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01.





 ーーーー婚約破棄



 まさか自分に降りかかる言葉だなんて、思ってもみなかった。産まれてすぐに決まっていた婚約、不器用だけど優しい婚約者は侯爵家の令息で長男だ。

 スティール伯爵家の長女であるミレイユ・ラズ・スティールは家柄も立場も婚約者としてまさに完璧だったはずなのに



「先程、カーランド侯爵家から婚約破棄についての書類が届いた……」

「そんな……どうしてですか、父様」

「子息たっての願いだそうだ、なんと無礼な。ミレイユ、気に病む事は無い、お前に相応しい男は他にもいるはずだ」



 そう言いながら父様は私を抱きしめてきた。

 突然の出来事に言葉を失う。つい先日も二人でピクニックをしたばかりで、その時だって今まで通り仲良くしていたのに……何かしてしまったのだろうか

 “子息たっての願い”その言葉が鋭く突き刺さる。



「(どうしてなの……フィル……)」



 彼、フィル・フォン・カーランドと静かに歩んできた恋はここで幕を閉じた。



 まだ幼さの残る彼女の瞳から大粒の涙が溢れる、

 ミレイユが14歳の時のことだったーーー








***








「おはようミレイユ、お誕生日おめでとう」

「おめでとうミレイユ」



 朝、父様と母様のキスで目覚める、今日は私の18歳の誕生日だ。

 14歳で婚約破棄された私は噂が流れなくなるまで社交界デビュー出来ずにいたけど、昨年父様に「18歳で社交界デビューをしよう」と進言されていてこの歳になるのをずっと待ち侘びていたのだ。



「おはようございます、父様、母様!」



 ミレイユは優しい両親を力一杯抱きしめた。

 婚約破棄をされても両親にも兄にもとても愛されているし、平気だと思っていたが私はこの歳になるまで元婚約者が忘れられずに引きずっている。

 それでも元婚約者のフィルは私との婚約破棄後すぐに辺境伯の三姉妹の末娘と婚約をしたそうだ。それもあってミレイユはこの恋が素晴らしい思い出に出来ないでいた。


 そんな想いを知ってかしらずか両親は婚約破棄されてからは更に優しく愛情深く接してくれたと思う。



「今年はデビュタントもある、お金など気にせずに目一杯お洒落を楽しみなさい。そんなミレイユに私達からのプレゼントだ」



 父様の手には、宝石があしらわれる箱。開けると中にはとても輝くティアラが入っていた、デビュタントで使うティアラだ。この国ではデビュタントの際に貴族令嬢は陛下からティアラを付けて頂くという行事がある。



「とっても綺麗……ありがとう、父様と母様!」



 ミレイユはその素敵なティアラを抱きしめて想いを馳せた


 デビュタントでフィルを忘らさせてくれるような素敵な子息に出会えますように、と。












 沢山のプレゼントに囲まれながら、誕生日の夜にミレイユは窓から月を見上げていた。



「(今日は凄く楽しかったなぁ……でも、フィルが居てくれたらもっと楽しくて幸せだった、よね)」



 フィルとの思い出はとても多い

 お互いが生まれてすぐに婚約者となった2人は大概の行事を一緒に過ごした。

 婚約破棄後は疎遠になってしまったが子供同士を婚約させるぐらい両親共に仲が良く、よくお互いの家にも遊びに行ったしお泊まりだってしていた。

 誕生日も毎年一緒に過ごして、夜まで一緒にお喋りしたな……


 その中でも14歳の誕生日の夜にしたデビュタントの約束はミレイユがとても楽しみに、宝物のように大事にしていた思い出



『フィルと結婚出来るなんて幸せだなぁ、ドレスは何を着よう!』

『気が早いぞ、まずはミレイユのデビュタントで陛下に婚約のお披露目をしないと』

『デビュタント、一緒に行けるの?』

『当たり前だ、俺たちは婚約者同士なんだからな』



 そう言いながら笑うフィルはとてもかっこよかった。


 二人で初めての舞踏会、手を繋ぎ仲睦ましくファーストダンスを踊る。沢山の人に婚約を披露しフィルと二人で貴族一……いや、この国一番の幸せなカップルになる予定だったのにーーー



「フィルは今頃、婚約者と仲良くやってるのかな……」



 胸がチリチリと傷んだ。

 色褪せない恋はまだミレイユを癒してはくれないし、フィルと婚約者のことを考えたくないのに考えてしまう。それがとても苦しかった。




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