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11.






 家に帰ると、文字通りの”大騒ぎ”になっていて

 家中の使用人が外に出向き、その先頭には両親が心配そうな表情でこちらを見ていた。




「ミレイユ、おかえり。その……舞踏会は楽しめたかな」

「父様、母様ただいま戻りました。既にご存知だとは思いますが……」

「とりあえず着替えておいで、それから話をしよう」





 私は自分のメイドに連れてかれて楽な格好に着替えさせられた。リーシャ様も別部屋で寝着に着替えているはずで、今日は泊まっていくそうだ。


 着替えを済ませて両親が居る部屋に向かうとそこには既にリーシャ様も待っていた。

 ウィルズ卿も当然のように私の部屋の前で待っていて、後ろについてきた。父様はチラリと彼を見ると言いにくそうに口を開く



「何から聞けばいいのか……ウィルズ卿は席を外すことは難しいかな?」

「伯爵家に無礼の無いようにと殿下から指示を受けておりますので、私は退席させて頂きます」


「あ、ああ。すまないね、ありがとう」



 意外にもあっさりとウィルズ卿は部屋から出て行ってしまった。

 出て行ったのを見計らって父様はゆっくりと口を開く、



「……まずは、おめでとう。ミレイユ」


「父様には申し訳ないのですが、私は王太子妃になることはおそらく無いかと……。急でしたし今はなんとも言えないのです」

「そうか、手紙には王太子殿下がミレイユを見染めたと書いてあった。候補という形ではあるが側に置きたいと」




 父様の言葉に愕然とした、確かに伯爵令嬢を王太子妃候補にするとなるとそれ相応の理由が必要になるとは思うが……エドワード殿下が私に惚れたとはあの一瞬では考えにくい

 殿下の気持ちは殿下にしかわからないことだけど、フィルの件で私を候補に入れた為であってこれは単なる建前にすぎないだろう。どこまで話したらいいかわからなくなってしまい言葉に詰まると、リーシャ様が口を開いてくれた。



「お義父様、ミレイユが王太子妃候補になることは何もマイナスでは御座いません。候補として側に置きたいだけみたいですし、今はミレイユの気持ちを考え傍観するのはどうでしょうか?」



 リーシャ様の言葉に顔を見やる、私が王太子妃になり王妃になってしまえば我が家は良くも悪くも生活はガラリと変わってしまう。さすがに王妃にはならないだろうけど、両親に全てを話すわけにいかなかった私にとってはその言葉が何よりも有難かった。



「わたくしもそう思います、娘を見染めたと真っ直ぐな手紙をよこしてくださるなんて王太子殿下でなくても親として喜ばしい事じゃない」



 母様は私の手をそっと握り、殿下が下さった手紙を見せてくれた。

 そこには、長くはないがエドワード殿下が直筆で私が突然に王太子妃候補になった事への謝罪とその理由が書かれていた。その中に”ミレイユ令嬢は大変可愛らしく”という文章があり、詭弁かもしれないが顔が赤くなってしまう。


 その様子を見た父様が小さく笑った



「フィルの時にように泣くことが無いか心配だっただけなんだ、娘の恋愛に父親が口出しするのはご法度だろう。ただ……王太子妃候補同士の争いもある、ミレイユが求めても王太子妃にはなれないかもしれない、それは大丈夫か?」

「それは、まだ、わかりません……」


「お義父様、王宮での噂によると殿下は候補同士の争いが無いように徹底的に管理なさっているそうです。今の王太子殿下はそういった面での手腕があるからこそ”王太子”に選ばれたのだと聞きました」

「リーシャ、それはまことか」


「はい、ハロルドが高位貴族から聞いたそうです」



 どうやら私の居ないところでも話が進んでいるようだ。

 両親や兄様の話によると、王族や王宮については謎が多いし一般貴族の知るところは少ない。調べればすぐにわかる事はあっても、わざわざ“調べる”行為をし不審がられる必要など無いらしい。


 でも兄様は、妹が候補に上がったからこそ貴族達に調査したという。私がエドワード殿下と直接話した後に兄様に人が群がってたのはそういう意図もあったとか。



「帰り際に王太子殿下がハロルドに話があると連れていかれました、もしかしたら何かお話があるかもしれませんし……今はそれを待ちましょう」

「そうだな、今日はもう遅いしそうしようか。リーシャ、君のような聡明な女性がハロルドと結婚してくれることを嬉しく思うよ。これからも伯爵家をよろしく頼む」


「いえ、私こそ……いつも有難う御座います」



 父様も母様もリーシャ様に優しい顔を向ける。

 ただ、私は今自分が置かれている状況についていけないでいた。もう我儘は言えない、こんなにも家族が動いてくれているというのに……。



 フィルのこと、エドワード殿下のこと、沢山の事が一気に起こり当の本人は置いてけぼりで話が進んでいってしまうような気がして疲れきっていた。





 ーーーフィルとの未来を夢見た少女はもう居ない、そう言い聞かせながらその日は眠りについた。


 











***
















「ミレイユ、王太子殿下からお茶会の招待状が届いたわよ」



 数日後の朝食の席で母様が大きな花束と手紙を持ってきた。

 渡されたのは、大規模なお茶会への招待状とエドワード殿下からの手紙で、内容は大体が私を気遣うような内容だった。



「王太子殿下はマメな男性なのねぇ」

「そのようですね」



 確か国王陛下は、王太子妃選びを兼ねたお茶会だと言っていたし主に候補達のお披露目会といったところなのだろう。


 行くたくないな、と思わず心の中で呟いてしまった。



「大丈夫さミレイユ、招待されるのは王太子妃候補だけじゃないし俺も行くから」





 兄様はその日に帰ってくるかと思いきや、社交界シーズンは忙しいらしく昨日やっと戻ってきたばかりだ。帰ってきてから父様とずっと執務室に籠っていてあの後どうなったのかもわからない。

 ウィルズ卿にどこまで話していいか聞いても「殿下から何か指示の無い限り動かないのが最も賢い選択かと思います」と言われた。ようは、その辺はすぐに私に付いてきたから知らないのか、話すなってことなのか……意図がわからず結局話すことは出来なかった。



「ですが兄様、私は他の候補が誰かも知らなければ、デビューしたばかりで高位貴族や王族の顔やお名前も知りませんし」

「だから俺が一緒に行くのだろう?だいたいのことは王太子殿下に聞いたし、ミレイユは楽しんでくれれば良いとのことだよ」





 エドワード殿下もどこまで兄様に話したのだろうか、勿論私から言ってしまう事は出来ない内容だし……


 家族もエドワード殿下も私の為に動いてくれていると言うのになんで私はこんなにも気分が上がらないのだろう。素直にありがとうと言えない自分に戸惑っていた。



「(私はいつからこんなに、高慢になったのかな……)」





 これを幸せなことだと思えないことに嫌気が差して俯いていると兄様が口を開いた。




「あと、本人から聞いたんだが……フィルが王宮の騎士団に入団するって」




 兄様の言葉にパッと顔を上げる、王宮の騎士団……?

 確かに昔からフィルは剣の腕はあったけど、それは令息として嗜む程度だと言っていたはず。そもそも侯爵家の長男だし騎士になる必要なんてない。


 どうして、急にーーー?



「これから王宮で顔を合わせる事もあるかもしれないが、それは大丈夫そうか?」



 大丈夫じゃ、ない。はずなのに……

 

 またすぐに会えるのかもしれないと、どうしようもなく胸が高鳴ってしまった。







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