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02.





「ミレイユのデビュタントのパートナーは俺でいいのかな?」


「勿論です、兄様。お願いします」



 ある日の食事中に、兄のハロルドがミレイユにそう告げた。

 婚約者の居ない令息令嬢はだいたいが兄か姉、年齢の近い親戚に頼む事が多いし兄妹でデビューする者もいるぐらいだ。それに則って2歳年上の兄様がデビュタントのパートナーを務めてくれるのはとてもありがたいことだ。


 兄様にも婚約者は居るが、お互いにデビュタントは済ませてある

 未婚の令息令嬢のみのデビュタントの舞踏会、一家の長男がパートナーになる事がミレイユにとって一番世間体も良い。



「兄様、お気遣い有難う御座います」

「可愛いミレイユの隣に立てる事、嬉しく思うよ」


 ニコニコと笑う兄様にミレイユは笑みを返した。


「二人共。水を差すようですまないが、ちょっといいかい」

「父上、如何なさいました?」



 突然父様の重い声が響く、その声色はお父様らしからぬ深刻な様子でゴクリと息を呑んだ。

 今さっきパートナーが兄に決まったばかり、何か不都合でもあったのかと不安になってしまう。

 思えば食事中、父様と母様のお顔がずっと優れなかった気もするが……



「ミレイユのパートナーが決まったおめでたい日に告げる事を許してほしい」

「あなた、何も今日でなくとも……」

「だが、大事な事だ。ハロルドもミレイユも、もう子供では無い……すぐに教えてあげるべきだろう」



 どうやらパートナーの件では無いようでホッとする。あの穏やかな父様と母様にこんな顔をさせるなんて、何があったのだろうと兄様と顔を合わせてしまった。



「シュタンベルク辺境伯家の三姉妹令嬢が魔女として処刑された」

「え……そんな、どうして、」



 シュタンベルク伯爵家、魔女、処刑、


 全てのワードに反応してしまう。魔女、この国で魔法の一般人の使用は禁止されている、それこそ大昔は戦争などで使われていたらしいが魔力の質によっては人を惑わせたり操ったり出来てしまう危険なもの。今では魔術師は厳重に管理されていて、管理外で使えば厳しい罰則があると言うのに、魔女と略され処刑されたと言う事は何かしらの犯罪を犯したのは間違い無い。


 国民は国家が管理している魔道具や魔法陣しか使う事が出来ないし、それも殆どが王族の為の道具で貴族だけじゃなく市民でさえ使う事は公共施設以外ではほぼ無いと言うのに

 

 遠く離れた森に済む辺境伯の令嬢が何故……



 それに、シュタンベルク伯爵家はーーー



「シュタンベルク辺境伯家の末娘はフィルの婚約者じゃないですか……!」



 兄様が血の引いた顔で声を上げた。

 そう、シュタンベルク辺境伯家の三姉妹、末娘のジェネット=シュタンベルクはフィルの新しい婚約者だったはずだ。



「フィル……」

「そうだ、あのジェネットという娘も魔女だったのだ」

「そんな、父様……フィルは大丈夫なのですか?」

「まだ何もわからない、だが……告発はカーランド侯爵家からだったそうだ。フィルに何かあったのではないかと私も心配している」



 いくら娘との婚約破棄で疎遠になったとて、産まれた頃から面倒を見ていたフィルは父様にとって息子のようなものだ。

 父様も母様もとても暗い顔をしていた。特に母様はその顔に涙まで浮かべているようだ。



「フィルも心配だけれど、私はミレイユと歳の変わらない娘達が魔女になり……処刑をされた事にとても心が痛むわ……」

「でも罰則や入牢じゃなく処刑されたのなら、何かしら犯罪を犯したということなのでしょう。フィルが巻き込まれてないか心配だ」

「少しでも情報が入ればお前達にも知らせよう」



 その後も兄様と父様で何か議論されていたけど、私の耳にはそれ以上入ってこなかった。


 フィル、大丈夫かな。


 そう心から心配しているはずなのに……私はフィルに婚約者が居なくなった事に少し安堵してしまった。


 フィルの婚約者の席が空いたからって私が座れるわけない。

 大変な思いをしているだろう想い人を他所にそんな事を考えるなんて最低だ……ミレイユはそれ以上食事が喉を通らずにその日は家族やメイド達の心配を他所に部屋に戻った。





「(会いたいよ……フィル……)」







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