただけで安心したようだ。



「だけどミレイユは辛かったら無理に話さなくていいんだぞ」

「辛くて顔も合わせたくないなら、わざわざ追いかけたりしません」


「……!」



 兄様は少し驚いているようだった

 それもそうか、私はフィルに婚約破棄されて三日三晩泣き続けた過去がある。顔を見るのでさえ辛いと思われるのも当然だ



「それも、そうか……でもミレイユ、もうフィルは駄目だぞ」

「わかっております、兄様。だけど、お願いがあるのです」


「お願い?」



 私は真っ直ぐ兄様の顔を見た。



「戴冠式後のファーストダンスをフィルと踊らせてください」



 兄様は少し悲しそうな顔をしながら小さく頷いた。



「しっかり、終わらせてくるんだ」

「……はい、兄様」



 胸がきゅうっと締め付けられる、フィル同様に兄様も私の恋の終わりを願っている。

 ダンスの約束は、私とフィルお互いにとっての最後になる。悲しくて辛いけど、次に進むには”終わったこと”と高を括ることではなくてお互いに”終わらせる”ことなんだ、苦しくなる胸をぎゅっと掴む。


 ーーーもうこれ以上泣くわけにはいかないし、しっかりしなくちゃ


 突然の婚約破棄されて、無礼を働いたのはフィル側ではあるけど今まで恨む事も嫌いになることさえ出来ないでただ好きだった気持ちを募らせていた。もう四年の月日がたったのだしせっかく再開出来たのだから私も次に進ませてもらいたい。


 フィルが新しい婚約者を充てたように、私も……




 


 そうこうしている内に大きな歓声が上がり、国王陛下と王妃様、王太子殿下が入場し王座に座る。その様子を心ここに在らずな様子で眺めていると、不意に王太子殿下と目が合った。



「……?」



 私が首を傾げると殿下はこちらに向けてニコリと微笑む、その様子を見て慌てて兄様と私は頭を下げた。

 周りの貴族達も気付いたようでチラチラとこちらを見てくる。


 一緒に頭を下げた兄様は小声でこちらに話しかけてきた。



「ミ、ミレイユ!なんで殿下がこちらに笑いかけたんだ!?」

「わかりません、兄様!先程フィルを追いかけてたときに少しぶつかってしましって何言か言葉を交わしただけで、」

「なんでそんな大事な事を先に言わないんだ!」



 兄妹揃ってあたふたしていると国王陛下のお言葉が始まり頭を上げる、王太子殿下はもうこちらを見ていない。



「知っている顔が居たからと笑いかけただけだといいが……」

「きっと、そうでしょうね」


「もし、ミレイユが王太子妃候補になったら父様はきっと驚きのあまり卒倒してしまうな」



 兄様は苦笑いしながら独り言のように呟いた。

 私もそのまま苦笑いを返すと、兄様はくすくすと笑い始めた。





「王太子妃候補なんて、絶対あり得ませんよ」

「まぁ、それもそうか。我が家は伯爵家だしな」



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