15.
あれから、すぐに自宅に帰された。
父様も母様も今回の事を凄く心配してくれて、やっぱり王太子妃候補だなんて……という雰囲気が漂っている。
「傷が出来なかったから良いものの……やはり王太子妃候補は危険なのではないか?」
父様は私の頬を撫でながら心配そうにこちらの顔色を伺ってくる。
「今回は私にも非がありました。今後は充分に気をつけます」
エドワード殿下との約束もあるし、私は甘えてしまいたい胸をそっと仕舞い込み笑顔を見せるがそれさえも痛々しく見えたのか父様は私をそっと抱きしめた。
「今回のこともあるし辞退するなら今だろう」
「大丈夫です。王太子殿下も真摯に謝って下さいましたし」
「だが……」
「ミレイユ自身はどうしたい? このまま続けたいのか、辞退したいのか」
押し黙っていた兄様が口を開いた。
帰りの馬車でもエドワード殿下との会話の内容すら聞いてこなかったのに、私自身がどうしたいか聞いてくれる兄様の優しさに大事なことを黙っていることが心苦しくなる。
「……私は、王太子殿下に否を突きつけられるまでは続けたいです。」
「そうか。では俺は応援するよ」
「兄様……」
一連の流れを見てきた兄様が”応援する”と言ってくれた時点でその場は丸く収まった。
父様はまだ納得していないような表情をしていたが母様に促されて執務室に戻っていく、一方兄様は思い詰めたような表情でその場から動かなかった。
「一体何があるというんだ、殿下を本気で好きなわけじゃないようだし。フィルの時でさえ自我を通さなかったというのに……家族想いのミレイユが私達に心配かけてまでその座を守りたい訳は、なんだ?」
兄様は私を真っ直ぐみつめながら問いかけてくる、あまりにも的確で私は言葉につまってしまった。
「危険なことなのか……?」
「……王太子妃候補でいる方が安全だと今は思っています」
私の言葉に兄様は目を見開いた。
何処か覚悟したような表情をし、小さく項垂れる。
「何かに巻き込まれているんだな」
「ごめんなさい、兄様……」
「きっと話せない内容なのだろう。だが、どうしようも出来ないときは絶対に家族に相談するんだぞ……全てを捨てででも家族はミレイユの味方だ」
兄様は立ち上がり、私をキツく抱きしめた。私も涙目になりながら抱きしめ返す。
悪魔が居なければ、フィルが狙われなければーーー
そんな風に思わずにはいられなかった。
***
噂というものは怖いもので、あっという間に事実とは少し違う方向へと解釈が変わっていく
「王太子妃候補の見直しを実施する……か」
今回の事件でアステラ様は傷害として罰せられることになり、これによってエドワード殿下は本格的に候補を絞る方向でいると新聞には掲載された。
実際はただ頬をたたいただけのアステラ様は重い字で”傷害”と書かれて、その件で候補を絞ると書かれたエドワード殿下もこの先の護衛の範囲を考慮して諸外国の姫達を候補から外れてもらうことになっただけなのに。
その”傷害“の被害者はなんと殿下の“恋人”とまで書かれていた。
「ゴシップ誌は、憶測を事実のように伝えてる」
アステラ様だってきっと悪魔の被害者だ。
嫌味な性格ではあったが、親友を想っての行動だと思うとその記事の内容はやるせないの一言だった。