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第八話 骨の羽根への嫌悪と雪の奇跡

 どすんどすんとラクスターは、大筒を打ちながら私にバリアの結界をかけた。

 次々と繰り出される攻撃に黒煙は上がるが、当たったらしい兄と呼ばれた天使は無傷だ。

「お遊びに付き合えば、そこのお嬢様を連れて行って構いませんね?」

「連れていけるもんならな!」

「そう。では全力で参ります……愚かな僕の弟」

「ルネ、オレもお前をそう思うよ!」


 兄――ラクスターのお兄さんはルネと言うらしい。

 ルネは片手で綺麗に水平のラインを描いて、何かを長く詠唱する。

 その間にラクスターは魔法なり大筒なりで攻撃しているっていうのに、一切傷つきはしない。バリアを張っているのだと分かってはいるが、バリアを崩すにも力尽くで押し切らないと駄目だと前に習ったから、バリアを壊す為に蓄積ダメージをラクスターはためている状態なのだろう。

 ルネはバリアにダメージを与えられているというのに、平然とした表情で水平に描いていた手を縦にすっと品良く下ろした。

 その瞬間、幻が見えた。幾人ものペガサスに乗った天使の幻が何千にも見えて、ラクスターめがけてやってくる。

 ラクスターはまずいと思ったのか、自分にもバリアを張ろうと詠唱した刹那――それはきた。

 だだん、と一気に大きな雷がラクスターを打った。

 天使達の幻がひとまとめになり、雷の形をして、ラクスターへ直接ぶつかったのだ。

 私は駆け寄ってラクスターを抱きかかえる。

「ラクスター!」

「……うう」

 ラクスターは黒焦げになりかけていたが、自分自身に回復魔法をかける。

 それでも、見目の焦げが少し取れるくらいで、疲弊もしていたし、攻撃に痛みも伴っている様子だった。

 外の様子に気づいたシラユキが、窓を開けて「敵兵!」と大声で周囲の魔物に伝える。

 シラユキは空から雪を降らし、自分の攻撃弾となる存在を用意しておく。

 ふらりと雪が降る――その光景にラクスターは仄かに笑った。


「オレ、さ」

「喋らないで、ラクスター」

「いいんだ、オレさ。最初、アンタのこと嫌いだったよ、アンタの所為で階級ランク落とされた部分もあったし――でも、一番嫌いなのは、世界で一番嫌いなのはこの羽根だ」

 服を破って、背中から骨が現れる――骨の羽根。

 ラクスターは目に見えて体温を失っている、嫌、嫌よ、消えないで!

「あいつ、くそずるいんだ……本当。嫌になる……嫌に。何が、奇跡だ。オレは雪の日に、羽根を失ってさ……雪に、奇跡なんて……何で……綺麗な羽根が六枚もあるんだよ、あれは、オレもあったはずなのに……」


 ラクスターがこときれそうだった。意識が朦朧としてるらしい。

 私は慌てて回復魔法を使おうとするも、意識がクラクラとする。

 具合が悪くなっても良い、それよりもラクスターを助けたかった。


「私みたいに死なせたくないッ、お願い、ゼロ。私に力を――!!」


 くらくらとする意識の中大声で叫ぶと、一気に場は燃えさかった。

 ラクスターは大きな金色の炎に包まれる。

 ふらへふらへと燃え上がる、金色の炎は強い生命力を感じさせてくれた。

 くらくらとし、がんがんと頭痛がしても魔法を念じ、使い続ける。


「我が金色の頂よ、この者に大いなる祝福を――!」


 咄嗟に脳裏に過った詠唱だった、それは本能で学んだ詠唱だった。

 それで十分だったのか、金色の炎はラクスターを宙に浮かばせ燃やすと一気に消え、現れたラクスターは蒼髪になっていて、目が金色。背中の骨だった羽根は――黒く邪悪な、しかし雅やかに美しいふさふさの鴉みたいな羽根となって生まれ変わっていた。





「……ラクスター様」

 ルネが大きく動揺し。近づこうとした瞬間、ラクスターが何か一言人語ではない言葉で詠唱しただけで、ルネは赤い炎に燃やされる。

「うわあああ!!!!!!!! っく、覚えていなさい、また来ます。いつか、お前達二人は後悔し、天へと来るだろう!」


 ルネは燃えながら一瞬で消えて去って行った。

 連れの天使達につかつかとラクスターは近づき、笑いかける。

「はろう、マイダーリン♡ 邪魔だから出て行ってくれねえ?」

「ひ、ひい、堕天だ、堕天使が産まれた!!!」


 連れの天使たちは鳥かごから解放されるなり、真っ白な綺麗な羽根で立ち去った。


「お前の魔力は、大きすぎて封印されていたのかもな……下手したら勇者よりも、魔王よりもある」

「ラクスター! 良かった!」

「あーあ、お前の力で蘇ったからオレもお前の眷属入りかあ。無許可に勝手なことしてくれるぜ」


 ラクスターは笑って、まじまじと振り返り、大きな黒い羽根を見つめる。


「コンプレックスまで埋めるしさ。マジ何なんだよ、お前」


 私に笑いかける笑顔は、何かから解放され清々しささえ感じるラクスターであった。


 ばさりと大きく羽根が広がり、シラユキからの雪により、徐々に白く染まっていくその姿は先ほどのルネと変わらない。

 天使様と誰かが信仰してもおかしくないほど、神々しい姿であった。


「雪の奇跡、信じてもいいかもな」






 雪遊びをしているラクスターとシラユキ。子供のようにきゃっきゃと騒いでいる。

 それをゼロと窓辺から見つめて笑い合う。


「ゼロ、ねえもしかしてゼロは――私を次の魔王として生まれ変わらせてくれたの?」

「同じくらい偉大な存在でなくば誰もお前を認めてくれないだろう。無理矢理認めさせたまでだ、幸いお前には埋もれてる才能がある」

「何の才能?」

「人に慕われる才能、それと――無限の魔力の坩堝がお前には眠っている。魔王としてこれほど相応しい存在はいない」

「ふふ、それなら私とゼロは対等ってことでいいのかしら?」

「そうだとも、我が乙女よ」


 ゼロは私の手の甲にキスをし不敵に笑う。


「あまり無闇に人を誑し込むな、妬いてしまうよ」

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