0727の前夜
2009.07/27の前夜
彼女と自分の関係は、彼を中心に置いた仲から始まった。
意気地の無い彼女に、自分は彼へ告白する勇気を与え続けた。
何度も何度も彼女を励まし、何度も何度も話を聞いた。
そんな期間が一週間程続いた。
そして、彼女は彼に告白し、彼女は彼と恋人同士になった。
自分の中で達成感を感じ、そして喜んだ。
彼女が幸せになる事が、それ程自分には嬉しかった。
煙草に火を点ける、その時までは。
彼女と彼が結ばれて、彼女はデートの約束をしたそうだ。
彼女は楽しそうに、その日の為に帽子を買いに出かけていった。
肩の荷が下りた自分は、煙草に火を点けた。
「本当に良かった。自分は役目を果たした」と思うはずだった。
しかし、心を満たしたのは達成感や喜びではなく、猛烈な喪失感だった。
自分は他人の幸せを願うほど、素晴らしい人間ではない事を
この時、そっと思い出した。
彼女を笑わせていたかった。
彼女が幸せになってほしかった。
それが、自分に「今までなかった恋心」だったのを、自分は気付く事ができなかった。
たったの一週間の中で、自分は彼女の事をたくさん知った。
その中で、ただの相談役だった自分が本当は彼女を好きになっていっていた。
だけど、それが自分には分かっていなかった。
彼と彼女の恋は、きっと彼女一人では始まらなかった。
だけど、自分はそれを始めさせてしまった。
それなのに、その彼女を自分は今まで感じた事がない気持ちを感じる程に、
好きになっていた。
今思えば、彼女を勇気付けるために自分は最初に言った。
「彼が駄目だったら、自分が滑り止めになるから、頑張ってみればいい」
それは、紛れも無く好きである事の証明だった筈なのに、
自分は彼女に「自分を選んでほしい」とは言わなかった。
彼と彼女が結ばれて、自分は彼女にこれらを全て打ち明けた。
身勝手極まりない行動であるのは、十分に自覚しているのが始末の悪さだと思う。
全て打ち明け、そして、彼との相談に乗りながら、そして自分と彼女の事もたくさん話した。
そんな日々が一ヶ月もの間、続いていった。
何にも変え難い、満たされた一ヶ月。
その中で彼女と自分は友達でもなく、恋人でもない。
それでも、恋人以上で恋人以下の関係になっていった。
7月26日の午前3時頃 その時、初めてキスをした。
この日、彼女と自分は互いに離れる事を決意した日。
彼女は彼と、自分は自分の道を進むため。
そして、この異常な関係を終わらせるため。
彼女は泣いた。自分も泣いた。
こんなに互いに好きになるなら、もっと早くにこうすべきだったのを互いに十分知っていた。
彼女は自分で、自分は彼女。
全く同じ様な二人が、ここまで距離が縮まってしまうのは、互いに容易に予測できた筈だった。
彼女と自分がずっと一緒にいられたら、自分が彼女を離さなければ、二人は必ず幸せになれる。
それを互いが理解したからこそ、離れなければいけなかった。
彼女は彼を裏切れない。
その心理を説明する事はできないが、彼女の考えは自分の考え。
言わずとも、その全てを理解できる。
そして、他人に理解できる様な話ではないのも分かる。
自分は彼女を彼から奪う事はできなかった。
それは自分の中で初めての敗北だった。
悔しいとは思わなかった。
その敗北の理由を、全て理解できてしまうから。
彼女と彼の恋愛が、そっと幕を閉じるまで
自分は彼女を待つ事にした。
そして、彼女もそれを望んでくれた。
だから、昨夜は互いの薬指の指輪を、互いに外した。
こうして、二人と彼の異常な関係は、彼と彼女と自分という正常な一ヶ月前の関係に戻った。
彼女を待つ事ができるのか、彼女が彼との関係に答えを出すのか、
自分が別の誰かで答えを出すのか、彼女が別の誰かで答えを出すのかは分からない。
しかし、今の自分は彼女を待つ事を選んだ。
そんな日々が、明日から始まっていく。