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第八十六話 誰も歓迎しない少女

 「私」がまず最初に出くわしたのはゼリアだった。

 ゼリアは怪訝そうな表情で無視して何処かへ行こうとする、その先にはミディ団長がいた。

「ゼリア! ミディ!」

 「私」が呼ぶと、二人は怒りの籠もった眼差しで顔を見合わせた。


「ゼリア、この方お知り合いかね? 酷く不愉快だ」

「それなら追い出す? ゼリアも嫌いこの人」

「な、なんで?! あたしよ、あたし! う……」

「おやあ、おかしいな。僕の記憶ではね、あの御方は遠慮がちに僕やゼリアを呼ぶし、呼び方もそんな図々しく呼ばないもんなんだね。いつだってあの方は、僕らを見守るように一歩引いた視線を向けていた。そんな無作法な眼差しじゃないんだね」

「偽物さん、ゼリアたちは忙しいの。恩人様をバカにするなら、ゼリアだって怒るわ。帰って。じゃあね」


 二人はさっさと何処かへ行こうとする、唖然とした「私」が手を伸ばした状態で二人を見送った。

 その「私」に気づいて後ろから近寄ったのはシラユキだった。


「……あらあら困りましたわ」

「し、シラユキ! ねえ、貴方なら分かるでしょ! あたしよ、お妃様よ」

「痴れ者、その名を汚すな。いいかい、お前の見目、あの方の出来損ないの贋作で吐き気がする。あの方を模すのはやめなさい、誰だか分からないけれど私達の思い出を穢さないで。二度と現れないで」


 シラユキは今まで見た覚えのない。ジェネットにでさえ向けたことのない嫌悪感で一杯の眼差しを向けた。

 汚い者を触ったといわんばかりに手をひらひらと振って、去って行く。


 シラユキたちが向かう場所に興味があるのか、「私」が駆け出す。

 その先でぶつかったのはアルギスだった。


「アルギス! ねえ聴いて、皆あたしのことおぼえてないみたい! どうしてかしら?」

「ううん、君を覚えてないんじゃなくて君を知らないんだよ。だって君は、あの子じゃないもの。どうしてその姿になったのか、興味深いな。侮辱の類いなら、お仕置きしないとね」


 アルギスの緩やかな笑みに「私」は寒気を覚えたのか逃げ出して、シラユキやミディ団長達が向かった先に走っていく。


 その先には――以前、ヴァルシュアと闘った教会があった。

 教会の中に入れば、魔物達全員とゼロがいて、にんまりと「私」が笑った。


「みーんなー! 帰ってきたよ、あたしよ、あたし!! 花嫁ちゃんよ!」

 「私」の声に下位の魔物でさえざわつく。

「奥様はあんなやつじゃない」「奥様はもっと気高い」とざわついている中、ゼロは哄笑し、面倒くさそうに振り返って「私」を指さした。


「……ほほう、貴様が? ……大層面白そうなことをしているな、じゃれてないでいい加減我が花嫁を返して貰おうか、神よ」


 今まで、貴方じゃないときっぱりと言い切ってきた魔物達だったけど、神だと言い当てたのはゼロただ一人だった。

 つかつかとゼロは「私」に歩み寄り、胸ぐらを掴み苦しい顔つきを見届けると、ぱっと手を乱雑に離し「私」を突き放す。

 私は信じていたけれど、嬉しさのあまりに涙をこぼしてしまう。


「いいか、余が与えたのは身体だけではない。その髪一本とて、爪一枚とて大事な贈り物だったのだよ。身体だけ使って騙そうとするとは、流石陰湿な神だ。謀は飽きた、さっさと余の前に正真正銘のウルシュテリアを連れてこい、目障りだ」


 そう、貴方から貰ったその名前を。私は告げたかったの。

 それが私だって名乗りたかったの! 私の中で何かガラスのような物がばりんと割れた感覚を覚え、私は自分を「ウル」と名乗る行いが出来る行為を取り戻せた。


 「私」は「私」で別の意味で泣いていた。

 悲しい顔をして、涙を堪えていた。嘘だあり得ないと現実を未だに受け止めきれず震えて、頭を抱え込んでいる。

 意地だけで泣きたくない様子でもあった。



「どうして!? どうして、誰一人あたしを認めてくれないの!? あたしに帰る場所はないっていうの!?」

「……耳障りだな、悲劇気取りか」

「やめて! あたしよ、何でよ! あの新しい神と何が違うのよ!? あの子と同じ魔力で、あの子と同じ一万年に一人の乙女よ!?」

「……そんな価値観だから神だったのだろうな。お前は何をしてきたか覚えているか? 覚えていないだろう。ウルは、我が花嫁はここに居る魔物全て治癒してきた勇ましい真に認められた我が妃なのだよ。身体だけで名乗るな、穢らわしい」

「なんでッ……なんでよ!! こんなんじゃ、何のためあたし、自由を得たのかわかんない……ッ。誰か、誰かあたしを認めてよ――此処にいていいって言ってよ!!」

「もういいでしょう?」


 「私」の肩にヴァルシュアの手が乗った。

 ふよふよと水疱に載りながら、ヴァルシュアは水疱に寝転び悲しそうな表情を浮かべている。

 ヴァルシュアと目が合えば「私」は驚いた顔をし両目を見開いた。




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